国内4メーカーとMFJは、来シーズンから全日本ロードレース・JSB1000クラスにおいて100%非化石燃料のバイオ燃料を採用すると発表しました。これはMotoGPよりも早い採用となり、日本車のお膝元から“カーボンニュートラル時代をリードしていこう”という意志を感じさせます。ネックになりそうなのは価格ですが──。
来年からJSB1000クラスが100%非化石燃料を導入する!
現在、発売中のヤングマシン12月号に掲載しているMFJ鈴木会長のインタビュー記事(SDGs 持続可能なバイクライフ――トップたちの提言)で、鈴木会長がレースの世界でのカーボンニュートラル(以下CN)の取組みとして100%非化石燃料をできるだけ早期に導入したいと語ってくださいましたが、全日本ロードレース最終戦MFJグランプリが開催中の11月5日(土曜日)、鈴鹿サーキットでホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキの国内4メーカーとMFJが、来シーズンから全日本選手権ロードレースの最高峰であるJSB1000クラスに再生可能原料を使用した100%非化石燃料のバイオ燃料(名称はETS Renewa Blaze NIHON R100)を採用すると発表しました。
これはとても画期的なことで、ご存じのように国内外のレースにおいてもCNへの取組は進んでいて(下の表参照)、二輪レースの最高峰であるMotoGPも2024年に40%の非化石燃料を混合した燃料を採用するとしていますが、日本のJSBレースはいきなり100%非化石燃料を採用するというわけです。
四輪のEV化も諸外国に比べて遅れているなど、CNに対する取組もまだまだ不十分であると国際的に批判されている日本にあって、レースという限られた世界ではありますが、いち早く100%非化石燃料を採用するというのはなんだか誇らしい気持ちになりますね。
原材料は木片や藁のバイオマス、ネックは価格の高さだ
この記者会見に出席した燃料メーカーの「ハルターマン・カーレス・ジャパン社」(以下ハルターマン社)によると、この非化石燃料は木片チップや藁などの植物性のゴミとして扱われていたモノなど=バイオマスを原料としていて、JSBクラスに加えて、来シーズンから四輪のスーパーGTにも供給されるそうです。
すでに国内4メーカーはこの燃料を使用してJSBマシンでテストを繰り返していて、ECUのセッティングに小変更を加えるだけでエンジンに大きな構造的変更を加えることなく使用可能とのこと。出力も現行のレースガソリンとほぼ同等(1%ダウン程度)で、燃費は最大で5%くらい低下するのではと予想されていると言います。現在、JSBクラスを開催している施設(サーキット)によっては、周回数を少なくする場合があるかもしれないとのことです。
実用上、性能もガソリンを使用した場合とほぼ同等で、現行のレースバイクに大きな変更を加えずに使用できるのは大きなメリットですが、ネックはこのバイオ燃料の価格の高さ。
それもあって、国内レースの中でもプレミアムクラスのJSBからバイオ燃料を導入することにしたそうですが、現在、サーキットにあるガソリンスタンドで購入できるガソリン燃料は1リッターあたり200円程度。しかし、このバイオ燃料はその7.5倍の1リッター1500円で、エントラントに相当の負担がかかることになります。
そこで、国内外の車両メーカーとタイヤメーカー、レース開催施設が費用等を分担して補助するのに加え、ハルターマン社が全日本JSBクラスのオフィシャル・フューエル・サプライヤーとして協賛してくれることになり、その結果、エントラントには400円程度という特別価格で提供できるメドが付いたそうです。
ハルターマン社が協賛することになり、来シーズンのJSBクラスは「JSB1000 Supported by ETS Racing Fuels」という名称になり、参加車両は「ETS RACING FUELS」のステッカー貼付が義務付けられます。
では市販車のCN化はどうなっているのだろうか
レースの世界からCN化が一歩前進することになりましたが、では市販車のCN化の動きはどうなっているでしょうか。
昨年の11月に、2022年中に3機種の電動ビークルを登場させると宣言していたカワサキは、今年の6月に電動キッズ用バイクの「ELEKTRODE(エレクトロード)」を発表し、8月以降に発売するとしたのに続き、10月上旬にドイツで開催されたインターモトで新型電動バイクのプロトタイプを初公開しました。
そして、11月8日からイタリア・ミラノで開催される世界最大のバイクショーであるEICMAで、ホンダが一般市販用の電動スクーターを発表すると言われています。
これまでホンダが発表・発売した電動スクーターはすべて法人向けで、一般の個人ユーザーは購入することができなかったのですが、今回は初めて個人ユーザーをターゲットにしたモデルで、車名も「EVP1」と、パーソナルを示すPが付くと言われています。このモデルは、原付相当の定格出力モデルだそうですが、グローバルマーケットを対象にした原付2種相当のモデルも発表されるのではないかとも予想されています。
このEVP1は、これまでの法人向け電動スクーターと同様、着脱式バッテリーの「Honda Mobile Power Pack」を採用する見込みですが、このHonda Mobile Power Packはホンダに加えて、ヤマハ、スズキ、カワサキの3社も使用することで合意をしており、今年の4月1日に国内4メーカーにENEOSを加えた5社が出資して、Honda Mobile Power Packを利用する交換式バッテリーシェアリングサービスを行う「Gachaco(ガチャコ)」という会社が設立されました。
これはGachacoが交換式バッテリーステーション(ホンダが製造・販売するHonda Power Pack Exchanger e:)を街中の各所に設置して、サービスを利用する人はこのステーションに行って、それまで使用していた充電量が減ったバッテリーと満充電されたバッテリーを交換するというものです。
その交換式バッテリーステーションの第1号機が、去る10月25日に東京都庁前の西新宿第4駐車場に設置され、小池都知事やGachacoの渡辺代表が出席してサービスの開始式が行われました。
Gachaco広報によると、今後は東京の城南、城北エリアを中心に18カ所のステーション整備を予定していて、大阪への展開も予定しているが、詳細な整備(設置)時期は随時公表する予定だそうです。
台湾ではGogoro(ゴゴロ)社が数年前から展開している、交換式バッテリーステーションがついに日本でも稼働し始めたわけですが、気になるのはホンダ以外の3社がこの交換ステーションを利用できるHonda Mobile Power Packをバッテリーとして使用する電動モデルをいつ頃発売するのかということ。
そこで、ヤマハ、スズキ、カワサキの3社にHonda Mobile Power Pack対応モデルの予定を聞いてみました。
各社の回答は以下の通りで、
- ヤマハ:「現時点でご案内できる決定事項はありません」
- スズキ:「商品およびサービスの計画についてはお答えできません」
- カワサキ:「共通仕様バッテリーの利用検討を進めておりますが、現時点で開発状況・導入時期については、回答を差し控えさせていただきます」
と、残念ながら具体的な開発状況や発売時期に関しては3社ともから明確な回答は得られませんでした。
もちろん、重大な社外秘であるニューモデルに関する情報ですから、簡単に口外出来ないのは理解しますが、正直言ってもう少し前向きな回答が欲しいところでした。
とはいえ、ホンダが先行して開発してきたHonda Mobile Power Packを使用する電動モデルを、他3メーカーが開発して市販に至るには当然、それなりの時間がかかるのでしょう。その点を理解しつつ、今後の3社の動向に期待したいと思います。
JSB1000へのバイオ燃料の導入、ホンダ初の一般ユーザー用電動スクーターの登場(EICMAでは他社製の電動モデルの登場にも期待!)、そして交換式バッテリーステーションの稼働と、日本におけるバイクの電動化、CN化が来年は加速しそうな雰囲気で、2023年は日本のバイク界のCN元年と位置づけられそうです。
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