「現実的な選択」
予算度外視に、すべてをチューニングパーツなどにするのは予算的にも不可能であり、そもそも今回の主旨ではない。私は冷静になり、当初考えていたような、多くの純正部品を新品にするようなことは諦めた。
また色々な部品の摩耗を数値的に調べていくと、予想以上にそのまま使える数値のモノばかりであった。無理をせずに、使えるモノはそのまま使おうという方針に変更した。
例を挙げると、ピストンは清掃とリングのみ交換。バルブやバルブスプリングなどは使用限度数値内なのでそのまま使用。その代わり内燃機ショップなどでできることはケチらずに、シリンダーはクロスハッチ加工、ヘッドは軽い面研、クランクシャフトも無理に分解せずに軽い修正だけをした。またエンジン全面は贅沢にガンコート。
またシールやゴム関係の純正部品は、他車と共通しているモノも多く、まだ出る部品が多かったので、その部分はケチらずにほぼすべてを新品とした。
「完成へカウントダウン」
今現在は、クランクケースを上下に合わせる寸前まできている。ケースを仮合わせして、ミッションとシフトチェンジの動きを手で回しながら作動テストもしたが、ちゃんと1速から5速まで変速した。あの複雑な機構を自分の手で完成させたと思うと、妙にうれしくなった。
この先は液体ガスケットを付けて、クランクケースの上下を合わせる。そこまでいけば、ピストンとシリンダーを入れるのはそれほど時間がかからない。つまり、腰下の完成となる。
「得たもの失ったもの」
徐々に完成が見えてきたところであるが、年末の主演舞台の稽古が始まってしまい、原寸デアゴスティーニで遊ぶどころではなくなり、しばらくは業者さんに部品加工を出したりするなどの作業に留まる。
今回の原寸デアゴスティーニ・空冷カタナエンジン。予想以上の出費と時間がかかり、孤軍奮闘に、いよいよ面倒になったこともある。完成前に、どこかの専門ショップさんがそのまま引き上げてくれないだろうかという考えが浮かんだりもした。
だが、きれいにガンコートされているクランクケースの中に、ミッションやシフトドラムが複雑怪奇に並んでいるのを見ると、もしかすると五合目近くまでたどり着いているかもしれないと思った。
空冷カタナのエンジンをオーバーホールしていて一番の収穫というのは、「バイクとの対等にある感覚」を得つつあることだ。バイクショップさんと相反するような言い方になってしまうが、バイクショップさんにお金を払って作業してもらっている限りは、私はその「最深部」に触れることはできなかったであろう。
『対等にあるという意味は、バイクと自分の距離をどこまで近くできるか。ある人にとっては、それがスピードやレースであり、また別の人は長旅の相棒であるかもしれない。それは人それぞれ。私が今求めているのは、空冷カタナのエンジンを、自分ひとりで、イチから組む経験から得られる、ハードコアな知識だ。また、それを深めるべく、これから先も、また新たに空冷カタナのエンジンを組むだろう。次回は、72ミリピストンで軽くボアアップして、1135cc仕様にしても楽しいかもしれない。』
これから先、このエンジンが完成して、火が入り、そのパワーを自分で感じることができた暁には、さらにその思いは深まるはずだ。
※本記事は“ミリオーレ”が提供したものであり、文責は提供元に属します。※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
あなたにおすすめの関連記事
大鶴義丹(おおつる・ぎたん)/1968年4月24日生まれ。俳優、作家、映画監督など幅広いジャンルで活躍。バイクは10代の頃からモトクロスに没頭。その後、ハヤブサやGSX-Rシリーズでカスタム&サーキッ[…]
大鶴義丹(おおつる・ぎたん)/1968年4月24日生まれ。俳優、作家、映画監督など幅広いジャンルで活躍。バイクは10代の頃からモトクロスに没頭。その後、ハヤブサやGSX-Rシリーズでカスタム&サーキッ[…]
大鶴義丹(おおつる・ぎたん)/1968年4月24日生まれ。俳優、作家、映画監督など幅広いジャンルで活躍。バイクは10代の頃からモトクロスに没頭。その後、ハヤブサやGSX-Rシリーズでカスタム&サーキッ[…]
大鶴義丹(おおつる・ぎたん)/1968年4月24日生まれ。俳優、作家、映画監督など幅広いジャンルで活躍。バイクは10代の頃からモトクロスに没頭。その後、ハヤブサやGSX-Rシリーズでカスタム&サーキッ[…]
カタナをカタナらしくするための新しいスタイルを提案 1981年に発売されたスズキGSX1100Sカタナ。既存のスタイルを打ち破るそのスタイルは世界中に衝撃を与え、伝説をつくった。その伝説のバイクをメー[…]
最新の記事
- 2025年「56レーシング」チーム体制発表! 13歳の富樫虎太郎は全日本J-GP3フル参戦、新たに9歳の木村隆之介も加入
- Wチャンピオンを手土産に世界に再挑戦!【國井勇輝インタビュー】
- 「いつから、いくら下がる?」ついにガソリンの暫定税率廃止へ! 新原付の地方税額も決着……〈多事走論〉from Nom
- 【2024年12月版】シート高780mm以下の400ccバイク10選! 地面に足が着くのはやっぱり安心
- 「これを待ってた」ホンダ新型CB400フルカウル「CBR400RR/CBR400R FOUR」スクープまとめ「かっけー!」