自動化が進む現代に伝承される『曲げ』の技能

復活したヤマハ SR400を支える職人の技/曲げた鉄パイプは11万7000本以上

2018年に発売40周年を迎えたヤマハの超ロングセラー「SR400」は、最新の排出ガス規制に対応すべくいったんは生産終了となったものの、昨秋には待望の復活を果たしている。根強いファンを虜にするその造形美には、職人的な技術と技能の伝承が欠かせない。

製造現場の技術と技能があってこそ

1978年に発売されて以来、単気筒ならではの五感に訴える鼓動感、そしてシンプルで美しいデザインでロングセラーを続けているヤマハSR400。2017年には二輪車平成28年排出ガス規制に対応すべく一時生産終了となっていたが、記念すべき40周年の節目となる2018年秋に復活を果たし、その歴史をつないでいる。

シンプルな美しさの中には、深みのある塗装や、機能がそのままデザインになる機能美、また機械では出せない人間味のある曲線が内包されている。そして、こうしたバイクの仕上げや部品の製作には、40年以上にわたって受け継がれてきた製造現場の技術と技能の伝承が欠かせないものだ。

【YAMAHA SR400 2019】主要諸元■全長2085 全幅750 全高1100 軸距1410 シート高790(各mm) 車両重量175㎏■空冷4ストローク単気筒 SOHC2バルブ 399cc 24ps/6500rpm 2.9kg-m/3000rpm 変速機5段 燃料タンク容量12L■タイヤサイズF=90/100-18 R=110/90-18 ●価格:57万2400円 ●色:黒、青

「SRの歴史は、支持してくださるファンの皆さん、そして製造現場の技術と技能の伝承があってこそ」と話すのは、開発プロジェクトリーダーの堀川誠さん(ヤマハSP開発部)。刻んできた歴史をつなぐために、「変えられないところ、変えるべきところの判断に苦慮した」と、その開発の日々を振り返る。

ものづくりの現場は、この40年間で大きな変化を遂げた。コンピュータやロボットの導入で自動化・省人化が進み、工場の光景も様変わりしている。だからこそ堀川さんは、あえて「製造現場の技術と技能の伝承」を強調し、深く感謝の念を抱いているのだ。

これまでに曲げた鉄パイプは11万7000本以上

トップ写真はSR400のエキゾーストパイプの製造現場。ヤマハの協力会社である『サクラ工業(ヤマハ鈴鹿8耐マシンのレーシングマフラーなどでも知られる)』の工場では、ロボットアームをはじめとする製造設備により、さまざまなバイクの排気系システムを製造している。

その工場の片隅に、まるで昭和の時代がそのまま生き残っているかのような一角がある。それこそが、SR専用の工区だ。同社の松本秀人さんは、「SRが41年目なら、当社にとっても41年目。技能の伝承を繰り返して、これまで11万7000本以上のSRのエキゾーストパイプが職人的技能者によって曲げられてきました」と話す。

エンジンに寄り添い、美しい曲線を描くエキゾーストパイプはSR400ならでは。独自の技術“ナノ膜コーティング”が施され、熱による変色や錆による劣化を防いでいる。

一本の鉄パイプが、複雑な曲線を描くまでの曲げ工程には、いくつもの職人的技能者の手が加えられる。中空部分をつぶさずに曲げるため、鉄の粒子をまんべんなく詰め込む工程もそのひとつだ。年季の入った機械を使って行われる3段階の曲げ工程にも、金属の戻りを計算した職人的経験と技が欠かせない。SR専用の工区でパイプを握ることのできる技能者は、現在、同社にも数名しか存在しないそうだ。複雑な位置合わせなど必要とせず、誰でもきれいにボルトオンできる純正パーツの精度は、彼らの手によって成り立っている。

「SRをつくり続けるためには常に進化が必要です。でも変えてはいけないことがある。エキゾーストパイプもその一つだと考えています」。堀川さんはそう言って、あらためて感謝の気持ちを表したのだった。

※情報提供:ヤマハ発動機ニュースレター

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