第47回マシン・オブ・ザ・イヤー2019

生い立ちとデザインで振り返るMOTOROiD

『幸せをデザインする』~MOTOROiDがヤマハにもたらしたもの~ [第3回:世界3大デザイン賞コンプリートという“ご褒美”]

  • 2019/11/12

「第45回東京モーターショー2017」を沸かせたコンセプトモデルのヤマハ・MOTOROiD(モトロイド)。あれから早くも2年が経過したいま、自律するバイクが誕生した思想的背景を振り返る。そんな特集の最終回では、世界三大デザイン賞をすべて獲得し、技術だけでなくデザインという面でも世界的に認められた功績について、あらためて紹介しよう!

「デザイン界のワールドカップ」を制したようなもの

生きものを思わせるパフォーマンスで、「第45回東京モーターショー2017」のヤマハ発動機ブースを沸かせたコンセプトモデルのMOTOROiD(モトロイド)は、翌年になると世界最高峰のデザイン賞を次々に受賞。二輪の自立化や人工知能を用いた認識機能といった技術的な面だけでなく、その技術や機能を具現化あるいは視覚化する造形という部分でも、大きな評価を受けることになった。

まず、世界最高峰とされるデザイン賞のひとつである米国の「International Design Excellence Awards(IDEA)」で、最高位のゴールドを受賞。ヤマハとしては、この金賞を獲得するのはモトロイドが初めてとなった。IDEAは、アメリカ工業デザイナー協会が主催するデザイン賞で、革新性やユーザーエクスペリエンス、審美性などの観点から審査が実施され、自動車や家具、医療機器、産業機械など多彩なカテゴリーから卓越したデザインが選定される。第38回となったこの年は1870点を超える応募があり、金・銀・銅賞までをあわせて145点が受賞。モトロイドは、このうちの最高位を獲得した。

IDEAの金賞受賞というニュースは2018年9月に飛び込んできたが、その月末にはさらに、もうひとつの世界的デザイン賞で最高位獲得が発表された。モトロイドは、ドイツのノルトライン・ヴェストファーレン・デザインセンターが主催する、格式の高い世界的なデザイン賞である「Red Dot Award:デザインコンセプト2018」において、世界55ヵ国5640点の応募から40点だけが選ばれる「Best of the Best」に選出されていたが、さらにその中から1点だけが選ばれる大賞の「Luminary award」を受賞した。日本の企業がこのルミナリー賞を獲得するのは初めてのこと。9月28日にシンガポールで開催された授賞式でこれが発表されると、モトロイドの開発に携わったメンバーにもすぐにその大ニュースは伝わった。

そして2019年に入ってからモトロイドは、こちらも国際的に権威のあるデザイン賞として知られる「iFデザインアワード2019」を受賞。こちらは、ドイツのハノーバーを拠点とする世界で最も長い歴史を持つ独立したデザイン団体の「iF International Forum Design」が、1953年から主催するデザイン賞で、全世界の工業製品等を対象に優れたデザインが選定されている。そしてこの「iFデザインアワード」を受賞したことで、モトロイドは世界3大デザイン賞をすべて受賞したことになる。

左:浅村欣司さん[ヤマハ発動機 モビリティ技術本部 デジタル開発統括部 デジタルエンジニアリング部 基盤強化グループ]/右:神谷徳彦さん[ヤマハ発動機 デザイン本部 プロダクトデザイン部 MCプロダクトデザイングループ]

モトロイドの研究に関するプロジェクトリーダーを務めた浅村欣司さんは、この快挙についてこのように説明する。

「今回モトロイドが受賞したデザイン賞のうちレッド・ドット・アワードは、その年に1点しか選ばれないルミナリー賞を獲得しました。日本には非常に多くの企業がありますが、ルミナリー賞を日本企業が受賞するのは今回が史上初なので、スゴさはわかっていただけるかもしれません。日本は2019年に、ラグビーワールドカップで大変盛り上がりましたが、このルミナリー賞はデザイン界のワールドカップで優勝したというようなイメージ。日本としてではなくヤマハ発動機としてエントリーしているので、サッカーのクラブワールドカップ優勝というほうが近いかもしれません。IDEAには上位として金・銀・銅賞があるのですが、ヤマハはこれまでその下に相当する佳作止まり。今回はその壁を一気に超えて、金賞を獲得しました」

iFデザインアワードでは最高峰となるゴールドこそ逃したが、スタンダードのiFデザイン賞でも世界的に見ればかなりハイレベル。各アワードにより、受賞作品の傾向などにある程度の違いが生じることも頻繁にあるが、浅村さんはそれに加えて、アワードの開催時期も影響を与えた可能性はあると考えている。

「iFデザインアワードは、2019年に年をまたいで発表された賞。レッド・ドット・アワードの大賞候補にノミネートされてから半年以上も遅い時期だったので、すでに旬を過ぎたという判断をされたかもしれません。とはいえ、ヤマハとしては6年連続受賞を達成できたので、それに関してはよかったと思っています」

そして、モトロイドのデザインを担当した一人である神谷徳彦さんは、世界3大デザイン賞をすべて獲得できた要因を、このように分析している。

「やはり、新たな技術である自立機構を、わかりやすくシンプルにデザインできたことが大きかったと思います。しかしそれだけではなく、開発や設計の思想や苦悩や哲学的な要素など、モトロイドの裏側にあるものが見えるデザインというのも評価されたと感じています。それに加えて、これまで見たことがないモノという新しさ。実際に使われている技術は非常に難解なのですが、モトロイドを見るとそれらが瞬時に理解できるような、『わからないけどわかる』というある種の変な気持ちになることが、世の中にインパクトを与えたのだと思います」

iFデザインアワード2019受賞により世界3大デザイン賞と言われる全てを受賞したMOTOROiD(左)。右はiFデザインアワード2019で同じく受賞したヤマハ最大馬力の船外機「F425A」だ。

ただし神谷さんは、この偉業がデザインチームだけで成し遂げられたとは考えていない。

「モトロイドのデザインが何を狙ったものなのか、その背景にはどのようなことがあるのかというようなことも含めて、海外のデザイン賞では英語でプレゼンテーション資料を作成する必要があります。日本の企業はどうしても、その部分が苦手な傾向にあるというか、英語を母国語としないことから不利なのですが、モトロイドに関しては我々の意図が翻訳後もしっかり伝わったことも大きかったと思います。デザイン賞ではありますが、単純に造形が優れていたというわけでなく、自立という核となる機構があり、それをデザインとしてまとめ、デザイン賞においては翻訳によって我々の意図を伝えたメンバーがいます。だから、ヤマハ発動機として獲得したという気持ちです」

賞のためではなく「感動創造企業」そして「Revs your Heart」を実現するため

いずれの賞も、同じ企業の連続受賞に関する規制などはない。ヤマハはこれまでも毎年これらの賞に応募してきたし、これからもそれを続ける予定だ。しかし、モトロイドでレッド・ドッド・アワードのルミナリー賞とIDEAの金賞を受賞するという実績をつくったことから、今後は目標とする賞のレベルは高くなるだろう。浅村さんも、「そこだけを考えたらすごくハードルが高いでしょうね」と苦笑する。しかし神谷さんはデザイナーとして、こうも話す。

「実際のところデザイナーとしては、賞を獲得するためにデザインをするということはまずありません。コンセプトモデルと市販モデルで重視することが異なるとはいえ、とにかく新しさのあるデザインとか、お客様にインパクトを与えられる造形とか、テーマに基づいたデザインを実現することしか頭にないんです。とはいえ、そうやって世に送り出したプロダクトが、デザイン賞を通じて新たな人々に知っていただくきっかけにもなるので、そういう視点でも、自分たちが手がけたコンセプトモデルやプロダクトが著名なデザイン賞をいただくことは、とてもうれしく価値のあることだと思っています」

自立と人工知能という技術だけでなく、それを視覚的に表現したデザインという部分でも、世界にインパクトを与えたモトロイド。第46回東京モーターショー2019で、この進化版や直接的な後継となるようなコンセプトモデルが発表されることはなかったが、研究は継続されているし、モトロイドそのものは現在も海外のショーなどでデモンストレーションを披露して、その動きと造形で人々に感動を与え続けている。

モトロイドがもたらしたものは、未来を想像するワクワク感。ヤマハ発動機は、企業理念に「感動創造企業」、ブランドスローガンに「Revs your Heart」を掲げているが、モトロイドの技術とデザインこそ、それを具現化したものではないだろうか。

ライダーの腰にそっと触れるようにサポートしてくれるデザイン。人と乗り物の関わり方が変わろうとしている。

●文:田宮徹

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