
スズキは東京モーターサイクルショーで、2025年『Team SUZUKI CN CHALLENGE』の体制発表を行い、初年度の昨年からサステナブルアイテムを拡大し、津田拓也をテストライダーに迎えることを発表した。さらに、全日本ロードレースにもスポット参戦する。
●文:ヤングマシン編集部(ヨ) ●写真:荒木優一郎、真弓悟史 ●外部リンク:スズキ
ファクトリーマシンが進化して帰ってきた!
スズキは東京モーターサイクルショーのプレスカンファレンスで、2025年の『Team SUZUKI CN CHALLENGE』の体制発表を行った。メーカーとしてレースへの参戦を終了した2022年から2年後の電撃復帰発表から1年が経ち、2024年の鈴鹿8時間耐久ロードレースでの決勝8位を経て2年目の参戦概要を明らかにした。
また、4月9日・10日には全日本ロードレースへのスポット参戦に向けてモビリティリゾートもてぎでの公式テストに参加。津田拓也選手の手により、JSB1000クラスでトップから2.145秒差の8位につけている(出走26台中)。レース4月19日・20日に行われる。
チームスズキCNチャレンジの2025年サステナブルアイテムは以下の通りだ。
アイテム | サプライヤー | 詳細 |
燃料 | トタルエナジーズ | Excellium Racing 100 100%サステナブル燃料 |
タイヤ | ブリヂストン | 再生資源・再生可能資源比率を向上したタイヤ |
オイル | MOTUL | バイオ由来ベースオイルを仕様したエンジンオイル |
カウリング | JHI | 再生カーボン材(使用期限切れプリプレグ材を処理) |
前後フェンダー &サイドカウル | トラス | スイスBcomp(天然亜麻素材を使用した複合材料) 非漂白処理 |
前ブレーキ | サンスター技研・ 東海カーボン | サンスター技研──熱処理廃止鉄製ブレーキディスク サンスター技研サンスター/東海カーボン──ローダストパッド |
バッテリー | エリーパワー | 社債LFPバッテリー、ピット電源供給用の蓄電池 |
マフラー | ヨシムラジャパン | 環境配慮型チタンTranTixxii-Eco製サイレンサー |
ユニフォーム | アールエスタイチ | 100%再生生地のポロシャツ |
以下、東京モーターサイクルショーにおいてお話をうかがったスズキCNチャレンジ プロジェクトリーダー 佐原伸一さんのインタビューをお届けしたい。
左から、チームスズキCNチャレンジ プロジェクトリーダーの佐原伸一さん、開発ライダーの津田拓也選手、スズキ株式会社二輪事業本部長 田中強さん。
構成パーツも新たに、フルスロットルで勝利を目指す
ヤングマシン: 今年も出ることになりました。予定通りですか?
佐原: そうですね。以前から、継続することに意味があるとずっと公言していたので。
ヤングマシン: 2024年のマシンからはどのように変わったんでしょうか?
佐原: GSX-R1000Rベースという意味では一緒なのですが、燃料は新しい100%サステナブルのものですし、タイヤも昨年とは違います。色々トライをしていく中で、それに合わせるようにシャシーやエンジン、開発していかなきゃいかんっていうことで、今は色々実験を繰り返してるところですね。なのでまだ完成形ではないんですけれど、我々はエクスペリメンタルクラス参戦なのでエンジンの中身も触ることができますし、そのレギュレーションを活用して将来につながることをやっていこうと思っています。
ヤングマシン: 燃料は昨年のバイオ由来40%から100%になったと発表しています。
佐原: そうですね。そのまま100%バイオ由来になったわけではないのですが、100%サステナブルという燃料を使うことになりました。4輪の耐久レース、WECでも使われている燃料ということで実績がないシロモノではないのですが、簡単ではないですよ。
ヤングマシン: 昨年とはどのような違いがあるんですか?
佐原: やっぱり燃費だったり。あとは、こうしたサステナブル燃料はオイルに混入しやすい傾向があったりするので、そこは対応が求められますね。
ヤングマシン: 去年は40%燃料で8時間走り切って、その後にエンジンを開けたりされていると思うんですが、実際その8時間走ってみた後のマシンはいかがでしたか?
佐原: 8時間を無事に完走したわけですが、エンジンをばらしてみると、ちょっとノッキング傾向があるというのが元々わかってはいて、それに対処したセッティングをしたつもりだったんですが、もうちょっとやらなきゃいけなかったかなっていう感じがありました。でも、あんまり対策ばかり重視してやってるとパフォーマンスが落ちちゃうので、バランスではあるんですけれど。もしこれが24時間走ると仮定すると、もうちょっとやるべきだったかなと。今年は燃料が変わるので、またそこは振り出しに戻ります。とはいえ、いろんなことわかりました。というか、その(技術開発の)ためにやってるんです。
ヤングマシン: 確かに。それが市販車に繋がっていく、と。
佐原: そうです。我々も昨年は出場する前、まともに完走できるのか、みたいな話もあったのですが、幸いシングルフィニッシュができて、パフォーマンスと環境性能っていうのはうまくやればバランスを取れることが実証できたと思っています。そこを目的としてきましたし、さらに高いレベルで性能も妥協せず、環境に対しても妥協しないっていうところでやりました。まあ、まだ100%ゴールに着いたわけではありませんが、近づいていこうと思っています。
ヤングマシン: 去年は、例えばブリヂストンのタイヤについては、開発途中ということもあって評価には言及できないとおっしゃっていました。
佐原: そうですね。今年もそれは同じです。
ヤングマシン: 変化としてはどうですか?
佐原: それもあんまり言えませんが、結果を見ていただければと。昨年のタイムや順位を見れば、これまでの素材と遜色ない走りができることはお見せできたかなと思います。ただ、何も考えずに使って性能が出るものではありません。そこは乗り方も、セッティングも含めて、さまざまな適合作業が必要になります。今年さらにまたブリヂストンさんの研究も進んでいて、再生資源などの比率もさらに向上していくという話ですので、そこは我々も、どういう合わせ方をしていくのか。竜洋(スズキのテストコース)を走ったりはしていますが、ライダーと一緒にどうやってやっていこうかっていうのはこれからの作業になります。
ヤングマシン: 2年目ということで、手慣れてきた部分はあったりしますか?
佐原: 全然そんなことはないですね。やっぱり毎回、新しいこと、新しいことって感じです。去年はチーム員を募集しはじめたのが東京MCショーで初お披露目した後だったので、今年は発表の前からチーム員を決めていって、ちょっと余裕ができるかなと思っていたんですが……。結局はマシンもまた新しいパーツでゼロから組み上げて開発して、テストもしなきゃいけない。そうすると余裕どころか、やらなきゃいけないことがそれ以上に増えてしまって、全然余裕がありません。さらに新しいメンバーも来たので、去年やってくれた人たちには教える立場で参加してもらったり。まあ、本番ではピットに入れる人数も決まってるので、メインになるチーム員は新しい顔ぶれになってると思います。これからですよ。何ひとつ簡単なことはありません。でも、目指すゴールは去年より高いです。
ヤングマシン: それはもう、勝利ということですね。
佐原: もちろん勝つつもりでやらないと、きっと去年よりいい成績なんて狙えないと思います。去年は8位だったから7位ぐらい、6位ぐらいと狙っても獲れるものではありません。フルパワーでやっていきます。
MotoGPへの復帰にも繋がる、なんてことは?
ヤングマシン: 去年は佐原さんが陣頭指揮をやられて、当時のインタビューで2年目は少し後ろに引いた立場でやろうかなっておっしゃっていました。
佐原: 徐々にその準備はしています。今回の東京MCショーでも、スピーチを私じゃない人にお願いしようかなと思っていました。その辺はちょっと準備期間も色々あって持ち越しましたが。
ヤングマシン: 去年オートレースから引退された津田選手が開発に──。
佐原: 引退って言うと、あいつ怒りますよ(笑)。
ヤングマシン: 引退ではないんですか?
佐原: 引退ではないです。全日本を引退したつもりはないと。
ヤングマシン: 割と引退と報道されていた気がするんですが、実際はスズキ本体に帰ってきたぞっていうことなんですね。
佐原: そうですね。彼はずっとスズキのライダーという位置付けで、去年のCNチャレンジでもテストをしてくれていましたが、より直接的に専念してくれることになります。このまま行って速さを示せば、彼もレースライダーとして走ってくれる。とはいえ、すでにテストライダーとしても十分貢献してくれています。
ヤングマシン: テストライダーとしての津田選手の評価は?
佐原: いいですよ。テストライダーとしてMotoGPも含めて経験が長く、もちろん成長もしているので、我々とのコミュニケーションもばっちりです。彼の言ってる顔色を見ながら、彼も我々の顔色を見ながら、次どういう方向に行きたいのか、何を求めてるのかっていうところをお互いなんとなくツーカーの仲になってきたのかなと思います。竜洋テストコースでの経験も豊富なので、普通のライダーが気づかないような小さい変化も彼は察知してくれます。
ヤングマシン: 津田選手がスズキ本社契約になり、これにともなってレース部門が復活するんじゃないかという噂も──。
佐原: そういうわけでもないんですが……。去年は専任でやっていたのが私1人で、あとはみんな兼任で助けてくれたんですが、今年はこのプロジェクトに専任で携わってるのが5名ぐらいになったんですよ、私を含めて。ただ、それは別にレースグループってわけではなく、先行開発という意味合いです。新しい技術を開発するグループの中の一部として来てる。まあ、やってることはそうじゃないですか。
ヤングマシン: 確かに。レースの勝った負けたではなく新しい技術を開発しているわけですもんね。
佐原: そこが今後、レースグループになっていくのだろうかというと何もプランはないですけど。ひとつ言えるのは、このプロジェクトは2輪のマテリアルを使っていますが、全社のプロジェクトとして、ここで開発したものを4輪、マリン問わず技術展開しなきゃいけない。参加してくれる人も、チームメンバーも全社から集めていますから。そういう意味では、レース部門をに今すぐ結び付くというものではありません。
ヤングマシン: なるほど。その先には、MotoGP復活みたいな噂もあるじゃないですか。
佐原: 噂ありますね(笑)。イギリス発信か何かで、ジョアン(ミル)の写真付きでね。ただ、経営層が何かしらコメントすると切り取られて(恣意的な)記事になるところもあるじゃないですか。もちろん私は、そういう方向を望んではいる1人ではあるんですが。会社として今後どう動いてくのかとういうと、まだ私には分かりません。まあ、いつかMotoGPに戻ることがあるなら、それは自分にとって嬉しいことではあります。
ヤングマシン: スズキファンにとっても嬉しいことですよね。
佐原: その時が来るなら、本当のゼロからスタートするよりは、今こういう活動をして基盤がある程度あった方が活動しやすいとは思います。いずれにしても、今出ているのはただの噂です。あくまでも。
ヤングマシン: マシンの外観では、大きく変わってるのはウイングと?
佐原: ウイングとフェンダー辺り、あとはサイドパネルが茶色くなって(非漂白になって素材の色が生かされた外観になっている)、ぐらいかな。あとはスポンサーのステッカーが増えたりしていますが、マシンの形そのものは昨年と同じです。
ヤングマシン: ウイングでかなり印象が変わるんですね。
佐原: かっこよさは大事です。この辺は見た目も重視しながら。
ヤングマシン: そうですね。実際ダウンフォースももっと大きくなっているんでしょうか?
佐原: はい。ここから本番に向けて開発してどういう風に変化するか、お楽しみに。まだこれが最終仕様ではありませんから。新しい技術も盛り込めれば、色々トライしようと思っています。
Team SUZUKI CN CHALLENGE GSX-R1000R
Team SUZUKI CN CHALLENGE GSX-R1000R
Team SUZUKI CN CHALLENGE オフィシャル写真
Team SUZUKI CN CHALLENGE GSX-R1000R
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
最新の関連記事(スズキ [SUZUKI] | レース)
大幅改良で復活のGSX-R1000R、ネオクラツインGSX-8T/8TT、モタードのDR-Z4SMにも触ってまたがれる! 開催中の鈴鹿8耐、GPスクエアのブースからスズキを紹介しよう! ヨシムラブース[…]
現代の耐久レーサーはヘッドライト付きのスーパーバイクだが…… 近年の耐久レーサーは、パッと見ではスプリント用のスーパーバイクレーサーと同様である。もちろん細部に目を凝らせば、耐久ならではの機構が随処に[…]
スズキは、8月1日(金)から3日(日)に三重県鈴鹿サーキットで開催される「2025 FIM 世界耐久選手権“コカ·コーラ” 鈴鹿8 時間耐久ロードレース 第46回大会」に参戦する「チームスズキCNチャ[…]
「GSX-R1000Rは、現行モデルが最後とは誰も言っていない」 2022シーズン末をもってMotoGPやEWC(世界耐久選手権)のワークス活動を終了したスズキは、レースグループも解体。もうスズキのワ[…]
MotoGP撤退のスズキが新カテゴリーで先陣 誰が言ったか「8耐は泣ける」。 鈴鹿を8時間走り切ったゴール後には各チームそれぞれの感動が交錯するが、チームスズキCNチャレンジのピットでも他に負けない歓[…]
最新の関連記事(鈴鹿8耐)
路面温度が70度に迫るなか、2人で走り切った#30 Honda HRC 鈴鹿8耐が終わってからアッという間に時が過ぎましたが、とにかく暑いですね。鈴鹿8耐のレースウイークも日本列島は、史上最高気温を更[…]
15周を走った後の速さにフォーカスしているホンダ 予想通りと言えば予想通りの結果に終わった、今年の鈴鹿8耐。下馬評通りにHonda HRCが優勝し、4連覇を達成した。イケル・レクオーナが負傷により参戦[…]
急きょ2人体制になってしまったHonda HRC 2025年の鈴鹿8耐は事前から話題が豊富だった。 ヤマハは創立70周年を記念してスペシャルカラーのYZF-R1投入と6年ぶりのファクトリー体制の復活を[…]
抽選でサイン入りベースボールシャツが当たるチャンスをお見逃しなく 株式会社カワサキモータースジャパンが展開するカワサキプラザネットワークでは、「Kawasaki Plaza Racing Team 8[…]
スーパースポーツ好きが多い鈴鹿8耐会場だけに、Ninja ZX-6Rプレゼントが話題に 開催中の鈴鹿8耐“GPスクエア”にあるカワサキブースでは、最新Ninja ZX-6Rを壇上に構え、8月末まで実施[…]
人気記事ランキング(全体)
使い方は「水を含ませる」だけ。走行風を味方につける冷却アイテム 今回紹介するデイトナの「DI-015 ウェットクールベスト」は、水と走行風を利用した気化熱式のクールベストだ。使い方はシンプルで、ただベ[…]
並列4気筒と2気筒で基本設計/生産設備を共有 ’74年初頭からスタートしたスズキの4ストプロジェクトは、次世代の旗艦として、カワサキZを凌駕する大排気量並列4気筒車と、その車両と基本設計/生産設備を共[…]
三層一体構造で愛車を徹底ガード 「ウェザーシールド フリースガード」は三層構造になっていて、外側層の300デニール防水オックスフォード/中間層のTPUフィルム/内側層のフリースライニングを一体化した贅[…]
昭和レトロの世界が広がる神奈川県『中古タイヤ市場 相模原店』 昭和の夏休みって、どんなでしたっけ? 朝はラジオ体操に行って、午前10時頃からは仮面ライダーやウルトラマンの再放送。昼は学校や地域のプール[…]
二見エリアはツーリングライダーを惹きつける場所の宝庫 二見の地に足を踏み入れれば、まず目に飛び込むのは、夫婦岩を模したユニークなJR二見浦駅舎だ。そこから二見興玉神社へと続く「夫婦岩表参道」、通称「旅[…]
最新の投稿記事(全体)
厳しい残暑、コストを抑えつつ対策したい 暦の上では秋が近づくお盆明け。しかし、天気予報によれば2025年の夏はまだ終わらず、厳しい残暑が続くという。 まだまだ続く汗との戦いには、高機能な冷感インナーが[…]
125ccクラスは16歳から取得可能な“小型限定普通二輪免許”で運転できる バイクの免許は原付(~50cc)、小型限定普通二輪(~125cc)、普通二輪(~400cc)、大型二輪(排気量無制限)があり[…]
XL750 TRANSALP:実物を見て気に入りました XL750トランザルプオーナーのヨッチンさんは、現在44歳のアドベンチャーライダー。 バイクに乗り始めたのは20歳で、長いこと古い英車に乗ってい[…]
コストダウンも意識した大胆なテコ入れ テコ入れを辞書で調べると、"期待した通りに進んでいない物事、停滞している状況を、外部からの刺激や援助で打開しようとする取り組みを意味する表現"とある。そしてこの言[…]
ワンタッチで取り付け可能な便利設計 「FDH-1」は、強力なバネの力でペットボトルをしっかりホールドし、片手でワンタッチ脱着が可能なバイク用ドリンクホルダーです。600mlまでのペットボトルに対応し、[…]
- 1
- 2