ボンネビルにてEVバイクの世界記録を樹立!

329km/h(204MPH)を記録した日本の電動バイク、モビテックEV-02Aとは?

  • 2019/12/19
EV-02A

2019年夏、アメリカのボンネビルにて日本の企業が製作したEV(Electric Vehicle)のバイクが、電動バイククラスの世界最高速度記録を更新し、新たに329km/hの金字塔を打ち立てた。その全容を紹介していこう。

BMSTとは[Bonneville Motorcycle Speed Trials 2019]

ボンネビルでは最高速を競う大会がいくつか行われており、主なものが過去に本誌でも取り上げたチーム38がNinja H2で参戦したボンネビル・スピードウィークと、今回モビテックが参加したBMST(ボンネビル・モーターサイクル・スピード・トライアルズ)となる。ボンネビル・スピードウィークは100年以上の歴史のある大会で、バイク以外にもクルマやロケットカーも参加して行われる。一方、BMSTはバイクだけで行われる大会で、記録はFIM(国際モーターサイクリズム連盟)の公認記録となる。

自動車業界で培った技術で世界記録更新に挑戦

ボンネビルとはアメリカのユタ州にある塩湖が干上がった広大な平原のことで、ボンネビル・ソルトフラッツとも呼ばれている。毎年夏にこの平原を利用して最高速記録に挑戦する競技が行われるが、この競技でモビテックの「EV-02A」が電動モーターを動力源とするEVバイクの世界記録を更新。2011年に記録された316.9㎞/hを更新して、329㎞/hを記録したのだ。

EV-02A
プロジェクトメンバーでの集合写真。鶴田竜二のとなりの小柄な男性は水谷一利氏で、BMSTにハーレーで参加していた経験を持つ。プロジェクト初期から加わり、ライダー兼アドバイザーとして活躍する。
EV-02A
ライダーは鶴田竜二!】 2019年のBMSTでは、鶴田竜二がライダーを担当。本誌企画で見せた最高速アタッカーの実力をいかんなく発揮して、プロジェクトの成功に貢献した。

この大記録を打ち立てたモビテックは自動車関連企業で、実はバイク業界との関わりはないという。では、今回なぜEVバイクで最高速記録に挑んだのか。この挑戦は同社の社内プロジェクトの一環で始まったもので、新たな技術への挑戦、そして培ってきた技術の具現化を目的に社内有志が集まって「世界最速のEVバイク」の製作を目標に掲げてはじまったのだ。

プロジェクト自体は2011年からはじまり、試作機などの製作を経て、2015年からは初号機「EV-01」でBMST(ボンネビル・モーターサイクル・スピード・トライアルズ)に参戦を開始。しかし、参戦初年度は天候不順によるコース状況の悪化で大会が中止。2016年は大会が開催されたものの、わずか数メートルを走ったところで転倒してしまう。マシンを修復して再度競技に参加するも、記録は158㎞/hにとどまる。しかし、ここで屈することなく、問題を洗い出しては改良を加えていき、2017年は248㎞/h、そして2018年は296㎞/hと記録を伸ばしていく。

EV-02A
アメリカ、ユタ州にあるボンネビル・ソルトフラッツは広大な塩湖が干上がってできた平原で、最高速チャレンジが行われている。モビテックが参戦したBMST以外にも競技会が行われている。

そして2019年、本誌の企画でカワサキH2Rで400㎞/hに挑むなど、日本で最高速チャレンジを任せたら右に出るものはいないであろう鶴田竜二がライダーとしてこのプロジェクトに参加。最高速アタッカーとしての豊富な知識と経験により、EVバイクの世界新記録となる329㎞/hを記録して、見事偉業を達成したのだった。

EV-02A
MOBITEC EV-02A Bonneville special
2018年のEV-02からの大きな変更点は外装で、ドライカーボン製にすることで10kgの軽量化を実現している。ただ、塗装が間に合わずカーボン地のままとなっているが、太陽光で車体が高温になってしまったという。

車体サイズ(全長×全幅×高さ):2,360mm×689mm×1,120mm
車体重量:338kg
フレーム:パイプフレーム構造(メインフレーム:炭素鋼鋼管/スイングアーム:アルミ)
ホイール:アクティブ ゲイルスピードTYPE-GP
フロントフォーク:スズキGSX1300R HAYABUSA
リアショック:アクティブ ハイパープロ
モーター:YASA-750(ブラシレス3相PMモーター)×2
コントローラーSEVCON-SIZE10(ACモーターコントローラー)×2
バッテリー:リチウムイオン電池(セル:日立マクセル/モジュール:Micro Vehiche Labo)

技術の集大成 参戦5年目で結実

EVバイクによる世界記録の更新を達成したモビテック。しかし、大記録を打ち立てるまでの道のりは、決して平坦なものではなかった。

参戦初年度の2015年は天候不順で大会中止。そして2年目の2016年はスタートしてわずか数秒で転倒するなど、なかなか思いどおりにはいかなかった。もちろん、国内ではJARI(日本自動車研究所)で実走テストは行っていたのだが、ボンネビルとの路面状況の違いや直線距離が短いことから、ボンネビルを想定しての十分なテストはできなかったのだ。さらに3年目の2017年はボンネビルの路面コンディションが悪く、持ち前の性能を発揮するには至らなかった。

EV-02A
ボンネビルは高地にあり、日差しが強く気温も高いことから、マシンの整備はテント内で行われた。湿度は低いため、テント内は蒸し暑くはないのだ。

EV-01A/Zで課題となったのが高速走行時の振動で、振動は様々な要因で引き起こされており、根本的な解決策がなかなか見つからなかったのだ。また、EV-01A/Zは空気抵抗を減らすとともにバッテリーなどを収納するスペースを確保する狙いで低重心、ロングホイールベースを採用したが、そのためにライダーの乗車姿勢も特異なものとなり、バイクを操縦するのが難しかったのだ。そのため、EV-02では一般的なバイクのディメンションを採用してライダーがバイクをコントロールできるように改良。重心位置なども見直し振動対策を施すとともに、ライダーが積極的にコントロールできるバイクにしたのだった。

しかし、EV-02で臨んだ4年目の2018年は高速走行時に発生した車体振動が起因して転倒してしまい、初年度からライダーとしてプロジェクトに参加していた水谷一利氏が負傷し、さらにケガの回復が長引いてしまう。そのため、5年目の挑戦となった2019年はライダーに鶴田竜二を起用し、水谷氏は監督としてチームに帯同することに。また、ライダー変更に合わせ、ポジションを見直すとともに、振動対策で足まわりのセッティングを煮詰めた改良型のEV-02Aで臨むこととなった。なお、このプロジェクトも5年目の参戦を節目として終了することが決まっていたため、今年が最後の挑戦でもあったのだ。

EV-02A
参戦最後の年に目標達成!

モビテックが毎年参戦するBMST(ボンネビル・モーターサイクル・スピードトライアルズ)の競技は5日間の日程で行われ、ボンネビルに設けられた5マイルの直線コースのちょうど中間に設けられた1マイルの速度計測区間での平均速度を計測。往路と復路の2回走行を行い、その平均値が記録として認定される。EV-02Aは初日から3日目まではトラブルに見舞われるが、徐々に速度記録を伸ばしていく。搭載するバッテリーは高出力ではあるが、その反面消耗しやすいため、走行データを確認しながらバッテリーの制御を可能な限り引き上げていき、4日目に記録更新を狙って勝負。バッテリーの制御範囲を限界まで引き上げて、まずは往路で平均速度324.9㎞/hを記録すると、復路で333.9㎞/hを記録。その平均値は329.4㎞/hとなり、それまでの記録を更新して世界記録と認定されたのだ。

ここまでくるには様々な試練があったが、それを乗り越え、モビテックのEVバイクプロジェクトは世界記録更新という最高の結果で結実。同時に、鶴田が「H2Rのよう」と驚く加速力とEVバイクの可能性を示したのだった。

EV-02A
EV-02Aの外装を外した状態。車体真ん中の円形のものがモーターで、薄型のものを2つ搭載している。その前の箱状のものがバッテリーだ。

世界最速のEVバイク その進化の過程

プロジェクトは2011年にスタート

モビテックのEVバイクプロジェクトは2011年よりスタートし、最初は市販バイクを改良したEVバイク「零号機」を製作し、プロジェクトの事前検証を行う。その後、2013年に初号機となるEV-01を製作し、国内でテスト走行などを行ってから2015年よりボンネビルに参戦。天候不順による大会中止や転倒などの困難を経験しながら、EV-02へとマシンを進化させていったのだ。

EV-02A
零号機のベースはホンダのNS-1で、エンジンはモーターに置き換え、またタンク下のメットインスペースが電気関係部品の収納に活用できるため採用された。
EV-02A
2016EV-01A
最高速を狙うEVバイクプロジェクトのため、前面投影面積を極力小さするとともに、ロングホイールベースで電動パーツの搭載スペースを確保する設計となっている。重量があるバッテリーを車体中央に配置し、車体後部に配置された2基のモーターが直接後輪を駆動させている。
EV-02A
2017EV-01Z
マスの集中化を目的に、モーターの搭載位置を車体中央に寄せるように変更し、チェーンを介した駆動方式を採用する。また、唐突な加速を抑制し発進時の操作性を向上させる目的で電流カットレバーを採用するほか、リヤタイヤのスリップを検知しての制御も行う。
EV-02A
2018/2019EV-02A
車体振動対策、そして荒れた路面への対応を目的に、車体構成を大幅に変更。一般的なバイクのディメンションを採用し、重心高を上げ、全長全幅を短縮することで運動特性を上げてライダーの操縦性を向上させている。また、路面への追従性を上げるためリヤショックも搭載する。
EV-02A

このプロジェクトのまとめ役を務めたプロジェクトマネージャーの小森英祐氏。

EV-02A

車両開発責任者兼電装設計リーダーの河合浩平氏。バッテリーの制御なども担当する。

EV-02A

車体の設計のほか、セッティングなども担当した車体設計リーダーの田井中聡氏。

EV-02A
BMSTでは201マイル(約320km/h)を超えた速度を記録したライダーやチームに栄光の記念キャップが贈呈されるほか、記念コインも進呈される。なお、BMSTの記録はFIM(国際モーターサイクリズム連盟)の公認記録となる。
EV-02A

取材協力:モビテック

株式会社モビテックは愛知県に拠点を置くモノづくりの設計・開発企業。近年では、自動車業界で培った設計ノウハウを基に高精度な3Dスキャン・リバースエンジニアリングを多方面で展開する。EVバイクプロジェクトは愛知県刈谷市にあるテクニカルセンターのエンジニアが行った。
愛知県刈谷市末広町2-3-13(テクニカルセンター)
TEL:0566-21-6600 https://www.mobitec.co.jp/

●写真:増井貴光、モビテック ●まとめ:山下博央

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