暗闇に遠くから幾多の光芒が射す。あるものは一際強い光を放って過ぎ去り、あるものは留まり今も輝き続ける。――過去半世紀に及ぶ二輪史において、数々の革新的な技術と機構が生み出された。定着せず消えていった技術もあれば、以降の時代を一変させ、現代にまで残る技術もある。しかし、その全てが、エンジニアのひらめきと情熱と努力の結晶であることに疑いはない。二輪車の「初」を切り拓き、偉大なる足跡を残した車両を年代順に紐解いていく。
※本稿で取り挙げる「初」は、“公道走行可能な量産二輪市販車”としての「初」を意味します。また、「初」の定義には諸説ある場合があります。
世界初FI「燃料噴射を電子制御! 見事な先見性だ」KAWASAKI Z1000H[1980]
幅広い現行モデルに普及している電子制御燃料噴射システムのFI(フューエルインジェクション)。出力を得やすく、燃費も優秀なFIを初導入したのが本作だ。Z1000Mk.IIをベースに、4輪のボッシュ製FIを2輪用に調整して搭載。エンジンへの空気流入量からコンピュータで最適な比率の燃料を噴射した。応答性は今一つながら、実に先進的だった。
公道向けはFIを採用
レース向けの後継機はキャブを継続
世界初フルドレスツアラー「名実ともに最強グランドクルーザーに」HONDA GL1100 INTERSTATE[1980]
フルカウルにサイドバッグ&トップケースを組み合わせた「フルドレス」を標準装備した初のモデル。GL第2世代のGL1100は1980年に登場し、水平対向4気筒を999→1085ccにボアアップ。フルドレスのインターステートを追加し、グランドツアラーの資質を高めた。
世界初アンチノーズダイブ「ケニーのインを刺す武器」SUZUKI GSX750E[1980]
スズキのWGPレーサー=RGB500は、ブレーキ油圧を利用してフロントフォーク内のオイル流量を変化させ、前方への沈み込みを抑えるANDF(アンチノーズダイブフォーク)を採用していた。これを市販車に初搭載したのがGSX750Eだ。本来「ケニー・ロバーツのインを刺す」ために開発されたと言われ、各社のスポーツ車がこぞって採用したが、不自然な動きを嫌う者も多く、1980年代後半には廃れた。
「兄貴分にはANDFナシ」SUZUKI GSX1100E[1980]
750と共同開発された旗艦。当初1000ccで試作したが、ヤマハがXS1100を発表したため、1100ccに方針を変更。1980年に発売された。CBXと同格の105psを発生し、高剛性なダブルクレードルフレームを採用。ANDFは非採用で調整機構付きの前後サスを備える。アルミボックス製スイングアームも独自の装備だ。
「発展形の刀にはANDFアリ」SUZUKI GSX1100S KATANA[1981]
性能は抜群ながら、デザインが不評だったGSX1100E。その反省から外部の独ターゲットデザイン社にスタイリングを依頼した。BMWから独立したハンス・ムートらスタッフが、日本刀や武士道をモチーフとしたコンセプトを提案。これを元にGSX1100Eベースで製作したのがカタナである。斬新な造形美とスポーティな走りで瞬く間に大ヒット。国内には認証の関係でスクリーンレス&大アップハンの750が登場した。ともにANDFを装備。
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