MotoGPにおいて、’15年のホルヘ・ロレンソ以来タイトルから遠ざかっているヤマハ。やるべきことを整理し、集中することで、復活の狼煙を上げようとしている。ヤマハのMotoGPプロジェクトリーダーとともに’19シーズンを振り返る。インタビュー後編では、苦しんだ’17〜’18シーズンに対し、’19年はどのように勝負を仕掛けたかについて掘り下げる。
●文:高橋 剛 ●取材協力:ヤマハ発動機 ※本内容は記事公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
モータースポーツは、つくづくヒューマンスポーツだ。ハイテクが惜しみなく投入され、極めて精度の高いマシンで競われるMotoGPも、結局のところは人間のスポーツである。 '19シーズンのヤマハのリザルトを[…]
期待と前向きさを共有して苦境を乗り越える
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物事がうまく進まない時ほど、ライダーは多くを求めるものだ。特に自信を失うような事態に直面すると、あちらこちらにその原因を見出し始めてしまう。そしてファクトリーチームには、ライダー個々のリクエストに応えられるだけの体制ある。「あれが欲しい」と言えば用意し、「これを試したい」と言えば準備できるだけの体制だ。
だが、バイクは非常に繊細な乗り物で、無数のパーツの組み合わせによってフィーリングが大きく異なる。あれこれといじればいじるほど、問題の本質がどこにあるのか見失いがちなのだ。これは決してライダーだけに当てはまることではなかった。開発陣もまた、整理と集中が必要だった。
「’17〜’18年は非常に苦しいシーズンでした。頑張ってモノづくりをしても、結果につながらなかったんです。チームも、ライダーも、そして我々開発陣も、かなりストレスを感じていました。そこで’19年は、山積みになっている問題点の中から、『今、自分たちにもっとも足りないものは何か』を抽出し、その解決に集中することにしたんです」
いくら弾を撃っても、命中しなければ徒労感が残るだけだ。それよりも、自分たちの得意とする一撃でピンポイントな勝負を仕掛ける。ファクトリーチームならではの開発の自由度にあえて制限をかける戦略だった。
もともとコーナリングを武器としていたM1だったが、ライバルの進化に伴い相対的に競争力を失っていた。最高速でライバルに勝るエンジンも手元にはない。そこで改めて自分たちの強みを見つめ直し、「コーナーの前後100mでは誰にも負けないマシンを作ろう」と志した。
そのために必要なのは、車体よりむしろドライバビリティに優れたエンジンだろう、と判断した。もちろん、フレームに複数の仕様を用意したり、カーボンスイングアームにトライしたりと、車体の進化も忘れない。だが、主眼はあくまでもエンジンと定め、制御を含めたセッティング出しに集中した。その号令を出したのが鷲見氏だった。
「私の役割は、ヤマハ本社の開発部隊とチーム、そしてライダー、三者の思いをひとつにして進歩していくための交通整理だと思っています。
的を絞った結果として、ライダーに『今は辛抱してくれ』とお願いする時もあります。でも、現状やるべきことと未来に向けてのスケジュール──次にはこのタイミングでこういうモノを用意しますよ、ということ──を明確に伝えればライダーも理解してくれる。
レースは、どうしてもいい時、悪い時という山谷があります。それでも一喜一憂せずにポジティブさを維持できるようになったかな、と思います。
レースに関わる全員で、期待と前向きさとモチベーションを共有できれば、苦境も乗り越えられるんじゃないかと」
’19シーズンを終えてみれば、ビニャーレスは優勝2回を含めて7回表彰台に立ち、ランキングは3位につけた。
間もなく開幕する’20シーズンに向けて、鷲見氏は「レース中の強さを取り返したい。マルケスからチャンピオンを取り返したい」と言った。
取り返す。自分たちが元々持っていたものを、再び掌中に収める。鷲見氏は’04年、ホンダから移籍したロッシがいきなりヤマハでチャンピオンを獲った年に、車体設計を担当していた。美酒の味を知っているのだ。
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