オフロードマシン専門誌『ゴー・ライド』連載企画『令和の世に放つ 愛と青春のオフロードマシン』より、バイクが熱かった時代にラインナップされた懐かしのオフロードマシンを、”迷車ソムリエ”ことムッシュ濱矢が振り返る。本記事では、ムッシュが独断と偏見で選んだ「200」にこだわった排気量200ccクラスのモデルを紹介する。思い出せば、今まで排気量200㏄と謳った機種は、少ないようで多くあった。中途半端だなんて言ってはいけない、その魅力に迫る(たぶん)。
●文:ゴー・ライド編集部(濱矢文夫)
都合のいい排気量たち
125ccじゃなく250ccでもなく、200ccの機種が過去にいくつも存在してきたのはなぜか。キーとなるのは軽さとパワーのバランス。125に乗っていると、「あぁ、あとちょっとパワーがあればもっとおもしろいのに」って思う瞬間があるでしょ? そして250に乗っていると、「あぁ、もうちょっと軽くてコンパクトだったらよかったのに」と思う瞬間があるでしょ? このないものねだりの子守唄な要望に応えたのが200ccクラスと言える。
- ホンダ MTX200R Ⅱ
- スズキ TS200R
- ヤマハ DT200WR
- ホンダ XLR200R
- スズキ DJEBEL200
2ストロークエンジンだったら200ccでも十分なパワーが出せるし、エンジン単体がコンパクトだから125とおなじ車体に積めて、パワフルにできるメリット。オフロードマシンのキモとなる運動性能にこだわると、200ccのバランスはとてもいい。4ストロークでも基本同じことだけど、パワーをいたずらに追求せずに各部品の剛性を最適化して作ると、2ストロークより軽さで差別化できて燃費も伸ばせる。
2ストロークなら軽快な運動性能の追求。4ストロークなら車両価格/燃費も合わせてじつに効率的な存在。だから中途半端に思える200がおもしろい。”帯に短したすきに長し”ではなく、”過ぎたるは及ばざるがごとし”だ。万人が操りやすく、ちょうどいいサイズとパワー&価格。200は異端ではないと断言しよう。今となっては’70年代から’90年代半ばまでのように販売機種が多くないから、200が珍しくなってしまったので少し残念。
最後に200のいいところをもうひとつ。これが重要。なんだか酸いも甘いも辛いも知っているバイクツウみたいでしょ。「125じゃなく250でもなく、私は200を選んで乗っているんだよ、あえてね」って感じ。お金とか見栄とか関係なく、自分に合ったちょうどいい機種を選択しているオトナの趣味人イメージ。イメージは大事マンブラザーズ。
ホンダ MTX200R II:ホンダ2ストをCRMから語ると坊やだ
125ccの車体に排気デバイス付き水冷2スト193ccエンジンを積んだ、ホンダ MTX200Rの登場は衝撃だった。パラダイムシフト、これぞイノベーション。そう部屋の改装がね…それはリノベーション。スターバックスとオートバックスほど違わないけど。それはさておき、触発されたヤマハが翌年に同じコンセプトでさらにパワフル&前がディスクブレーキのDT200Rを出す。桜木花道と流川楓。北島マヤと姫川亜弓。ライバルがいると盛り上がる。負けらんねぇと、’85年に気持ちパワーアップしてアルミスイングアームでディスクブレーキ化したR IIへと進化した。ワクワクしっぱなしの時代だった。
スズキ TS200R:放射能除去装置のような画期的高性能車だった
スズキTSシリーズは長らく“ハスラー”のペットネームで親しまれた。そうそう、顔色が悪いガミラス帝国の一番偉い人…皆さん、それはデスラーだ。パイプオルガン弾くよ。だが、このTS200Rにはハスラー総統のペットネームは使われていない。それだけ過去とは違うという強いこだわりがあったのだろう。MTX200RやDT200Rが200戦争をしていた時に、ネジが1本抜けたような2スト加速で話題となったRH250を出して独自路線を突き進んでいたから、遅れてTS200Rの投入となった。この同じ年にはカワサキからも中間排気量のKDX200Rも発売されている。
ヤマハ DT200WR:一朶の白い2ストの煙を見つめて登ってきた
もっともレーサーに近いDT。ディスコで扇子と腰を振るお姉ちゃんを見つめていたバブル期に開発された、コストなども含めて突き抜けたDT。ある意味究極のDT。スペックなど詳細はググってね、てへぺろ☆(・ω<)。「いや究極のDTはあとのDT230LANZAだ」という人がいるだろう。確かにLANZAは素晴らしいが、司馬遼太郎の『坂の上の雲』冒頭文のように、ただ高みを見続けて性能を進化させることだけにこだわった最後のDTはこれだ。ラスボス感がある。だから2ストの煙のごとく髪もヒゲも○ン毛にも白いのが出てきた人にとって、思い出深い機種なのである。
ホンダ XLR200R:この世には不思議なことなど何もないのだよ
京極夏彦小説に出てくる中禅寺秋彦(京極堂)なら「確かにセル付きXLR200RからセルなしXLR250Rを覗くと恐ろしく思えるし、逆に250から200を覗くと馬鹿馬鹿しく思えたりする。しかしそれは別のものではない。同じものなのだ。バイクはいつも、何があろうと変わらず運行している。個人の脳が自分に都合よく、セル付きだ、セルなしだ、だと線を引いているに過ぎないのだ」なんていうかも。榎木津礼二郎なら「うわはははっ! XLR250RもXR250Rも彼の下僕に過ぎない―さあ云ってみろ―彼とは何か―200Rだ!」と叫ぶ。太宰治だったら「セルが付いていて、すみません」となる。
スズキ DJEBEL200:広瀬すずっていうより伊藤沙莉って感じ
DJEBELと“D”がつくことからドジェベルとからかわれることもあるけれど、ジェベル200は偉大である。13Lとタンク容量に余裕があって、4スト単気筒エンジンは燃費が良く、満タン航続距離を稼げる。シート高もオフ車にしては低い。そして車両価格が低め。素晴らしいコストパフォーマンス。クラスでいちばんカワイイ子じゃなく、容姿が普通の気兼ねなく話せる気の合う子って感じ。ちょっとパワーが足りなくても許せる。だから輸出モデルも合わせるとロングセラーだったわけだ。さらにそのエンジンはBETAのアルプに使われ、現在も生きながらえているのだから恐れ入る。
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