スズキの独自路線を象徴する油冷エンジンの真実【このバイクに注目】


●記事提供: ライドハイ編集部

油冷は大型のオイルクーラーで冷やすと思いがちだが…?

油冷エンジンは他にないスズキのオリジナル。オイルクーラーを大型化して、循環するエンジンオイルでも冷却する方式をみることはあるが、それとは基本的に原理が異なるのだ。

スズキが1985年にGSX-R750で開発した”油冷”は、エンジン内部に潤滑用の他にもうひとつのオイルポンプを持ち、これで燃焼室のドーム外壁へ高圧でオイルを噴射する独自の冷却方式。

エンジンオイルは冷却水と違って100度を越える高温になる。その高温なオイルを噴射して、果たして冷却に効果があるのかピンとこない人がいるかも知れない。

しかしこれは温度境界層といって、燃焼室の外壁表面の高温を吹き飛ばして熱を奪う原理。たとえば寒いとき手に息をそうっと吹きかけると暖まるのに、同じ体温の息を強く吹きかけると冷やすことができる。これは手の表層にある体温で暖められた空気の層を、吹き飛ばすことで冷ましているのだ。

スズキの油冷エンジンにはこのしくみが用いられている。つまり、オイルを燃焼室外壁へ高圧噴射することによって、境界層の熱を吹き飛ばす画期的な方式なのだ。

GS750/1000に次ぐTSCCの後継を独自に模索した”油冷”方式

GS750/1000で初の4スト・ビッグバイク戦線に加わったスズキは、Twin Swirl Combustion Chamber=2渦流燃焼室のTSCCエンジンでクラス最高峰のパフォーマンスを得ると、これに続く次世代エンジンを模索していた。

テーマは耐久レース参戦が人気のヨーロッパで、レーシーなパフォーマンスのイメージをオーバーラップさせるという、他を引き離す独自路線。ハイパワーであることはもちろんだが、圧倒的な軽量化でライダーがライディングの醍醐味を楽しめるマシンであることが前提条件となった。

そこでエンジンは重く複雑になる水冷化ではなく、2輪車では例がなかったレース用エンジン技術のオイルを噴射して冷却する方式で、軽量コンパクト化を狙ったのだ。

”油冷”は、全開かつ長時間の負荷を掛けても油温が上昇しないというメリットが明確だった。エンジン各部も軽量コンパクト化が可能で、GSX750Sの80kgに対し僅か67.6kgに収まっている。

さらにアルミフレームの採用で、デビューしたGSX-R750は179kgと400ccクラス並みの圧倒的な軽さと、1,430mmのコンパクトなホイールベースのビッグバイクで初のレーサーレプリカの誕生となった。

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