この夏はバイク三昧を楽しんでいます

世界GP王者・原田哲也のバイクトーク Vol.16 「反応速度の話と、チャンピオン争いに必要な走り」

  • 2019/9/1

1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第16回目は、アレックス・リンスの見事な判断力と、ファビオ・クアルタラロのこれからについて。

TEXT:Go TAKAHASHI

MICHELIN

リンスはその様子を見て、きっちりラインを変えた

MotoGP第12戦イギリスGPは、優勝したアレックス・リンス(チーム・スズキ・エクスター)が本当にスゴかった! 上位進出する予感はありましたが、勝つのは厳しいだろうと思っていました。いやあ、さすがMotoGPという素晴らしいバトルでしたね。舞台となったシルバーストンサーキットは、2016年、当時スズキに乗っていたマーベリック・ビニャーレスが初優勝を挙げたコースです。スズキとの相性も良いのでしょう。

最終ラップの最終コーナーでリンスに抜かれたマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)は、「ブロックラインを通ったけど、フロントにチャター(微振動)が出てスロットルを開けられなかった」とコメントしていましたが、その様子を後ろから見ていたリンスがきっちりラインを変えた。見事な判断力と、それが瞬時に筋肉に伝達される反応速度には驚かされました。

バイクに乗るためのトレーニングも、「ただ筋肉を鍛えるのではなく、反応速度も鍛えた方がいいな」と最近つくづく思います。というのは先日、トライアルバイクで転んでしまいまして……(笑)。

普通に山を下ってきて、あと50mというあたりでアクセルが引っかかって戻らなくなり、バイクだけ前にスポーンと進んでしまい、体が置いていかれてドスン、です。娘たちの目の前だったので、「パパなにしてんのー」とケラケラ笑われてしまいました。

トライアルGPを観戦してから、ますますトライアルの魅力にハマっている原田さん。

今回はメカニカルトラブルでしたが、とっさに反応できなかったのは確かです。現役時代だったら瞬間的に筋肉が反応し、クラッチを握るとか、下半身ホールドを強めるなどして対処できたはず。転んで娘たちに笑われながら、「うーむ……」と考えさせられました。

こうなるとトレーニングも大事ですが、以前忠さん(SP忠男の鈴木忠男社長)に言われたみたいに、「無理するな、ゆっくり走れ」が正解なんだなと思います。忠さんみたいに、いつまでもバイクに乗りたいですからね。

さて、話はイギリスGPに戻ります。抜かれた側のマルケスはタイヤ的にいっぱいいっぱいだったこともありますが、正直、相手がリンスで油断していたんじゃないかと感じました。というのは、もしドヴィツィオーゾとのトップ争いだったら、途中であえてドヴィを先行させて後ろから様子を見たんじゃないかと。

後ろがリンスだと知ったマルケスは、「それなら勝てるな」と自分の走りに集中したのでしょうが、リンスの方がラインの自由度が高くてバッサリやられてしまった、というレースだったように思います。少しリンスを先行させて後ろから様子を見ていれば、最終ラップ、最終コーナーのライン取りも変わっていたかもしれませんね。

素晴らしい走りを見せたクアルタラロ、今後は走りが変わる?

話はもう少し遡り、イギリスGPの1周目。ファビオ・クアルタラロ(ペトロナス・ヤマハ・SRT)が転倒し、そこにアンドレア・ドヴィツィオーゾ(ドゥカティ・チーム)が突っ込むという不運なクラッシュがありました。ドヴィツィオーゾが宙を舞い地面に叩きつけられたので心配しましたが、無事ということで一安心。ただ、これでチャンピオンシップはほぼ決まってしまいました。

クアルタラロは、前方で挙動を乱したリンスを避けようとしてアクセルを戻し、トラクションが抜けての転倒なので、これは仕方なかったかな……。いわゆるレーシングアクシデントのひとつだと思います。

予選は4位と好調だったクアルタラロ、決勝を走っていれば表彰台には立てたでしょうから、残念ですね。クアルタラロは本当に速い! でも、決勝で勝てるライダーになるために、そしてチャンピオンライダーになるためには、走り方が変わって行くんだろうな、と思います。

Quartararo, British MotoGP 2019
オーナリングスピードが速いクアルタラロの走り。チャンピオン争いに加わっていくには……。

今のクアルタラロは、とにかくコーナリングスピードが高く、それを武器にしています。でも、決勝の最後までタイヤを保たせられない。さらに言えば、どうしてもサーキットによってその走りができる所・できない所が出てきてしまうので、シーズン通してのチャンピオン争いをするには不利なんです。チャンピオンになるには、どのサーキットのどんなコンディションでも、安定して好成績を残すことが必要ですからね。

クアルタラロの走りについて、マルケスが「僕も昔はああいう走りができたんだけどね……」と言っていたし、実際そうだったと思います。でも、チャンピオンを獲るために、マルケスの走りは変わっていった。「変えた」というより、「変わった」 。チャンピオンになるためには、マシンが深く寝ているところでアクセルを大きく開ける走りはできなくなってしまうんです。マシンを寝かせる時間をいかに短くするか。いかに早くマシンを起こしてアクセルを開けるか。そういう走りじゃないと、タイヤをマネージメントできないからです。

クアルタラロは、今の走りのままでも何度かは勝てるでしょう。でも、シーズンをコンスタントに戦うためには、いつか走りが変わるはず。厳しい言い方になりますが、もし変わらなければ、チャンピオン争いをするライダーではない、ということだと僕は思います。

好天続きの夏はバイク三昧で

いろいろと熱いMotoGPでしたが、僕は本当に暑い夏を過ごしました。というのは、モナコの家のエアコンが壊れてしまったんです。友人からダイソンの羽なし扇風機を借りてしのぎましたが、モナコの気温は35℃……。さすがのダイソンでも厳しい……。というわけで、家族とイタリアの別荘に避難しています。まぁ、毎年恒例の夏休み避暑なんですが(笑)。

モナコの家とイタリアの別荘は約90km、バイクだと1時間半ぐらいかな。僕は用事があってドゥカティ・スクランブラーで何度か往復していますが、ショートツーリングには最高です! 何しろ別荘のあたりは高度が高く、涼しいどころか気温は12℃になったりして寒いほどなんです。信号がひとつぐらいしかない長いワインディングロードをのんびりと楽しんだり、ルートを変えて海沿いを行ったりと、楽しみまくっています。

イタリアの友人とは、トライアルバイクでキノコ狩りに出かけました。「キノコの王様」と呼ばれているポルチーニがあるということだったんですが、結局見つからず、スーパーマリオに出てきそうなキノコしか見つけられませんでした。食べるとおいしいということでしたが……。

標高2500~2600mくらいまで上る。いろんな意味でヒンヤリ

キノコ狩りを諦めてからは激しいアップダウンを走り、大汗をかきながら標高2500~2600mぐらいの地点まで上りました。いや~、やっぱりトライアル面白いなぁ! 時にはケモノ道みたいな所を通り、「この崖、落ちたら死ぬぞ……」みたいな箇所もあって、もはや運動の汗なのか冷や汗なのか分かりません(笑)。

モナコではスクランブラーでゴルフに出かけたり(クラブなどを預けられるので、リュックに着替えだけ詰めていけばOK)、この夏はバイクのある生活を思いっ切り堪能しています。ずっと天気がいいからかな。バイクがピカピカじゃないと気が済まない僕にとって、好天続きの夏は「バイク三昧の夏」です!

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原田哲也

原田哲也

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1993年ロードレース世界選手権(WGP)250の世界チャンピオン。1992年に全日本で同クラスのチャンピオンを獲得し、翌年に初挑戦のWGP250で戴冠した。現役当時のニックネームは「クールデビル」。'02年に現役を引退し、現在はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。