KATANA COMPLETE FILE 1980-2019

蘇るカタナ伝説〈02〉デザインスケッチから量産試作車へ

38年前の鮮烈フォルム すべてはここから始まった

GSX1100Eがベースとは思えない、流麗なフォルム。ターゲットデザインが手がけたED2はスタイリングの魔法を実感させてくれるモデルだった。

ED2
【ED2 1980】

スズキ欧州戦略が生んだ二輪デザインの金字塔

各クラスでトップの性能を獲得しながらも、ルックスはいまひとつ……と言われる機会が少なくなかった、’70~’80年代初頭のスズキ車。カタナはそういった状況を打破するために生まれたモデルで、スタイリングはドイツのターゲットデザインが担当。なおカタナの原点であるED2には、モトラッド誌が主催するデザインコンペ用として同社が’79年に手がけた、MVアグスタ750Sベースのカフェレーサーに通じる技法が投入されていた。

MV AGUSTA 750S CAFE RACER
【MV AGUSTA 750S CAFE RACER 1979】随所に共通点を感じる2台の並列4気筒車。こちらは’79年にターゲットデザインが手がけたMVアグスタ750Sベースのカフェレーサーだ。
Rough Sketch ED2
【Rough Sketch ED2】そしては同社のジャン・フェルストロームが描き、スズキに提示したED2のラフスケッチ。
ED2 PROTOTYPE
【ED2 PROTOTYPE】プロトタイプのシートは、前部より後部のほうが低い独創的な形状だった。マフラーは4-1式集合で、チョークダイヤルやステッププレートなどの造形も量産車とは異なっている。
ED2 PROTOTYPE
【ED2 PROTOTYPE】基本的にはこのED2の構成を維持することを重視したカタナだったが……。
快適な高速巡航を実現するため、メーター/スクリーンの構成は二転三転する。ちなみに、フォークにANDFは装備していなかった。
当初のメーターは斬新な配色だった。
ハンス・ムート Hans Muth
【Hans Muth】一時はカタナの生みの親と言われたハンス・ムートだが、実際のED2の開発はターゲットデザインのグループワークとして行われた。

1981年春、カタナ世界初試乗の勇姿

止まらない、曲がらない。ヨレる、重い。日本を代表する名車として愛され続けるGSX1100Sカタナは、当然、旧車としての情報が多い。では、世界最速車として世に出た当時は、どれほどよく走り、どれほど衝撃的なマシンだったのか? ここに紹介するのは、ヤングマシン’81年4月号に掲載されたGSX1100Sカタナ・プロトタイプの試乗インプレッションだ。

【ヤングマシン’81年4月号】わずか4周の試乗だったものの、テスターはカタナの動力性能に大いに感心。中でも抜群の高速直進安定性に感銘を受けたようだ。

’81 SUZUKI SPORTS MODEL TEST DAY

竜洋テストコースに大勢のジャーナリストを招き’81年スズキスポーツモデル発表試乗会が開催された。メニューは全くのニューモデルを含みチェンジの程度こそ異なれ、その数14機種に及び、さらにオマケと言うにはあまりにも魅力的な、そして試乗の機会が与えられるのはおそらく世界初と思われるGSX “KATANA”が加えられるという超豪華版。テストコース上という特殊条件の中ではあるが、14車+KATANAのインプレッションをお届けしよう(※ここではKATANAの記事のみを抜粋して掲載します)。

【ヤングマシン’81年4月号】試乗会場の竜洋テストコースには、ケルンショーに出展したED2も持ち込まれ、多くの編集者/ジャーナリストが、開発が進んだ量産仕様との相違点をチェックしていた。

ベース車の脅威的な走り

1979年12月、スズキ新車発表会のため竜洋テストコースを訪れた各誌記者は、TSCC16バルブエンジン、アルミスイングアームを備えたGSX1100の走りっぷりに度肝を抜かれた。強力なトルクを全回転域で発揮するエンジンは、スロットルをひねるだけでロケットのような加速を見せ、時速220km/h以上の世界に軽々と運ぶ。コーナーでは、エア・コイル併用式に減衰力調節機構まで組み込んだフロントフォーク、動きの良いリヤサスペンションが適度に沈み、大地をしっかりつかんで安定し、しかも運動性は軽快で素晴らしい。技術陣の顔も自信に溢れ、「どうだいGSXの走りっぷりは!!」と自慢気にサスペンションをセットしてくれたものだった。その当時は無論、現在でも走りの能力に関してGSX1100は世界最高の市販スポーツバイクといって良いだろう。

1979年のロンドンショーでベールを脱いだGSX1100(※現在はGSX1100Eと呼ばれる)は、カタナのベース車両となった当時のフラッグシップモデル。スタイルが武骨でもっさりした印象だったため、日本ではベコ(東北地方の方言で牛のこと)と呼ばれた。空冷4スト並列4気筒DOHC4バルブ 1075cc 105ps/8500rpm 9.34kg-m/6500rom 243kg(乾)

これほど素晴らしいGSX1100だが、開発陣が、そして我々も気になったことがただ一つあった。それは、「スタイルが性能に合ってない」ことだ。四輪車の世界なら、フェラーリ、 ランボルギーニ、マセラティはいうに及ばず、ポルシェ、BMWにしても高性能スポーツカーにふさわしい顔というものがある。 バイクでもそうだ。例えばCBX……。GSXほどコーナーは速くないにしても、直線のスピードは同等以上だし、何といってもエキゾチックな雰囲気がある。高性能の香り、これが一つ大切なのだ。

開発責任者の横内二輪設計次長はその当時の状況を、歴史が浅いだけに基本的なマシンを作るのに一生懸命だったということで、「外観までは手が回らなかった」と残念そうに語った。それから一年余り、レースでの活躍、市販車の売り上げとスズキの成長は著しい。そして、その間にもただ一つ欠けていたデザイン・プロジェクトがヨーロッパで進行していった。BMWのデザイナーであったハンス・ムート氏に、“GSX1100を使って思い通りのデザインをやってくれ” といったのは、ハイパーバイクの性能を使い切れる欧州でヨーロッパ人の感覚に合ったものを作る方が良いとした思い切りだ。数枚のスケッチが仕上った。“刀”のモチーフは既にある。

「何の刀か?!」スズキの問いに

「ブーメランだ」と答えた。

西ドイツのデザイナーがイタリアの血で考え、日本のバイクをベースに、オーストラリア原住民の武器をテーマにしたデザインは、クレイモデルの段階を過ぎ技術者の意見が加えられ、生産に移る。遂に、’80年ケルンショーに登場した“刀”は大反響を呼んだ。

GSX1100S PROTOTYPE 1981
【GSX1100S PROTOTYPE 1981】試乗したのはED2の雰囲気が残った’81テスト車。ケルンショーでの初公開から数ヶ月が経過した’81年初頭、スズキは竜洋テストコースで、まだ開発途中だったGSX1100Sの試乗会を開催した。この時点のエアクリーナーボックスはメッキ仕様で、シート後端のリブが存在しない。
ED2と比較すれば、カタナらしくなって来たフロントマスク。ただしスクリーンとフロントブレーキマスターは、量産車とは異なる形状。
回転計の文字盤を緑としたメーターはED2を踏襲。速度計はマイルがメインで、当時の北米の規制を考慮して55mphが目立つ設定。
シートは後方がやや跳ね上がった印象で、2種のレザーの分割ラインが量産車とは異なる。

目の前の “KATANA”

カタナ・シリーズは、ユーザーによってレースに出られるように各国のレギュレーションに合わせて市販する。ヨーロッパでは1100ccだが、アメリカでは1000cc、そして日本では・・・・・・「ハンドル形状とスタイルが先鋭的」だとかで、難しい面もあるらしい。

高速での直進性を重視して同時に運動性を向上するために前輪に18インチ、後輪には高荷重用の4.50-17のVタイヤを装着。スポイラー的なカウリング、4into1マフラー、これらがケルンショーに登場したGSX1100Sカタナだった。

それから3カ月、さらに生産プロトに向かって改良されたマシンが試乗用として目の前にあった。フロントフォークにはダブル・ アンチ・ノーズダイブが加わり、マフラーはDMG製4into2となって左右連結され、パワーチャンバー効果も盛り込まれている。フレーム関係では、エンジン前部がラバーマウントされ、ステー形状が変更されている。カウル上部には複雑な曲面の黒ブチつきスクリーンが取り付けられたが、これは試作で像が歪んで具合い悪かったが、市販車では変更されるはずだ。その下にはラバー製の境界層板一エアロスタビライザーがデザインされる。

細かな改良点は幾つでもあるだろうが、外部の者には判らない。ただ、写真で見るより、本物の方が「マトモでカッコ良い」ことだ。カタナを挿して、いや、カタナに乗って街を走っても、異和感はなさそうだ。 軟弱なデザインよりもフルフェース、レーシングスーツには良く似合いそうである。

結論は・・・・・・欲しい。

ステーからやや外に曲げられた形状のジュラルミン製クリップオンハンドルを握る。シートは低く、フットレストは高く後方に持ち上げられているから、かなり苦しいと予想していたのに、意外や手長の僕の身体には合ってしまう。ドゥカティのクリップオンの苦しさとは大違いで、やや幅が狭く、よくしぼられたコンチハンの感じだ。盛り上ったタンク後部に内股から腹が巧く密着し、体重を預けられるから、ポジションは楽だ。

わずか4周しかできないから、低速走行は無視して最初からスロットルを開けてみた。スクリーンから顔をわずかに出して直線を飛んでゆくと、風当たりが弱いため速度感が希薄だ。どのぐらい出てるのかとスピードメーターを見れば、針は上限に貼り付いている。アメリカ仕様の85マイルメーターは、作動が確認できたのはヘアピンだけで、残りはすべてスケールアウトしていた。「グリーンベースに黒い針のタコメーターも瞬間的には読みにくく、9000rpmからの赤ジマのレッドゾーンも判断に困ってしまう。

【ヤングマシン’81年4月号】

GSX1100と共通だというエンジンとフレームを信頼して、適当に感覚で走る。余計な事を考えるには速すぎるマシンだから。パワーコントロールで抜けるコーナーでは5000〜7000rpmまで回しても、アップハンドルのGSX1100で感じたパンチ力はない。中速域がふくらんだというエンジン特性と前傾姿勢でGを感じにくいポジションとの相乗効果だ。

充分に余裕を持って走っても、直線でもコーナーでもスピードは非常に速い。コーナーでは最大47度というバンク角を使い切らず接地はしないが、身体は自然にイン側に落ち、フットレストを蹴り出すようにして、外腕がタンク側面を抱くようなフォームになっていることに気付く。バイクとの接触面が多いだけに、心理的に安心感が高い。スロットルも重くなく、レスポ ンスも良いから、スロットルワークで力が要ることもない。

スプリングを最弱に、ダンピングを2段目にセットしてあったリヤショックとフロントフォークはやや堅めだが、堅すぎるほどでもない。乱暴な言い方をすれば、もっと速く走れば良いのだから。スロットルのオンオフに対する挙動変化は、人車一体感が強いために気にならない。慎重に前後ブレーキを軽く操作しながら走ったためか、人によっては感じたというスロットルオフ時のフロントの逃げは、許せる範囲であった。BS製マグモーパス・タイヤは低速コーナーでの倒し込みは軽いし、加速時の喰いつき、高速コーナーでの踏ん張りとも、4周ぐらいの走行では充分と感じられた。

何といっても、高速での直進安定性とその速度は、これまでの国産バイクの感覚をはるかに超えている。750 でも良いから、このポジションと足回りで走りたいぐらいだ。荒れた道でも充分にいけそうだし、デザイン面でも最先端にあるし。是非、日本国内での発売にも期待したい。

1981年4月号のヤングマシンに掲載されたGSX1100Sカタナ・プロトタイプの試乗記事は、巻頭6ページ構成で紹介されていた。レポート:マイケル黒田/撮影:H.NISHIMAKI

主役はカタナだったものの、この日の試乗会のためにスズキは15台を準備。さらには撮影用として、世界グランプリに参戦する4台のRG500Γも持ち込んでいた。なお当時の日本市場の同社のフラッグシップは、750カタナの前身となるGSX750E だった。

【SUZUKI GSX750E】1981年当時のスズキの日本市場におけるフラッグシップだった。
主役となったプロトタイプのカタナ。他のモデルはそれまでのスズキのデザインを踏襲しており、そのコントラストはかなりのもの。

ED1の名を持つカタナ兄弟機 GS650G

’81年型GS650Gは、ターゲットデザインとスズキが共同開発した初の量産車。ED1という名称はヨーロッパデザイン第1号車の略。

スズキ GS650G
【SUZUKI GS650G [ED1] 1981】
当記事は’18年12月号別冊付録を再編集したものです。掲載バックナンバーを手元に残したい方はこちら

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