ヤングマシン本誌に連載中の「上毛GP新聞(じょうもうグランプリしんぶん)」から、エンジンパワーのエスカレーションについての話題をお届け。レギュレーションの縛りが厳しいモトGPマシンは最近、技術的なトピックスが少ない。開発の幅があるスーパーバイクの方が、ダイナミックで分かりやすい技術革新が行われているというが――。
パワーを出すのは簡単。どう仕上げるかが課題だ
スーパーバイクの馬力戦争が、今、スゴイことになっている。ドゥカティのパニガーレV4Rが221ps、CBR1000RR-Rが218ps! 200ps超えが大きな壁だったはずなのに、もはや「220psないと勝負にならない時代」になりつつある。
パワー自体を出すのは、実はそう難しいことじゃない。ただ、摩擦抵抗や機械的な抵抗などによって失われてしまう分が多い。
ここで注目したいのは動弁系だ。ドゥカティのエンジンが飛び抜けてパワフルなのは、バルブスプリングを使わないデスモドロミックという機構を採用しているから、と言っていいだろう。
部品点数の多さやメンテナンスが必要となるといったデメリットはあるが、バネを使わないためバルブサージングなどが起きにくく、高回転化が可能だ。
一方、ドゥカティを除くスーパーバイクはデスモドロミックではなく、通常のバルブスプリングを採用している。それでも同等レベルの馬力を出しているのは、BMWのS1000RRから採用され始めたフィンガーフォロワーロッカーアームの存在が大きい。
カムシャフトが直接バルブリフターを押し下げる直打式が一般的。バルブリフターの代わりにフィンガーフォロワーを利用しているのがスーパーバイクだ。
フリクションロスを低減したり、バルブが開く時間を長くしたりと、パワーアップに対する効能がたっぷり。デメリットはコスト増ぐらいで、スーパーバイクならそれも吸収してしまえる、というワケだ。
乗って感じるフィンガーフォロワーのメリットは、トルクの増大だ。バルブスプリングを押すことに使われていた力が、トルクに転じている感じ。より走りやすい特性で、武器になっていると思う。
フィンガーフォロワー以外にも、さまざまな機構が採用されている。GSX-R1000だと、可変バルブタイミングも目立つが、正直、ライダーとしてはバルブタイミングの変化は分からない。と言うか、分かっちゃダメ。
エンジニアリングの立場からすると、高回転域でパワーを出そうとすると、必ずや低回転域のパワーが細るそうだ。コイツをどうにか解消しようとアレやコレやトライするワケだが、レースで求められるのはキレイな出力特性。
限界域でコーナリングするのがレースの常なので、低回転域から高回転域までキレイにつながってくれないと、深いバンク角からでは怖くて開けられないエンジンになってしまうのだ。
さて、賢明な読者諸氏ならお気付きと思うが、フィンガーフォロワーも可変バルブタイミングも、メカニカルな機構なのだ。
「イマドキ、機械的にどうにかするなんて時代遅れじゃないの? パワーは出せるだけ出しておいて、あとは電子制御でどうにかすればいいじゃん」
チッチッチ。そうではありません。かつて一緒にスズキのモトGPマシン開発に取り組んだ秋吉耕佑は、電制制御頼みのマシンを走らせ、ピットに戻るとエンジニアにこう言った。
「うーん、出汁が出てないな」
宇宙人ならではの名言である。翻訳すると、ベースができていない、ということ。元が悪いエンジンは、いくら電気的に補正しても必ず悪いところが出てしまう。
電気で作り込んでグラフ上はフラットなパワーカーブを描いたとしても、乗って感じるフィーリングはまったく別なのだ。
ちなみに、「こんなにスーパーバイクがパワーアップしたら、かなりモトGPに近付いたんじゃないの!?」とお思いのアナタ。ご安心ください。モトGPマシン、まだまだ別モノです。
8000rpmまでならほぼ同レベルだが、その先は相変わらず異次元のパワーだ。量産車には使われていないニューマチックバルブ(バルブスプリングの代わりに圧縮空気を使う)やシームレスミッションなど、ハイテクのさらに上を行く技術が投入されているだけのことはある。
そして、いずれは量産車スーパーバイクにも……!? パワーの追求と技術の進化は止まらない。
モトGPマシンは、それでもやはり新技術の出発点
誰でも買えるスーパーマシン
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