苦戦の続いたヤマハYZR-M1編

【予習&復習】’19シーズン開幕直前! MotoGP 2018シーズンを青木宣篤が斬る![#3 ヤマハの走りを取り戻す]

ホンダに3連覇を許した。コンストラクターズタイトル争いでは、ドゥカティの後塵を拝した。ヤマハは苦しい戦いを続けている。リヤタイヤの十分なグリップを得て、自分たちが武器とする走りができる日は、いつか……。

Text:Go Takahashi Photo:YAMAHA/YOUNG MACHINE

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YAMAHA YZR-M1

#46 VALENTINO ROSSI(バレンティーノ・ロッシ)/#25 MARVERICK VINALES(マーベリック・ビニャーレス)

ヤマハ YZR-M1 #46 バレンティーノ・ロッシ車

ブレーキングからのターンインで 鋭い走りを取り戻す時まで

「モトGPになってから、2番目に悪いシーズンでしたね」

’18年についてそう指摘されたヤマハMS開発部・辻幸一部長は、「’03年以来ですね……。あの年は、(表彰台自体が)フランスGPで3位になった1度だけでした」と応えた。

グランプリ最高峰クラスが「MotoGP」と呼称されるようになったのは’02年のことだ。4スト990ccエンジンが使用可能になり、それまでの2スト500ccマシンと混走した。その年、ヤマハはマックス・ビアッジが2勝を挙げている。

翌’03年には、全車4ストエンジンになった。ヤマハはカルロス・チェカ、アレックス・バロス、中野真矢、オリビエ・ジャック、マルコ・メランドリ、阿部典史と錚々たるライダーを擁しながら、0勝。コンストラクターズタイトルでもニューカマーのドゥカティに敗北する始末だった。

青木宣篤の上毛GP新聞

ヤマハ発動機 MS開発部 部長 辻 幸一さん:F1のエンジン開発、MotoGPグループリーダーなどを経て、ヤマハレース活動を統括する現職に就いた。「ヤマハらしい走りができるYZR-M1」を作り込むことで、タイトル奪還を狙う。

悪夢のようなシーズンから15年を経た’18シーズン、ヤマハはマーベリック・ビニャーレスが辛うじて1勝を挙げるに留まった。タイトル争いでは、ホンダに3連覇を許している。

ヤマハが最後にタイトルを獲得した’15年は、各メーカーが独自に開発した高度なECUを使用しており、タイヤはブリヂストン製16.5インチのワンメイクだった。

’16年には、電子制御の開発コストを抑えるためにECUが共通化された。さらにタイヤはミシュラン製17インチのワンメイクに。それ以降、ヤマハは’16年6勝、’17年4勝、そして’18年は1勝と、明らかに苦戦が続いている。

この3シーズンでヤマハに何が起こり、どこに解決策を見出しているのだろうか? 辻はまず、ヤマハの強みについて語り始めた。それは核心とも言える重要な話だった。

「我々ヤマハのマシンがどこで勝負するかというと、ブレーキングからのターンしかないんですよ。それは今シーズンに限らず、昨シーズンだろうがその前だろうが、もっといえば2スト時代だろうが、変わらない。我々は、常にそういうマシン作りをしている。というより、『そういうバイクしか作ることができない』と言う方が正しいのかもしれません」

ヤマハのレーシングマシンの走りには、確かに「華麗な」と表現したくなる独特な美しさ、そして滑らかさがある。辻の言葉通り、ブレーキングからコーナリングにかけてのパートがYZR‐M1の武器だろう。

ブレーキングからコーナリングにかけてがヤマハ本来の武器。

辻は「もし、まったく同じマシンを各メーカーに与えて1年間戦ったら、最終的にどんなマシンに仕上がるか?」という例え話をする。

各メーカーは、間違いなくそれぞれの特色を生かしたマシンを作り込んでいくだろう。ドゥカティはパワフルで、ホンダは加速の良いマシン。そしてヤマハはブレーキングからコーナリングが強いマシン……。

それが、いつの時代のどのレギュレーション下でも好成績を収められるものかは分からない。しかし辻は、「我々はずっとそうやって戦ってきました。そしてチャンピオンを獲ってきた、という経緯もある。それは簡単に変えられるものでも、変えていいものでもないんですよ」と言う。

各メーカーには、それぞれの技術的な蓄積というものがある。開発者を通じて積み重ねられた経験値がある。そういった「歴史的資産」に基づいて、マシンを開発するのだ。

その繰り返しが「らしさ」を生む。メーカーごとの特徴や特色、あるいは個性や美学とも呼べるだろう。それを際立たせることができれば――レースなら戦績が伴えば――、メーカーにとっては大きな価値となる。

バランスは大事でも、理想形を追求したい

一方、それが特定の条件下でうまく機能しない時は、逆に大きなデメリットになりかねない。こだわりは、諸刃の刃なのだ。

もちろん、そんなことを辻はとっくに承知している。そのうえで、「我々のやり方をより高める、より突き詰めるしかない。それが我々の考え方です。今シーズンもそう、来シーズンも変わりません」と言い切る。

ECUが共通化されようが、タイヤがミシュランの17インチになろうが開発思想は変えない、と言うのだ。それがヤマハのやり方だ、と。

ホンダとは明確に違う。ホンダは「ブレーキングから旋回にかけてヤマハに負ける」となれば、ブレーキングと旋回で勝てるマシンを作る。相対的に加速力が見劣りすれば、加速力を高める。そして結果的にトータルパフォーマンスを向上させる。

ヤマハは、そうではない。辻は、「今のM1は、自分が思う『ヤマハのバイク』じゃないんですよ」と言う。

「例えば、ルマンサーキットの2コーナーでライバルのインを刺して、そのまま切り返しで抜いて行く。ツインリンクもてぎの最終シケイン進入でインに飛び込んで、そのまま抜く。そういうのがヤマハのバイクだと思ってるんです。

無理矢理突っ込んでインに入ってしまえば、そこからパンパンと切り返してそのまま前に出るっていうのが、ウチのバイク。今のM1は、まだそこにはほど遠いんです」

自分たちのやり方を、より突き詰める。それがヤマハの考え方だ。

勝つことを追い求めて開発の方向性を柔軟に変化させるホンダに対して、あくまでもヤマハとしてのバイクの理想形を追い求めているのだ。

良し悪しの話ではない。辻が言うように各メーカー固有の考え方だ。この3シーズンのモトGPチャンピオンシップだけを挙げれば、「連覇しているホンダが正解」と見えるかもしれない。だが、自分たちの開発方針を曲げることなく、苦しみを引き受けながら戦い続けるヤマハもまた、正解なのだ。

苦しみの中で転機を迎え’19年につなげていく

今、ヤマハが抱えている課題は、リヤグリップだ。’16年型M1はリヤグリップがレース終盤まで保たなかった。’17年型は、リヤグリップは保つようにはなったものの、いったんグリップダウンが始まった時の落ち込み度合いが激しくなってしまった。

そして’18年型は、前後荷重のバランスを取るなどさまざまな改善を加えながら、リヤグリップの課題をクリアしようとした。

第15戦タイGPは、ひとつの転機となった。「大きな修正を加えました」と辻は言う。「シーズンを通していろいろやってきたけど、どうもうまく行かない。『じゃあ』ということで、少し遠いところから攻めてみたんです」。それが第17戦オーストラリアGPでのビニャーレスの優勝――’18シーズン唯一の勝利――につながったのだった。

「考え方を変えなくちゃいけないところもあります。自分たちの枠を飛び出なくちゃいけないこともね」

それとても、理想形を追求する範囲内での話なのだ。

「ヤマハらしいバイクを作ること。それが優勝やチャンピオンの近道だと、強く思っています」

自分たちのスタイルを貫き通しながら、タイトル奪還をめざす。

青木宣篤の目[YAMAHA]

青木宣篤の上毛GP新聞

青木宣篤(あおき・のぶあつ):’93~’04 年まで世界グランプリに参戦。’97年には最高峰500ccクラスでランキング3位につけ、新人賞を獲得した。現在はスズキのMotoGPマシン、GSX-RRの開発に携わる。トレーニングマニア。

苦戦していたヤマハだが、確かに第15戦タイGPで調子が上向きになった。最初は気温が高いタイ向けにミシュランが用意した硬めのタイヤとのマッチングが良好だったのかと思ったが、それだけではなさそうだ。

いろいろな情報をもとに推察すると、どうやらバラスト(オモリ)を詰んで、荷重バランスをリヤ寄りにしたようなのだ。「えっ!? そんなカンタンなことで!?」と思うかもしれないが、シビアなレーシングマシンではバラストは結構有効なのだ。

しかもタイGPの前戦、第14戦アラゴンGPからわずか2週間。それほど大がかりな改善策が施せたとは思えない。付け外しが容易なバラストなら搭載可能だっただろうから、かなり信憑性がある。

タイGPで勢いを得たヤマハは、第17戦オーストラリアGPで久々に勝利を挙げた。マーベリック・ビニャーレスの独走だ。シーズン終了後の公式テストでもビニャーレスが好調っぷりをアピールした。

ただ、ここでヤマハがビニャーレス主導の開発を推し進めると、またドツボにはまる可能性がある。勢いに乗っているだけで、良し悪しを正確に判断できているか疑問だからだ。ここは押しも押されぬ大ベテラン、バレンティーノ・ロッシの意見を重視した方がいいような気もする……。

本当の課題はエンジン!?

’18シーズン直後の公式テストに、3スペックのエンジンを持ち込んだとされるヤマハ。’18年型に加え、ふたつの新しいスペックをテストした模様だ。スロットルを開けて向きを変えたいビニャーレスは、割とピーキーな特性のエンジンを好むはず。ところがシーズン全体でのコンスタントさを考えればマイルドな方がいい。さて、ヤマハのチョイスは!?

車体には車体の課題が

ミシュランタイヤになってからのヤマハは、なるべくフロントを使わずに曲がるマシンを作ろうとしているように見える。だからビニャーレスのように深いバンク角でザッとリヤを流す走りが決まった時は強い。ただ、それができるのはリヤが常に高いグリップ力を発揮していることが条件。今のままの「低くて長くて硬い車体」では難しそうなのだが……。

意外と(!?)線が細いビニャーレス(#25)。オーストラリアGP優勝で勢いに乗るのはいいが、冷静にマシンの出来を判断するにはロッシ先生の経験値が必要かも。

ある程度の高さを持たせるのが今のMotoGPマシン開発のトレンド。しかし青木宣篤さんの見立てではYZR-M1 の車体は「低く、長く、硬い」。ヤマハとして適正なバランスを取った結果だが、車高の低さによってリヤタイヤに十分な荷重をかけられておらず、それがグリップ不足を招いている可能性はある。もし青木さんの推測通り、タイGPでバラストを搭載したことで車体バランスが適正化されたのなら、’19年型は車体パッケージ全体を大きく見直す可能性がある。

ウイングレットの禁止に伴い、各メーカーはエアロダイナミクスフェアリングを装着するようになった。ヤマハは大型なタイプで、ダウンフォースの増大を狙っている。

リヤショックはオーリンズ製。上側はフレームではなく、エンジンのクランクケースに懸架されている。この取り付け方法に問題があるのではないか、と指摘する声も。

重量配分に配慮しながら、タンクカバー後端からシート下に配された複雑な形状の燃料タンク。バラストのほか、マスダンパーの搭載も噂されたが、位置はこの辺りか。

従来型から大きな変更はないコクピット。トップブリッジの大胆な肉抜きが特徴的。適正な剛性と軽量化を両立する。フロントフォークのアウターチューブはカーボン。

先進的な制御技術を用いていたとされるヤマハ。共通ECUになったことで、もっとも大きなダメージを受けたとされる。パワーを生かし切れる特性の作り込みが目下の課題だ。

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高橋 剛

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カート上がりのバイク野郎。心震わす原稿が得意で、あのスポーツ名門誌・Sports Graphic Numberにも寄稿したりしなかったり。セッティングさえ出れば怖いものなしの隠れ文豪。

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