去る6月17日、元グランプリライダーで現オートレーサーの青木治親氏が主宰するサイドスタンドプロジェクト=SSPが、「パラモトライダー体験走行会」を開催。千葉県の袖ヶ浦フォレストレースウェイで、初めて一般の障がい者をバイクに乗せて走行させた。
青木拓磨氏、W・レイニー氏に続く成功例を実現
SSP(サイドスタンドプロジェクト)の始まりは、’19年7月の鈴鹿8耐。テスト中の転倒で下半身不随となった青木拓磨氏を22年ぶりにバイクに乗せて、観客7万人の前でデモ走行を成功させたのは記憶に新しい。追って10月には日本GPで青木3兄弟によるデモ走行が実現。さらに’93年シーズンにレース中の転倒により下半身不随となったウェイン・レイニー氏が再びバイクに乗るためにSSPのノウハウが使われ、11月にケニー・ロバーツ氏やエディ・ローソン氏らと一緒にデモ走行が行われた。当初は、青木治親氏と宣篤氏が拓磨氏を支える兄弟としてのチャレンジだったが、現在は一般社団法人SSP(Side Stand Project)として、治親氏が代表理事を務める組織に発展を遂げている。
そして、’20年6月17日に一般の障がい者を対象としたSSPによる「パラモトライダー体験走行会」が、千葉県・袖ヶ浦フォレストレースウェイを舞台に初開催された。今回、再びバイクに乗るパラモトライダーとして選ばれたのは、野口忠さん(トップ写真右)と生方潤一さん(トップ写真左)の2名。ともにレースを経験したほどのバイク上級者だったが、野口さんは仕事中の事故で、生方さんは全日本ロードレース参戦中の転倒で下半身不随となり、それぞれ27年、28年ぶりのライディングとなった(走行会の模様は、青木宣篤さんのYouTubeチャンネルに動画がアップされているので、ぜひご視聴を)。
SSPによる一般向け体験走行プログラムは、初回からハード/ソフト面で非常に充実しており、取材陣としては驚くばかり。まず、万が一の転倒に備えたアウトリガー付きのKTM390デュークで発進と停止の練習を行った。野口さん、生方さんともにバイク経験者なので、約30年ぶりにも関わらずエンストすることなくスムーズに発進し、100mほど先の停止ポイントに待つスタッフの所までたどり着いてきっちり停車。Uターンはスタッフが行い、またスタート地点まで戻って停車。これを何回か繰り返したら、今度はサーキット本コースでの走行に移る。
本コースでのバイクは、MVアグスタ ストラダーレ800とBMW S1000XRで、こちらはアウトリガーなし。両足は、ステップに自転車競技用のペダルを取り付け、ブーツ底に取り付けたクリートによって固定。変速は、左グリップ部に設置されたスイッチでアクチュエーターを操作し、シフトペダルを動かすようになっている。これらのシステムは、拓磨氏がこれまでCB1000R→CBR1000RRで走行してきて確立されたもので、大きな改造なしに一般モデルをパラモトライダー仕様にできるのがメリットだ。
野口さん、生方さんともにデュークで感覚を掴んでおり、袖ヶ浦フォレストレースウェイの全長2436mのコースを見事走り切った。「走り出した瞬間に懐かしい感じがした。バイクに乗るイメージはありましたし、思い出しました」(野口さん)、「ハンドコントロールのカートは経験がありました。でもやっぱりバイクはいいですね!」(生方さん)と、それぞれ経験者だけに上半身だけで行うコーナリングも練習なしでクリア。SSPのプログラムがバイク経験者に広く通じることが確認されたと言えるだろう。
この走行会には、障がい者の健康面をケアするため医学療法士の時吉直佑さんも参加するなど、多くのスタッフが関わっている。目的は「障がいを負ってもバイクに乗りたい」という人の願いを叶えることだが、一般のパラモトライダーを走らせるためにかかる労力、必要とする協賛はそれなりのものがありそうなのは想像に難くない。もちろんライダーから料金を取ることもない。しかし、スタッフたちは約30年ぶりにバイクに乗った野口さん、生方さんの笑顔から”無形の報酬”を得ているように見受けられた。支える側も支えられている”サイドスタンド”のようなプロジェクトの現場には、初めてバイクに乗った時以上の感動があった。
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