BMWモトラッドは、90年以上にわたってメンテナンスフリーで環境に優しく、かつ快適なシャフトドライブを技術的基盤のひとつとして継承してきた。そして今、同等のメンテナンスフリーを実現したドライブチェーンを提供する……というのだが、いったいどういうこと?
Oリングチェーン、Xリングチェーンと進化してきたシールチェーンの次の一手
動力伝達効率に優れ、シンプルな構造で軽量かつ安価なドライブチェーン方式の歴史は、同時に摩耗や伸びとの戦いの歴史でもあった。昔のドライブチェーンといえば、ローラーやピン、プレートといった金属部品のみで構成され、かなり短いスパンでコンスタントに給油を施さないと、あっという間に潤滑不足に陥り、摩耗(=伸び)が進行していった。
それを解決するための技術として開発されたのが、Oリングチェーンと呼ばれた“シールチェーン”だ。これはローラーとピンの間を潤滑油で満たし、ラバー製のリングで塞いだ構造で、シール無しよりも多少のフリクション増加はあったものの、給油のスパンを飛躍的に伸ばすことが可能になって、メンテナンスの簡易さとチェーンの長寿命を実現した。
さらに、Oリングの断面のXの字のようにしたXリングチェーンの登場により、シール自体の耐摩耗性向上やフリクションロスの低減などを促進。また同時に、チェーンとスプロケットの加工精度の向上によって、偏摩耗や片伸びといった症状も劇的に減った。乱暴な加減速を避けて適切なメンテナンス、つまり給油さえ定期的に行っていれば2万kmを超えて使用できるケースも珍しくなく、チェーンへの気遣いはかなり減ってきていたと言えるだろう。
しかし、完全にメンテナンスフリーというわけにはいかず、BMWが90年以上にわたって技術的基盤のひとつとして採用してきたシャフトドライブのように(ほぼ)乗りっぱなしにはできなかった。1000kmを超えるようなロングツーリングであれば、途中でチェーンへの給油も必須だった。雨中走行でもすればなおさらだ。
そんなドライブチェーンの常識を覆そうとしているのがBMWである。今回発表されたMエンデュランスチェーンは、従来のXリングチェーンと同様にローラーとピンの間に潤滑剤が充填されている。しかしそれだけではない。以前はローラー(スプロケットに直接触れて駆動力を伝える部分)に必要だった潤滑剤の追加=給油が不要になり、定期的なチェーンの遊び調整も必要なくなるという。

Mエンデュランスチェーンは、ローラーとブッシュに施したta-Cコーティングにより、ピンとの接触部分およびスプロケットとの接触部分に高い硬度と耐久性、そして低い摩擦係数を実現する。 [写真タップで拡大]
これを実現するのは、ローラーに対して施された新たなコーティング、工業用ダイヤモンドとも呼ばれる四面体アモルファスカーボン(ta-C)だ。このコーティングは非常に高い硬度と耐久性を特徴としており、この点においては、よく知られているDLCコーティング(Diamond Like Carbon)と純粋なダイヤモンドの中間に位置するというもの。ta-C工業用ダイヤモンドのコーティングは、これまでの金属表面のローラーのように摩耗することはなく、同時に摩擦係数も大幅に低減する。
BMWモトラッドの主張によれば、Mエンデュランスチェーンの四面体アモルファスカーボンコーティングを施したローラーは、優れたドライ潤滑特性と摩耗の排除により、シャフトドライブのモーターサイクルと同等の“ほぼメンテナンスフリー”という快適なバイクライフを提供する。この「快適さ」には、もちろん従来のチェーン給油の副産物として必ず生じていたホイールへのグリスの飛散、これの洗浄から解放されることも含まれている。
525ピッチのMエンデュランスチェーンは、アクセサリーとして、または工場オプションとして、S1000RRとS1000XRという2台の4気筒モデルで最初に利用することができるようになる。そして将来的にはBMWの他のモデルにも展開する予定だというから楽しみだ。
日常メンテナンスの一部から解放され、さらにホイールの黒い汚れとオサラバできるのなら、多少高くてもいいから他メーカーにも供給してほしいくらい。ぜひお願いします!
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