第47回マシン・オブ・ザ・イヤー2019

ヤマハとトライアンフ、哲学の違いとは

[MT-09 vs ストリートトリプルS]新世界を構築する、似て非なる3気筒[日英の845/765を比較テスト]

  • 2019/9/6

ヤマハの参入とプラットフォーム展開の充実化により、いまや非常に身近な存在となった並列3気筒エンジン。日英代表車を比較試乗して、あらためてその魅力を探る! 題材としたのは、ヤマハMT-09 ABSおよびトライアンフ ストリートトリプルS。ライダーは丸山浩と田宮徹の2名だ。

丸山 浩

TESTER:丸山 浩(プロ目線) 本誌メインテスターで、全日本ロードレースなどで活躍してきたレーシングライダーでもあるが、青春時代には日本一周の経験も。

田宮 徹

TESTER:田宮 徹(一般目線) 二輪誌を中心に執筆を続けるフリーランスライター。初代MT-09を新車から3年間所有。モトクロッサーのファンライドも楽しむ。

[市街地~高速道路]低中回転域での変化がライダーを飽きさせない!(丸山 浩)

以前からずっと言い続けていることだけど、市街地走行における並列3気筒エンジンの魅力は、ゆっくり走らせている状態でも、使用する回転域で雰囲気が変化するところにあると思う。鼓動感がある領域もあれば、スムーズになるところもあって、とにかくライダーを飽きさせない。

これは、今回比較したMT-09 ABSとストリートトリプルSにも共通するところ。というかこの2台が搭載するエンジンから受ける印象は非常に似ている。排気音とか、それを大きく響かせずに走るときにエンジン本体が発する音色とか……。

ただし、意外と異なる要素もあって、MTはかなりレスポンス重視の仕様で、ストリートトリプルに対して排気量で80ccの余裕があることも加わって、回転上昇の軽さと速さを感じやすい。対してストリートトリプルは、パワーがある領域で安定感もあり、これは僕が好きなウイリーの維持しやすさなんかにもつながっている。操りやすい雰囲気は、ストリートトリプルのほうが大きい。

YAMAHA MT-09 ABS

【YAMAHA MT-09 ABS】●価格:100万4400円 ●色:薄灰、青、濃灰………2017年型で初のマイナーチェンジを受け、外観刷新や機能性向上などが施された。2018年型からは上級版として、KYB製のスペシャルフロントフォークとオーリンズ製リヤショックなどを専用装備したSP(111万2400円)も用意されている。

一方でMTは、その過敏さを車体パッケージとしてのアンバランスな楽しさにつなげていると思う。普通にゆっくり走れるのに、スロットルを開けると激しくて荒々しい……というような。でもどちらのエンジンも、低回転域でのギュオーンという気持ちよいフィーリングは共通なので、市街地ではそれさえあれば満足できる。だって過敏すぎると思っ

これは、市街地から高速道路にシチュエーションが変わっても同じ。6速@100km/hでMTは4000rpm。ここまで回転が下がっていると、クルージングしているときの楽しいフィーリングがいっぱい。対してストリートトリプルは、同じ条件で5000rpmなので、レッドゾーンに入るのもMTより1000rpm上とはいえ、やや回りすぎているというイメージもある。

車体のほうも、ストリートトリプルはわかりやすいスポーツバイクといった味つけで、MTは柔らかい足まわりで普段使いやツーリング向きという傾向も強い。それでいてMTは、エンジンを高回転域まで使用したときに豹変するから、エンジン性能だけでなく機種としての立ち位置という点でも、いろんな要素がミックスされていて、これがまたおもしろさにつながっているのだ。

[市街地~高速道路]鋭いMT、優しいトラという意外性(田宮 徹)

市街地や高速道路における並列3気筒エンジンの優位性は、十分に常用できる低回転域と、トルクフルな中回転域にある。高めのギヤをキープしたモノグサ運転でも、かなり許容される懐の広さ。ギンギンに回して走るのも嫌いじゃないけど、常にそれではカラダも免許も疲れちゃうので、当然ながら公道では、まったり流す時間も長くなる。そんなとき、3気筒は優しい。

TRIUMPH STREET TRIPLE S

【TRIUMPH STREET TRIPLE S】●価格:109万円~111万2000円 ●色:赤、黒………2017年型でフルモデルチェンジ。新作アルミ製フレームに、先代675ccから排気量が増された765ccエンジンを積む現行型となった。Sはシリーズでもっともベーシックな仕様で、Rローが中間、RSが上級版となる。

今回の2台に搭載されているエンジンは、そんな走りを許してくれるという点ではほぼ共通。ただし中回転域では、機敏でスムーズなMTと、ざらついた味のある雰囲気のストリートトリプルというように、印象が異なる部分も意外と大きかった。

引き起こしや取り回しの軽さは、MT が有利。シートの座り心地は、ストリートトリプルのほうが優れている。ただしMTは、ワイズギアのコンフォートシートを3万2400円で導入できる。

EQUIPMENT[エンジン比較]MT-09 ABS×STREET TRIPLE S

【845cc/MT-09 ABS】電子制御スロットルを採用。エンジン特性は、スタンダードを基本に、より過敏なレスポンスのAモードと穏やかなBモードが選べる。クラッチ操作なしでシフトアップできるクイックシフトシステムと、レバー操作荷重の軽さも魅力的なアシスト&スリッパークラッチを搭載する

【765cc/STREET TRIPLE S】こちらもライドバイワイヤシステムを採用。ライディングモードはロードとレインの選択式だが、体感的変化は少ない。ちなみに、Rローはスポーツやライダー、RSはそれに加えてトラックというモードも選べる。Sはアシスト&スリッパークラッチが非搭載で、レバー操作は重め。

EQUIPMENT[メーターパネル比較]MT-09 ABS×STREET TRIPLE S

【MT-09 ABS】小型のフルデジタル表示式メーターを採用。エンジン回転数や残燃料がバーグラフ表示され、平均燃費や水温、気温や時刻やギヤ段数、左手スイッチで2モード+オフに切り替えられるトラコンや右手スイッチで選択する走行モードの状態を確認できる。

【STREET TRIPLE S】指針式の回転計と多機能表示の液晶パネルを組み合わせたメーターまわり。回転計の上部に埋め込まれたシフトアップインジケーターは、視認性に優れる。トラコンはオンオフ選択式だが、メーター左側のスイッチで変更する仕様だ。

EQUIPMENT[足まわり比較]MT-09 ABS×STREET TRIPLE S

【MT-09 ABS】インナーチューブ径41mmの倒立フロントフォークは、圧側減衰力も調整できるフルアジャスタブル仕様で、137mmのストロークが与えられている。リンク式のモノクロスリヤショックは、プリロードと伸側減衰力の調整が可能。標準セッティングは前後とも柔らかめだが、自分好みに仕様変更できる。

【STREET TRIPLE S】RローとRSが前後フルアジャスタブルなのに対して、ベースグレードとなるSは、リヤのプリロード調整のみというかなり割り切った装備。とはいえショーワ製の前後サスは、公道用スポーツバイクというテーマにジャストフィットなセッティングにまとめられていて、調整の必要性を感じさせない。

ライディングポジション比較[身長168cm/体重61kg]MT-09 ABS×STREET TRIPLE S

【MT-09 ABS】両足接地時はカカトがわずかに浮く。シートは前下がりで、これに対してステップはバック気味。ハンドルはワイドかつフラットで、上半身の前傾はほぼない。かなり個性的!

【STREET TRIPLE S】両足を素直に真下へ伸ばせ、足着き性はMTとほぼ同じ。上半身がわずかに前傾し、シートとステップとフラットバーハンドルの位置関係は、オーソドックスなスポーツバイクだ。

[ワインディング]2スト感覚まで体験できるバイク用ならではの個性(丸山 浩)

両車をワインディングに持ち込むと、3気筒という共通点よりも車体の違いに目が行く。ストリートトリプルは、オーソドックスなスポーツバイクで、マッチングが非常によい。対してMTは、エンジンの軽さや速さと足まわりの柔らかさのアンバランスに、やや戸惑いも感じてしまう。

MARUYAMA’S IMPRESSION

ただしMTは、サスペンションの調整機構が充実。そしてここでも、3気筒の多様性が生きるので、低めの回転数でトルクを活かした走りをすれば、フィーリングがよくなる。

なんて考えるとMTは、市街地から高速道路からワインディングまで、あらゆるシチュエーションに対応するモデルとも言える。あらゆることに及第点を求めた全部入りというのは、ともすればわかりづらさにもなるけど、逆にオーナー個々が用途を考えられるということでもある。

これに対してストリートトリプルは、公道スポーツバイクの基本形と3気筒を組み合わせたら、スポーツ以外のシーンでも乗りやすさが生まれた……というような乗り味。同じくフレキシブルだけど、生い立ちにかなり違いが感じられる。

話は変わるが、2ストロークエンジンなき現代、それに近い感覚を味わえるのは並列3気筒エンジンだと思っている。じつはそれほどピークパワーがあるわけではないけど、急激に立ち上がることでライダーにある種のリスキーな感覚を与えるという点で、非常に似ている。味と楽しさをここまで両立させられるエンジンというのは、なかなか少ない。

趣味の乗り物であるバイクの世界では、個性を放つエンジンもしっかり生き残り、あるいは新たに開発されることもある。3気筒エンジンほどの個性を持つクルマ用エンジンというのは、特殊なモノを除けばない気がする。手が届く価格帯でこれほどまで特徴のあるエンジンを操る楽しさを味わえるというのは、バイク乗りの特権ではないだろうか?

[ワインディング]公道での現実的なスポーツ性能を創出(田宮 徹)

TAMIYA’S IMPRESSION

ワインディングでの3気筒は刺激的。大してスゴい領域で操っていなくても、中回転域での盛り上がりに富むことで、満足感を得られる。オフ車乗りでもあるので、MTのよく動く足は、スロットルのオンオフだけで姿勢変化をつくれて好みだが、一方でストリートトリプルのわかりやすいスポーツ性も捨てがたい。MTのほうがより過激な雰囲気を持つが、そんなバイクに乗っている自分に、衰えぬ若さを感じてつい微笑んでしまう。

[vs 4気筒]回したくなる4気筒と回さなくてもよい3気筒

Example: KAWASAKI Z900

高回転高出力化という流れの中で誕生と進化の歴史を持つ4 気筒エンジンは、その結果として低中回転域ではダルな傾向にあり、この点に関して意外とツーリング向き。低回転域でゆったり走れるという点では3気筒と同じなのだが、やっぱり本領を発揮する高回転域を使いたくなってしまうことが多々ある。これに対して3 気筒は、同じ排気量なら高回転域でのピークパワーは4気筒に負けるけど、どの回転域を使用していても満足できる長所がある。低中回転域トルクの太さでは、3気筒が優位だ。

[vs 2気筒]並列はパワー的に不利で、Vツインは難しさも……

Example: YAMAHA MT-07 ABS

並列2 気筒エンジンの場合、クランクの爆発タイミングによって味わい深い特性にもなるが、やはりマルチエンジンと比べてパワーはかなり物足りない。その領域を使わないという割り切りも、ある程度は必要となる。対して3 気筒は、味があるのに高回転域での満足度も高い。V 型2 気筒エンジンは、パルス感という点で3気筒を凌ぐ個性を生みやすいが、車体設計や走行シーンに対応するフレキシブルさでは3気筒のほうが上。大排気量の水冷Vツインには、設計の限界とライディングの難しさも感じやすい。

3気筒は秀逸なトルク特性こそが魅力

845cc/MT-09 ABS

765cc/STREET TRIPLE S

開発者が語った3気筒のメリット………4気筒に対して小型軽量で車体設計に自由度がある

エンジントルクには、各気筒における燃焼過程で発生する雑味のない「燃焼トルク」と、ピストンの往復運動に由来してスロットルの開閉と関係なくクランクまわりに発生する「慣性トルク」がある。双方が合わさったのが「合成トルク」だ。

このうち、ライダーの意図に関係なく生まれる慣性トルクを除去することで、ライダーの操作に対してリニアなトラクション性能を実現するという思想を、ヤマハでは「クロスプレーンコンセプト」と呼んでいる。

4気筒にも2気筒にもないメリットがある。

MTの並列3気筒エンジンは、燃焼トルクの波を乱しにくい位置に慣性トルクの山谷を発生させることで、乗り手の直感的なコントロール性を高めているのが特徴となる。

もちろん、4気筒に対して軽量コンパクトという点も、3気筒の大きなメリット。スリムな車体設計に貢献することで、扱いやすさや良好な足着き性にもつなげている。

MT-09シリーズは、並列3気筒エンジンで一般的な120°位相クランクと等間隔爆発を採用。慣性トルクの振幅が少なく、燃焼トルクと剛性トルクがほぼ一致していることがわかる。

[TOPIC 1]イタリアGPでトライアンフ765が300.6km/hをマーク!

世界ロードレース選手権のMoto2クラスには、今季からトライアンフの3気筒765ccエンジンが全チームに供給されている。イタリアGPでは、Moto2でもミドルトリプルに徹底的なチューンを施せば実測300km/hに到達できることが証明された。3気筒のさらなる進化にも期待!

[TOPIC 2]ヤマハ845ccは重量級ツアラーにも搭載

ヤマハのLMW技術を採用した前2輪のナイケンには、MT-09用をアレンジした並列3気筒エンジンが搭載されている。低中回転域トルクに優れるという基本特性に、クランク慣性マスの18%増などでさらに粘り強さを向上させれば、845ccで263kgの重量級にも対応可能なのだ。

[まとめ]Moto2からナイケンまで勢力拡大中の3気筒に注目

今回のテストであらためて感じたのは、並列3気筒エンジンが持つ多様性。エンジン特性は、低回転域から高回転域までどの領域を使っているときも楽しさがあり、これが幅広いシチュエーションでの満足度につながる。一方で車体設計という点でも、4気筒と比べて軽量コンパクトという長所を生かしながら、さまざまなカテゴリーにアレンジできる。

田宮 徹×丸山 浩

一般量産二輪車で並列3気筒エンジンを手がけるのは数社だが、ヤマハやトライアンフやMVアグスタ以外も本当は進出したいのでは……とさえ邪推してしまうほど、3気筒は性能と価格のバランスにも優れていて、そこにも多様性を感じる。

3気筒エンジンには、レースという競争の舞台で弾きだされた過去もあるが、他と張り合わないというスタンスであるなら、これほどバランスに優れたエンジン形式はそうない。ユーザーがスペックには表れない要素に目を向けたとき、3気筒のさらなる躍進がはじまるだろう。

SPECIFICATIONS

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●まとめ:田宮徹 ●写真:山内潤也 ●取材協力:ヤマハ発動機販売 https://www.yamaha-motor.co.jp/mc/

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ヨ

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帰ってきたネイティブ足立区民。ヤングマシン、姉妹誌ビッグマシンで17年を過ごしたのち旅に出ていた編集部員だ。見かけほど悪い子じゃあないんだぜ。
■1974年生まれ
■愛車:MOTOGUZZI V7 SPECIAL(2012)