●文/写真:ヤングマシン編集部(佐藤“ことぶき”寿宏)
最後の日本人チャンピオン、青山博一の優勝から16年ぶりの母国GP優勝
3年ぶりの日本グランプリは、土曜日は台風15号の影響でセッションの中断、中止もありましたが、日曜日は快晴に恵まれました。
何と言ってもMoto2の小椋藍がすばらしいレースを見せてくれたことがトピックスでしたね。シリーズタイトルを争い、ホームグランプリでプレッシャーのかかる中、勝つことのできるのは、そのテクニックはもちろん、精神的な強さを感じましたね。原田哲也さんや坂田和人さんにも同じような“強さ”がありましたが、世界チャンピオンを争う資質は十二分にあるでしょう。
雨の予選こそ13番手となりましたが、5列目スタートながらオープニングラップで5番手に上がると、2周目にはファステストラップをマークしながら4番手に浮上。4周目にはトップを走っていたアラン・カネットが転倒。この時点でチームメイトのソムキアット・チャントラがトップに立ち、小椋は3番手につけていました。シリーズチャンピオンを争うアウグスト・フェルナンデスは6番手となっており、なるべく間に他のライダーが入って欲しいと願っていましたが、そんな思いと裏腹に着実にポジションを上げてきます。
フェルナンデスは、小椋の背後に迫ってきますが、レースも折り返しを過ぎた13周目に小椋はアロンソ・ロペスをかわしトップに立ちます。
「トップに立ち自分が思うように走ろうと。ギャップが広がれば広がるほどいいですが、同じというのが一番ガックリします。(サインボードで)2周同じだったので“同じかよ!”って思いながら、さらにプッシュしました」と小椋。
レース終盤に入ると、さらにペースアップ。タイヤもタレてきており、後ろからはフェルナンデスがファステストラップを出して追ってくる状況での集中力は並大抵ではありません。そして観客の大声援が小椋を後押します。22周を走り切った小椋は、トップでゴール。今シーズン3勝目を挙げました。フェルナンデスが2位となったため、シリーズランキングでは、2ポイント差に迫りました。
「チェッカーを受けた瞬間はホッとしました。今回はスタートがうまく決まったのが大きかったですね。表彰台からの景色は、よく知っているコースなので日本で勝つことができたと実感しました。君が代が流れたときに、ちょっとウルッとしましたが泣き顔は見せないと決めていました。監督は、泣いていたみたいですね」
日本人ライダーの母国での優勝は、2006年に250ccクラスで青山博一以来、16年ぶりのこと。青山は、この年、KTMに移籍し、表彰台で君が代が流れた際に顔をクシャクシャにして泣いたのを覚えています。その青山が監督として率いるIDEMITSU Honda Team Asiaの小椋が勝ち、シリーズチャンピオンを争っています。残り4戦、これはもう青山が2009年に250ccでチャンピオンを獲得して以来の快挙を期待するしかないですよね!
Moto3ライダーは全員、来季のシートを確保
代役参戦3戦目の羽田太河は17位でゴール。走り慣れているコースで2022年型KALEXの理解度も進んだようです。残り4戦でポイントを獲得してもらいたいですね。
Moto3クラスは、ポールポジションを獲った鈴木竜生、セカンドロウスタートの佐々木歩夢がトップ争いを繰り広げました。鈴木は、序盤に転倒を喫してしましいますが、佐々木は一時はトップを走り今季3勝目に期待がふくらみましたが惜しくも3位。来シーズンはGAS GAS Asper Teamに移籍することを発表した山中琉聖が8位、古里太陽が14位に入り初ポイントを獲得。鳥羽海渡は、序盤に追突され大きく遅れるものの、最後まで走り切って21位。鳥羽も来シーズンはSIC58に移籍することを発表しており、今シーズンMoto3を走っている日本人ライダーは、いずれも2023年のシートを確保しました。
マルケスのPP、アレイシの緊急ピットイン、ミラーの優勝
そしてMotoGPクラスは、さすが世界最高峰のレースということをあらためて感じました。各メーカーが維新をかけて作り上げた最新のテクノロジー満載のマシン、それをライディングする選ばれたライダー、そして統制の取れたチーム体制などなど。ただ、アプリリアのアレイシ・エスパルガロが、マッピングの切り換えミスでウォームアップランでピットインし、マシンを乗り換えて出て行きますが、2台目のマシンのリアには、ソフトタイヤが装着されており、まともに乗れなかったそうです。操っているのは、やはり人間なんだということも再認識させられましたね。
レースの方は、タイヤチョイスが明暗を分けました。朝のウォームアップ走行でハードタイヤを試して好感触を得たジャック・ミラーが独走優勝を果たしました。ウエットの予選では、復帰2戦目のマルク・マルケスがさすがの走りでポールポジションを獲得しましたが、ドライでは、まだ本調子ではなく4位争いを繰り広げます。
ホールショットを奪ったのはKTMのブラッド・ビンダー、これにマルケス、ホルヘ・マルティン、ミゲール・オリベイラ、ヨハン・ザルコ、マーベリック・ビニャーレス、ミラーと続いていきます。ミラーは、3、4コーナーでザルコ、5コーナーでビニャーレス、90度コーナーでオリベイラとマルケスを一気にかわしオープニングラップで3番手に浮上すると、2周目にビンダーを、3周目にマルティンをいずれも90度コーナーでかわしてトップに立ちます。その後、ミラーは独走態勢を築き、残り10周では、早めにスシフトアップしタイヤをいたわり、そのままゴール。今シーズン初優勝を飾りました。
表彰台では、ブーツでシャンパンを飲む“Shoey”を披露。その後、ブーツとグローブを観客に投げ込むファンサービスを見せてくれました。来シーズンはMoto3以来となるKTMに移籍。どんなレースを見せてくれるか楽しみなところです。2位には、そのKTMのビンダーが最終ラップにマルティンをかわして入りました。マルティンが3位となり、4位争いは、マルケスが制し、オリベイラ、ルカ・マリーにと続きました。
タイトル争いは混沌、日本人ライダーは学びのレース
後方では、タイトルを争うファビオ・クアルタラロとフランチェスコ・バニャイアが8位争いを繰り広げていましたが、最終ラップの3コーナーでバニャイアが転倒。痛恨のノーポイントとなりました。アレイシも16位とノーポイントに終わり、ファビオがポイントリードを広げる結果となりました。
前戦アラゴンでマルケスと接触し転倒した中上貴晶は、右手の小指と薬指の腱を負傷。痛み止めを服用して挑んでいました。
「日に日に指の状況が悪化してしまい、レース終盤はリタイアしようかと思うくらいでした。ただ、日本GPを走ることができてよかったですし、皆さんの応援のおかげで完走することができました。次戦は指の状態をしっかり判断して走るか決めようと思っています」と中上。連戦となるタイGPは欠場し、テストライダーの長島哲太か代役に起用されることがLCR Hondaより9月27日夜に発表されました。
ワイルドカード参戦の長島は、レギュラーライダーの走りに感嘆。また自身と、すでに15戦走ってきた“レース感”の差もあると言っていました。結果は転倒リタイアとなりましたが、念願の世界最高峰の舞台で多くのことを学べたとコメントしていました。
津田拓也は、当初はワイルドカード参戦の予定でしたが、ジョアン・ミルの代役となったため、ミルの車両を使わなければならず、そのアジャストに時間がかかったと言っていました。レースは開始直後からマシンに異変を感じていましたが、スズキラストランだけに、最後まで走り切ろうとしていました。しかし、10周目にオイル漏れから火がついてしまい5コーナーにマシンを止めてリタイア。津田本人に火傷はなく、無事でしたが、アレックス・リンスも序盤に縁石にヒットした際、ホイールのリムが曲がってしまいスローパンクチャーに見舞われてリタイアしており、スズキ日本グランプリラストランは、残念な形になってしまいました。
アジアタレントカップは江澤がポイントリーダーに
若手の登竜門IDEMITSU ASIA TALENT CUPは雨の影響で土曜日のレースは中止になり、日曜日に2レース行う話も出ましたが、結局レース1のみが日曜日の朝一番に行われました。序盤から彌榮郡がレースをリードしますが、接触がありロングラップペナルティを受けてしまいポジションダウン。そこからファステストラップを出して追い上げると再びトップに浮上。しかし、10周目のV字コーナーで転倒を喫してしまい悔しいリタイア。その後、5台のトップ争いを江澤伸哉が制し、今シーズン2勝目をマークしました。江澤は、この勝利でポイントリーダーに踊り出て、残り2戦4レースでシリーズチャンピオンを射程に捕らえました。
3年ぶりのMotoGP日本グランプリは、コロナ禍でいろいろ規制のある中、多くのお客さんが来場していました。その数は、3年前より減りましたが、選手に対する拍手や声援を聞くと、本当にレースが好きな人が来ているんだなと感じました。世界的に見るとワーストを争う観客動員数ですが、MotoGPの魅力を、ぜひ他の人にも伝えてもらいたいですね。
鈴鹿8耐から続いた怒濤のスケジュールが今回のMotoGP日本グランプリでようやくひと段落。忙しくさせていただいているのは感謝なんですが、10月はレース取材の予定も(今のところ)ないので少し休暇をいただこうと思っています。
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