カスタムパーツの世界で高い人気を誇るブランドが“STRIKER”だ。日本のみならず、アメリカでも活躍したプロライダー、新辰朗さんが手掛け、自らレースにも参戦することで開発。そのこだわりを2回に分けてお届けしよう。
自分が満足できる仕上がりまで追い込む
「マフラーのデザインを決定する際、サイレンサーが徐々にアップしていく角度、全体的なバランスがとても大事なんです。絶対的なルールがあるわけではないのですが、ひとつ言えるのは車体に対して自然な造形かどうか。全長も長過ぎず短過ぎず、パイプの径も太過ぎず細過ぎず、すべてがちょうどいいところに収まっていること。開発の過程ではこのスタイルを最優先しながら性能を出していく。マフラー製作の過程で最もこだわっている部分を挙げるなら、そこです」
新 辰朗(あらた たつろう):全日本ロードレース選手権、国際A級昇格後、GP250、TT-F1、GP500、スーパーバイクなどで活躍した他、アメリカ全米選手権出場のシーズンでは優勝も記録。現役引退後もテイスト・オブ・筑波などのイベントレースには積極的に参戦し、ゼファー1100で達成した0秒台は今も語り草になっている。
そう語るのは、カラーズインターナショナルの代表を務め、バイクのアフターパーツブランド“STRIKER(ストライカー)”を手掛ける新辰朗さんだ。もちろん、角度も長さも太さもすべてがマフラーの性能に大きく影響する。それらをすべてクリアした上で、独自のデザインを追求し続けているのだ。
「シンプルに言うなら、“いかにカッコイイか”ということですね。バイクは乗っている時だけじゃなく、眺めたり、磨いたりすることも含めての趣味でしょ? だからカタチや色は絶対外せないものだと考えています。もっとも人の好みは十人十色で、パワーやトルクと違って数値化できるものではありません。結局のところ、僕自身が仕上がりに満足しているかどうか。なので、どんな製品も例外なく自分でテストしてから送り出しています」
実際、新さんはテストのみならず、製品のアイデアから素材選び、ロゴの大きさや配置場所など、ありとあらゆるプロセスに関与。それらを制作現場に逐一伝え、工場にも足を運びながらカタチにしていくのも新さん自身だ。それが1995年の創業以来、変わることなく続けられてきた同社のスタイルである。
結果的に、そのセンスが時代のニーズにマッチした。数えきれないほど存在するマフラーブランドの中でストライカーの名は完全に浸透。とりわけ、カワサキ車の中のユーザーの中では圧倒的なシェアを確立している。
「全日本で活動していた頃、始めた当初はホンダ、プロを目指した途中からはずっとヤマハのマシンで走っていましたし、アメリカAMA、WERAシリーズでもほぼヤマハ。一度だけ8耐でヨシムラのマシンに乗せて頂いた時はもちろんスズキです。そういう意味では、カワサキだけはレースでずっと縁がなく、ブランド設立当初はゼファーの名前すら知らなかったくらい。いや、これホントの話で、レースに没頭していたせいでストリートバイクのことはまるで知識がなかったんですよ。でも僕ら世代のレーサーって、意外とそんなものだと思いますよ。RSとTZ(いずれも当時の市販レーシングマシン)のことは異常に詳しいのに、あとはなにがなんだかさっぱりわからない。だから、空冷とかネイキッドと言われてもとまどうばかりで、サーキットの外にもバイクの世界はあったんだって感じでしたね(笑)」
しかし新さんは、そのとまどいを新しい知識として取り込んでいった。プロライダー目線で製品の良し悪しを判断していた時は、まずパワーありきだ。逆に言えばそれ以外に関心はなく、ましてデザインや色のことなど考えたこともなかったが、コンマ1秒の短縮につながればそれでよしとしていた時代からは一転。ストリートを走るユーザーの声を聞き、それを製品に反映させていったのだ。
その名前が最初に広まったのが、カワサキZRX1100用のフルエキゾーストだった。手曲げで制作されたそれには、新さんこだわりの角度が反映されていることに加え、装着したままでオイルフィルターを交換できることがひとつのポイントになっていたのである。
というのも、当時は利便性や整備性を無視してまでスペックを追求したモノが多く、サーキットユースとストリートユースの境目がかなりあいまいだった。本来なら新さんもそちら側の人種ながら、ユーザーが求めていることに対し柔軟に対応。そのフルエキゾーストは大きなヒット商品となり、以来、ストライカー=カワサキのイメージが定着することになったのである。
もちろん、ホンダ、ヤマハ、スズキ用のパーツも豊富に揃える他、KTMやBMWといったヨーロピアンメーカーもフォロー。加えて、ハーレー・ダビッドソン向けの専用ブランド“DLIVE(ドライブ)”も立ち上げるなど、その幅は実に広い。
アイテム数も多岐に渡り、フルエキゾーストやステップキット、ガードスライダーといった人気にして定番アイテムの他、フェンダーなどのドレスアップパーツ、ステムやスイングアームといったパフォーマンスパーツに到るまで、ありとあらゆるジャンルを網羅。カスタムパーツの総合ブランドとして世界へもそのシェアを広げつつある。
そこに共通する機能美がいかにして生まれるのか。次回はそこに迫ってみたい。
●文:伊丹孝裕 ●写真:坂上修造
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