かつては「高校生にバイクは不要」と書かれたリーフレットを配布していたほどの”三ない運動”推進県・埼玉が、ここへ来てなぜ運動を取りやめるに至ったのか? 「高校生の自動二輪車等の交通安全に関する検討委員会」で会長を務めた日本大学理工学部の稲垣具志助教に、引き続き話を聞いた。
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【稲垣 具志氏】日本大学理工学部交通システム工学科助教。財団法人豊田都市交通研究所の研究員、大同大学、愛知工業大学、成蹊大学への勤務を経て現職。研究分野は土木計画学と交通工学、研究キーワードは都市交通計画、地区交通計画、交通工学、交通安全。ドラッグスター400を所有し国道を下道で走破するのが趣味という一面も。
かつては「高校生にバイクは不要」と書かれたリーフレットを配布していたほどの"三ない運動"推進県・埼玉が、ここへ来てなぜ運動を取りやめるに至ったのか? 「高校生の自動二輪車等の交通安全に関する検討委員会[…]
「三ない運動をやめる理由がわからない」
Q:反対の立場を取られた委員はどのような理由だったのでしょうか?
稲垣氏:「やめる理由がわからない」と言ってましたね。三ない運動によって高校生の命が守られ、事故も死者も減り、ずっと抑えられているのに、何でわざわざやめる必要があるのかと。そういう意見が一番多かったです。
三ない運動というのは、日本の交通安全教育の特徴を表しているひとつの事例だと思います。「あの子たちは守られているんだから、何でやめる必要があるの?」という交通安全教育なんですよね、考え方としては。「三ない運動をやめることによって新たな事故が起きるでしょ。じゃ、どう責任を取るの?」という意見もありました。
議論すべきはプロセス
Q:議論を重ねる中で委員の言動に変化はあったのでしょうか。
稲垣氏:まず、この検討委員会は、三ない運動をやめるか続けるかを議論したわけではないんですよ。心の中では永遠に反対だと思います。合意形成というのは、全員が満場一致で賛成というのはあり得ないんです。「三ない運動を続けますか、やめますか、どうですか?」なんて聞いてたら、結論は出ないんですよ。
高校生としての日常生活が脅かされないように、また、それぞれの高校における登下校のあり方を崩さないように、どうやってこの子たちに交通安全教育ができるのかという観点で議論しましょうと。その時に、三ない運動を続けることを前提で話すのではなく、三ない運動がなくなって学習指導要項も変わって高校生がバイクに乗り出すということを仮定した場合に、本当に大丈夫なのかどうかを話しましょうと。
交通安全教育が本当に実行可能なのか、やってるだけでなく意味のあるものが期待できるのか、それによって子供たちが本当に非行に走らないのか、いろんなことを多角的に議論して、問題がないのであれば最終的には三ない運動をやめましょうとか。
やっぱり難しいとなれば、結論として三ない運動を続けるだけであって、議論するのは結論ではなくプロセスなんです。高校生が健全に安全な学校生活を送りましょうというのは全員賛成なんですよ。それが本当に維持できるのかどうかを議論しましょうと。
委員の考え方や懸念を整理
その場の水掛け論で議論するのではなく、皆さんの考え方や懸念をきちんと書面で出してもらい、それぞれの状況に対してメリットやデメリットも整理しました。それをやることによって、構えていた委員の方々も、子供たちの健全な育成であったり交通安全意識の醸成といったことに対して、どんどん議論が成熟していったという感じです。
議論していく中で、県全体としてこういう流れでやっていくとなり、県の教育委員会が責任を持って交通安全教育をやっていくと宣言しているのだから、「じゃ、ちょっと見てみよう」みたいな感じになりました。
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