ドゥカティ、スズキ、KTM、アプリリア編

【予習&復習】’19シーズン開幕直前! MotoGP 2018シーズンを青木宣篤が斬る![#1 各社のパッケージは?]

レースを取り巻く言葉は勇ましい。「第X戦」「バトル」「奪還」といった具合だ。レースは紛れもない戦い。世界最高峰のMotoGPともなれば、そのレベルは究極に高い。各メーカーは持てる技術の粋を尽くし、それぞれの「武器」を手に、この戦いに挑む。

Text:Go Takahashi Photo:Honda/YAMAHA/SUZUKI/DUCATI/APRILIA/REDBULL/YOUNG MACHINE

青木宣篤の上毛GP新聞

青木宣篤(あおき・のぶあつ):’93~’04 年まで世界グランプリに参戦。’97年には最高峰500ccクラスでランキング3位につけ、新人賞を獲得した。現在はスズキのMotoGPマシン、GSX-RRの開発に携わる。トレーニングマニア。

2018シーズンのテーマとなったのは……

1.共通ソフトウェア

トラクションコントロールを始めとするエンジン制御の要、ECU(エンジンコントロールユニット)。’14年からハードウエアを共通化、’16年からソフトウエアも共通化されている。

2.タイヤへの適合

MotoGPでは’09年からタイヤがワンメイク化されている。’15年まではブリヂストンの16.5インチ、’16年からはミシュランの17インチとなった。このタイヤへの適合がカギを握る。

3.ライダーのチカラ

MotoGPはれっきとしたスポーツ。着実に世代交代が進んでいる。特に4ストマシンで育ってきた「4ストキッズ」たちの活躍は目覚ましい。モト2からのステップアップも適応が早い。

2018シリーズランキングの推移

2018シーズンのポイントランキングの推移。中盤に#04ドヴィツィオーゾが調子を落とさなければ、タイトル争いは最後までもつれたかもしれない。

超ハイレベルな、静かな戦いを読み解く

エンジンはECU が共通化され、タイヤはワンメイク。それが今のMotoGPマシンだ。

GPマシンに4ストエンジンが使われるようになった’02年以降、電子制御はマシンパフォーマンスの重要なカギを握ることとなった。エンジンパワーが強大化したからだ。

ありあまるパワーは、素の状態では扱い切れない。強烈なエンジンブレーキをどうコントロールするか。コーナーの立ち上がりで、いかにパワーを効率よく路面に伝えるか。

課題解決の要となったのが、電子制御だ。エンジンの基本特性を司るほか、トラクションコントロール、エンジンブレーキコントロール、ウイリーコントロール、ローンチコントロールなど、電子制御は瞬く間に高度化し、開発コストも高騰した。

これを抑え、できるだけイコールコンディションを維持するために、ECUが共通化された。

タイヤも同様だ。複数メーカーが参戦していた時代は、ハイグリップとライフを追求しての開発競争が激化した。各ファクトリーチームは、自分たちのマシンにマッチングするスペシャルタイヤを求めた。

やはり開発コストを軽減するとともに、行き過ぎたグリップ競争によるハイスピード化を抑えるためにタイヤもワンメイクとなった。

エンジンとタイヤ。レーシングマシン開発にあたり、もっとも重要なふたつの要素が共通化されているのだ。正直なところ、ワタシが現役で戦っていた頃のGP500の方が、技術的なトピックスは多かったし、各メーカーの独自性や個性は強かったと思う。差も大きかった。

では、今のモトGPは面白くないのか。レベルは低いのか。もちろん、答えはノーだ。僅差のバトルは見応え十分だし、ライダーのテクニックも飛躍的に向上している。ライディングは極めて緻密で戦略的だ。

マシンも、3シーズンもほぼ同じレギュレーションを戦うと、その精度は凄まじい。限りあるタイヤグリップを1滴でもいいから絞り出そうとする。1psでもいいからパワーを有効に使おうとする。寸分の無駄もなく精密に組み上げられたマシンは、ある種、芸術品とも言える。

レギュレーションの縛りが厳しくなればなるほど、あらゆる意味での精度は高まる。マシン開発の現場では、超ハイレベルな、でも静かなバトルが、今も繰り広げられている。

DUCATI DESMOSEDICI GP18

#04 ANDREA DOVIZIOSO(アンドレア・ドヴィツィオーゾ)

#99 JORGE LORENZO(ホルヘ・ロレンソ)

’17 ~’18年の2シーズンとも、ホンダのマルケスを脅かしたのはドゥカティのアンドレア・ドヴィツィオーゾだった。ディレクターのジジ・ダッリーリャとの強力なタッグで仕上げられたデスモセディチは、近年最強の呼び声が高い。

ひときわ熟成が進んだデスモセディチGP18。高さが確保され、こうして見ても正方形に近い車体パッケージ。前後タイヤへの荷重のかけやすさを狙っているようだ。

革新的技術と確かな手腕が生んだ最強パッケージ

モトGPが全車4ストエンジン搭載となった’03年から参戦を開始したドゥカティ。’18シーズンまでの16年でタイトルを獲得したのは’07年、希代の天才、ケーシー・ストーナーが年間10勝を挙げた年だけだ。

独創的な技術に積極的にトライするのがドゥカティの持ち味だ。だが、あまりのユニークさが災いして、大きく外してしまうこともある。

’09年にはカーボンフレームを採用し、’11年途中まで使用したが、結局好成績を残すことはできなかった。ドゥカティは’12年からコンサバティブなアルミツインスパーフレームを使うようになった。

アンドレア・ドヴィツィオーゾを起用したのは、’12年末のことだ。マシンの開発能力に定評のあるドヴィツィオーゾは、地道にデスモセディチのパフォーマンスを上げていった。さらに’13年末にはゼネラルディレクターとしてジジ・ダッリーリャが加入。ドゥカティは急激に変わろうとしていた。

大きな変革は、’15年に起きた。「まるで日本車のよう」と言われたデスモセディチGP 15は、確かにそれまでのドゥカティとは一線を画し、コンパクトに、そしてステディにまとめ上げられていた。素性として曲がりにくい特性だったデスモセディチは、ドヴィツィオーゾが「頑張らなくても曲がってくれる」と喜ぶほどのマシンになった。

それでもジジは開発の手をまったく緩めない。GP16では、GP10でウイリー抑止を狙って付けたことがあるウイングレットを一気に大型化して採用した。

ワンメイクタイヤがミシュランにスイッチしてリヤグリップが高まり、相対的に不足気味に感じられたフロントグリップ、さらには共通ECUによって制御レベルがダウンしたウイリーコントロールを補足する効果に注目が集まり、エアロダイナミクスブームを巻き起こした。

’17年、GP17ではついにドヴィツィオーゾがホンダのマルク・マルケスとほぼ互角に渡り合い、ランキング2位に。謎の多いサラダボックス(シートカウル後端の箱)を始めとした技術には注目が集まったが、もともとの強みであるエンジンパワーはそのままに、それをしっかりと生かし切る車体の熟成が進み、近年のモトGPではベストマシンと称される仕上がりとなった。

さらにバランス取りを推し進めたGP18は、さまざまなレイアウトのコースで強さを発揮。ドヴィツィオーゾはシーズン序盤から中盤にかけてのノーポイントが響き、前年に引き続いてランキング2位に終わったが、マルケスとまっとうに戦えたのはドヴィツィオーゾだけ。ライバルチームからも「今年のドゥカティは最強マシン」と讃えられた。

’17年にヤマハから移籍したホルヘ・ロレンソは、最近のモトGPでは珍しく旋回速度重視のライダーだ。バランス取りが成功したとはいえ基本特性は「直線番長」のデスモセディチへの適応に手こずり、初年度は勝利を挙げられなかった。

だが2シーズン目の’18年はGP 18でついに3勝。ロレンソ自身がライディングを進化させたことを差し引いても、幅広い走りに適合するGP18の懐の深さを証明してみせた。

ドゥカティらしいチャレンジングな姿勢とスピーディーな開発は、今もまったく変わっていない。ダッリーリャの参画以降はそこにステディさが加わり、まとまりが増している。

超シビアなモトGPで好成績を収め続けることは、想像以上に困難だ。それでもドゥカティは、ドヴィツィオーゾとジジという経験値の高いふたりを軸にして、’19シーズンも王座のすぐ近くにいる。

ドヴィツィオーゾ車のコクピット。左ハンドル下には親指でリヤブレーキをかけられるサムブレーキを装備している。

青木宣篤の目[DUCATI]

共通ECUが導入されて以降、やや沈静化した感のある他メーカーに対して、唯一気を吐きまくっていたのがドゥカティだ。レギュレーションの縛りが厳しい中、何やらいろいろな技術的トライをしているのだが、かなりの秘密主義でほとんど表に出て来ない……。

サラダボックスと呼ばれるシートカウル後端の箱には、どうやらマスダンパーが収められていた模様。トラコン作動によって乱れがちなリヤの挙動を落ち着かせる効果を狙ったようだ。

その他、電気制御まわりでもナニかを企んでいたとウワサされるドゥカティだが、ロレンソの優勝によって素性の良さもアピール。ギミックだけではない底力を見せつけた。

ロレンソの見解

ドゥカティで2シーズンを過ごし、’19年はホンダに移籍するロレンソ。モトGPではヤマハ、ドゥカティ、そしてホンダを経験することになる。ロレンソのデスモセディチ評は、かいつまめば「デカくて長い」というもの。長いだけではなく高さもある車体なので、結果的に縦横比としてはまとまりよくバランスしていた。が、旋回速度重視型のロレンソは最後まで苦戦……。

リズムが合ってきたところで2連勝など輝きを取り戻したかに見えたが、怪我の影響もあってシーズン終盤は尻すぼみに。

開発スピードの速さ

技術的小技を繰り出すドゥカティだが、開発スピード自体は日本メーカーも負けていないはず。ただ、日本メーカーは超慎重。レース部門内で多くの確認や承認をしたうえで、ライダーがふたりなら必ず2セット、さらにスペアを用意するなどで、時間もコストもかかる。「ひとつでいいからとりあえずやっちゃえ!」というノリのドゥカティの方が、明らかに小回りは利く。

空力デバイスだけでなく、新しい技術を積極的に盛り込むのがドゥカティの強み。

SUZUKI GSX-RR

#42 ALEX RINS(アレックス・リンス)/#29 ANDREA IANNONE(アンドレア・イアンノーネ)

たびたび表彰台に上がった#42 アレックス・リンス。右上は今ひとつ振るわなかった#29 アンドレア・イアンノーネだ。

Aクラス入り目前! ’19年は頂点に立つか

じっくりと時間をかけてマシンを熟成させていくのがスズキの持ち味。並列4気筒のGSX-RRになって4シーズン目、レギュレーションが落ち着いていることも幸いし、スズキらしい地に足の着いた開発が功を奏し始めている。第6戦イタリアGPからフレームのメインチューブにカーボンを圧着するなどして車体をアップデート。これもうまく行き、後半6戦で両ライダー計5回表彰台に立った。バランスは良好。この調子を維持できれば、’19年は優勝争いにかなり絡めそうだ。

KTM RC16

#44 POL ESPARGARO(ポル・エスパルガロ)/#38 BRADLEY SMITH(ブラッドリー・スミス)

奮闘を見せる#44 ポル・エスパルガロ。ウエットレースとなった最終戦・バレンシアでKTMにMotoGPクラス初の表彰台をもたらし、男泣き。

フレームを見直せばワンランク上がれる

V型4気筒エンジンは想像以上のポテンシャル。唯一にして最大の課題は鋼管フレームだ。雨の最終戦バレンシアGPではポル・エスパルガロが力走し3位表彰台を獲得。フレームに過大な負荷がかからないウエット路面ならいいが、ドライでは明らかに剛性不足。1ランク上の順位をめざすなら、やはりアルミツインスパーの方が……。移籍したヨハン・ザルコの行く末が心配。

APRILIA RS-GP

#41 ALEIX ESPARGARO(アレイシ・エスパルガロ)/#45 SCOTT REDDING(スコット・レディング)

かつての栄光には及んでいないが底力はあるはず。’19シーズンはどうなる?

メーカーの威信を懸けエンジン開発に注力を

メーカーとしての力はあるはずだが、もうひとつ上がってこないのはエンジンが問題。どうやらピックアップが良すぎて扱いにくいようだ。ホイールスピンし始めるといきなりワーンと大きく空転している。乗っている分にはパワー感があって楽しいが、タイムを出すにはジワッとパワーが出てほしい。

↓↓[#2 ホンダ編][#3 ヤマハ編]に続きます↓↓
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