「みんなでトライアル観に行こうよ!」という原田哲也さんのひと声で一気に読者参加型企画になったトライアル世界選手権日本GP@もてぎ。あいにくの雨もなんのその、それはそれは熱い1日になりました。
ヤングマシンメンバーズ読者参加型企画第1弾「原田哲也さんと一緒にトライアル世界選手権を観戦する会」
ヤングマシンと読者の皆さんをより密接に結びつける「ヤングマシンメンバーズ」。今回は第1弾イベント……の割に、原田哲也さん、本多元治さんと超豪華メンバーが揃った!
ロードにも通じる極意「全身でバイクを操る」
どんよりした曇り空とは対照的な、晴れやかな笑顔。ツインリンクもてぎに向かう原田哲也さんの表情は、とても明るい。「楽しみだね〜!」と何度も繰り返す。人生初のトライアル世界選手権観戦が、楽しみで仕方ないのだ。
「装具が汚れるのがイヤで」と、土モノ――オフロードライディングを敬遠していた原田さんだが、最近は林道に目覚めている。さらに、「ロリスに誘われて少しだけトライアルやったんだけど、すごく面白くてさ」と原田さん。「獣道みたいな所に誘い込まれて、さんざんだったよ!」とうれしそうだ。
ちなみにロリスとは、現役GPライダー時代の好敵手、ロリス・カピロッシのこと。「……えっ!?」と思う日本人GPファンも多いことだろう。’98年世界GP最終戦、最終ラップ、最終コーナー。原田さんはカピロッシに弾き出されて転倒し、掴みかけていた2度目の世界タイトルを逃したのだから。
現役を退いた今は、お互いモナコに住む「仲良しご近所さん」。共にトライアルで遊ぶうちに、すっかり魅力に取り憑かれた原田さんなのだった。
「現役の頃はバイクはレースの道具だった。でも今は、バイクって幅広い楽しみ方ができる趣味のツールだと思ってる。『コレ』と枠を決めずに、いろいろやってみたいんだ」
案内人(左端):本多元治さん ’91年全日本トライアル国際B級チャンピオン。国際A級スーパークラスでも上位につけた。現在は国際A級に参戦しつつトライアルの普及活動に注力している。
中央5名:ヤングマシン読者の皆さん
人生初トライアル観戦(右端):原田哲也さん ’93年、世界GP250参戦初年度にいきなりチャンピオンを獲得。現在はスクールやイベントなどで各地を駆け回り、多くの人にバイクの楽しさを伝えている。
原田さんは、トライアルにも挑戦したいと思っている。世界選手権の観戦は、言わば「視察」だ。「せっかくだから、ゴルフ仲間でもある本多元治さんにいろいろ教えてもらいながら、読者の皆さんと観て回れたらいいね」。あくまでも仲間と一緒に楽しみたいのだ。トライアル世界選手権日本GPは、6月8〜9日の2日間で行われた。原田さんと5名のヤングマシン読者がもてぎを訪れたのは、初日の8日。午前中は曇り、昼頃から雨、そして夕方にかけて晴れるという、トライアルにとっては難しいコンディションとなった。
だが、世界の妙技は素晴らしかった。’07年以降、世界タイトルを欲しいままにしており、今季V13を狙うトニー・ボウ選手や、日本期待の藤波貴久選手ら、トップトライアルライダーのテクニックは、圧巻のひとことだ。
岩や丸太などの障害物をやすやすと乗り越え、雨に濡れて滑りやすい斜面を駆け上る。フロントタイヤを持ち上げるウイリー、リヤタイヤを高々と掲げるジャックナイフに、空中で豪快に向きを変えるエアターン。藤波選手が空中で立木にあえて後輪をヒットさせて向きを変えると、そのクリエイティブさには思わず歓声が上がる。
しかも、「足を着いてはいけない」「完全に止まってはいけない」などといったルールは厳格だ。「うーん、止まった……かなぁ?」という微妙なタイミングでも、各選手の走りをチェックするオブザーバーのホイッスルが鳴る。時間制限が課せられていることもあり、展開は想像以上にスピーディだ。
原田さんも読者の皆さんも、「スゴい……」を連発するばかりだった。「これは……あまりにもスゴすぎる」と笑う原田さん。「とてもじゃないけどマネできないよ」と舌を巻く。
「ロードレースの方が華やかな印象があるけど、バイクの扱いの巧さという点ではトライアル選手が最高峰だと思うんだ」と原田さんが言った。「うん、そうかもしれないですね」と本多さんも同意した。
トライアルとは!?
数々の障害が設定されたコースを、バイクに乗ったまま走り抜ける競技。体力、テクニック、精神力とすべてが高次元で求められる。ここではザックリとトライアルをご紹介!
足を着かない トライアルの基本は、セクション(採点区間)をできるだけ少ない減点で走り抜けること。1回足を着くと1点、3回以上は3点減点となる。落車は5点でセクション失格。
止まらない/バックしない バイクを静止させるとその時点で最大減点の5点。止まっているようで実は細かく動いている。バックも同様だ。普通の人はバックしないが(笑)。
インドアのX-TRIALもヨーロッパで大人気 アウトドアとは別の選手権として、インドアで行われるX-TRAILも華やかにショーアップされて盛り上がっている。
モトGPライダーもトライアルに大注目 マルク・マルケス選手も(前列右端)も大喝采! トレーニングにトライアルを採用するモトGPライダーも多い。
スピードでごまかせないから、自分で何とかするしかない!
「スピードが出ているから、ロードレースの方が難しいと思う人が多いかもしれない。『トライアルはスピードが遅いから地味だな』なんてね。いやいや、スピードが出ていないトライアルの方がごまかしが効かないから、よっぽど難しいよ」
難解なセクションを豪快にクリアしていく世界のトップトライアルライダーたち。原田さんが「おっ、すごい!」と注目したのは、その中でも非常に地味と言わざるを得ない、こんなシーンだった。
雨で濡れた土の斜面を、斜めに、しかもフロントタイヤを滑らせることなく、降りてくるトライアルライダー。その姿に原田さんは釘付けになったのだ。
「あれは相当スゴイね……」
普通ならズリズリとフロントを滑らせてしまうはずなのに、しっかりとグリップしている。トライアルマシンやトライアルタイヤの高性能もあるが、原田さんは「あれこそライダーの技量だよ」と目を見張る。
「滑る所で滑らない。それはライダーが自分の意志でバイクを制御できてるってことだからね。速度によるGの助けがないから、全身を使ってグリップを生み、トラクションをかけてるんだ。
トライアルの選手はロードバイクに乗ってもすごく上手。藤波選手はモトGPマシンRC213Vに試乗した時、いいペースでまわりを驚かせてたよ。バイク任せじゃなくて自分でコントロールすることが身に付いてるトップトライアルライダーならではだよね。
実はロードも同じ。僕も現役時代は相当にハンドルを押し引きしていて、1レースでグローブがダメになるほどだった。トライアルはハンドルだけじゃなく、バイクのすべての動きを自分で制御してる。本当にスゴイよ……」
原田さんの素直な驚きが、読者の皆さんにストレートに伝わる。派手なアクションに目が行きがちだが、それらはすべて、ライダーの意志による高度なコントロールの賜物。そしてそれは間違いなくロードにも活きる。
本多さんに「トライアルをやっている、と言えるまでになるにはどれぐらいかかりますか?」と尋ねると、「5年、いや、10年……」と笑った。「バイクに乗る」ということを突き詰める奥深さが、その言葉に表れる。
「長く楽しめそうだね!」。これから始まるトライアル遊びにいっそう期待ふくらむ原田さんなのだった。
トライアルで学べること
・トラクションや荷重の作り方
・サスペンションの使い方
・ド根性
トライアルで勝つために必要なこと
・フィジカル
・メンタル
・インテリジェンス
豪華な顔合わせが次々に実現!!
ヤンマシ読者が体験したスペシャルすぎる一日
スペシャルな一日を終えて
原田哲也さん、本多元治さんとセクションを回る貴重な体験をした読者の皆さん。原田さんと談笑しながらランチを楽しむなど、満足の1日となった。ヤングマシンメンバーズではまたこんな企画を催しますので、ご期待を!
●文:高橋剛 ●写真:折原弘之、ホンダ ●取材協力:本田技研工業、ツインリンクもてぎ