SV650にセパレートハンドルを装着し、ビキニカウルでカフェレーサーらしく仕立てたのがSV650Xだ。2019年型となって、従来型と変わっているのはシートレザーとマフラーカバー、フロントブレーキキャリパーの3点のみ。だがʼ19年型SV650Xは、予想外の躍進を遂げていたのだ。
TEXT:Tomohiko NAKAMURA PHOTO:Toru HASEGAWA
変更点はわずかでも、明確な進化が実感できる
バイクの印象って、ちょっとしたことでガラッと変わるのだなあ……。
’19年型SV650Xと丸一日付き合った僕は、しみじみそう思った。率直な話をするなら、これまでの僕はSVのカフェレーサー仕様であるXに、特に好感を抱いていたわけではない。でもタックロール仕様のシートレザーがブラック/グレーからブラウン/ブラックになり、マフラーカバーが軽快なデザインに変更された’19年型は、マシン全体の印象が従来型よりスタイリッシュで、何だか妙にカッコイイ。
その気持ちは撮影担当の長谷川カメラマンも同様だったようで、どう考えても2ページ(本誌掲載時)には収まらない、大量のイメージカットを撮影。そして撮影を通して、さまざまな角度から、さまざまな光が当たったXを見た僕は、往年のロケットカウルを再現したヘッドライトカウル+フレームカバーの巧みな構成や、セパハンの取り付け位置の絶妙さに感心し、今さらながらにして、Xのデザインの魅力に気づいたのだ。
では肝心の走りはどうだったかと言うと、こちらもルックスと同様に、ちょっとした変更で意外な変化が感じられた。本題に入る前に大前提の話をしておくと、STDのバーハンドルに替えて、低めのセパレートハンドルを採用したXは、当然ながら、上半身の前傾度が強くなっている。この変更には一長一短があって、マシンとの一体感は得やすくなっているものの、少しでも気を抜いた走りをすると、グリップに添えた両手に無駄な力が入ってしまい、場面によってはVツインならではの軽快感、シャープで爽快なセルフステアが味わいづらいことがあった。
だがフロントブレーキキャリパーを片押し式同径2ピストン→対向式異径4ピストンに変更した’19年型は、従来型よりセルフステアの制御がイージーになっているのだ。具体的には、ブレーキの操作に対するフロントまわりの反応がリニアだから、車体を傾けようとする際に、フレームのヘッドパイプを理想的な位置に持って行ける。ブレーキでセルフステアの感触が変わるというのは、僕にとっては驚きだったけれど、Xの守備範囲を広げるという意味では、この変更は大正解だろう。
また、’19年型の仕様変更とは直接関係がない話になるけれど、久しぶりにSVをじっくり走らせた僕は、パラレルツインとは異なる、90度Vツインならではの魅力を再認識した。と言っても、現代のミドルの主力であるバランサー付きのパラレルツインは、クランクピンの位相角を270度に設定すれば、90度Vツインと同等のフィーリングになる、と世間では言われている。確かに、理論上はそうなのだ。でも、クランク重量が軽く、クランク幅が狭く、クランクピンと軸受けの数が少なく、さらに抵抗物となるバランサーを必要としない90度Vツインは(あくまでも一般論で、クランク重量とバランサーについては例外機種も存在)、やっぱりパラレルツインよりレスポンスがダイレクトで、吹け上がりが清々しいじゃないか……と、僕には思えた。
そんなエンジンに、近年の他社が積極的な姿勢を示さない理由は、軽量化やマスの集中化、搭載位置の自由度、部品点数の削減を考えると、パラレルツインが有利だからだろう。でも今回の試乗を通して、貴重なミドルVツインの魅力が満喫できるSV650/Xに、僕は大きな価値を感じたのだ。
独自の手法でカフェレーサースタイルを構築
主要諸元 ■全長2140 全幅730 全高1090 軸距1450 シート高790(各mm) 車重197kg(装備) ■水冷4ストV型2気筒DOHC4バルブ 645cc 76.1ps/8500rpm 6.5kg f-m/8100rpm 変速機6段 燃料タンク容量14L■ブレーキ形式F=ダブルディスク R=ディスク タイヤサイズ F=120/70ZR17 R=160/60ZR17 ●価格:78万1920円 ●色:灰
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