トライアンフのモダンクラシックシリーズの中で、ベーシックモデルと位置付けられる2台が、初のモデルチェンジを敢行。基本的な素性は従来型を引き継いでいるものの、堅実な熟成が行われた’19年型ストリートツインとストリートスクランブラーは、大幅なレベルアップを実現していた。
トライアンフ ストリートツイン[2019]
’16年にデビューしたストリートツインは、あえて旧車的な雰囲気を強調しないモダンクラシック。これまでの3年間を振り返ると、シリーズの中で最も好調なセールスを記録している。
トライアンフ ストリートスクランブラー[2019]
’17年から発売が始まったスクランブラーは、’60 年代に世界中で大人気を獲得した、T120TTやTR6トロフィーのイメージを継承している。
試乗比較〈前編〉:あらゆる要素で従来型の性能を凌駕
【TESTER】中村友彦(なかむら・ともひこ):新旧トライアンフに精通した、雑誌業界23年目のフリーランス。かつては、’76年型T140ボンネビルや、’10年型デイトナ675を愛用。
’15年秋の発表時は5機種だったものの、以後の3年間で多彩なバリエーションモデルを追加し、昨今では10機種以上をラインアップに揃える、第二世代のトライアンフ・モダンクラシックシリーズ。その拡大路線は今後も続くようだが、4年目を迎えるにあたって、同社は2台のベーシックモデル、ストリートツインとストリートスクランブラー(以下、ツイン、スクランブラー)を大幅刷新。ラインナップの拡大のみに傾倒せず、既存のモデルを丁寧に熟成する姿勢は、大昔から続く、トライアンフの伝統と言えるだろう。
新型ツインとスクランブラーに共通する主な変更点は、(1)900HTと呼ばれるエンジンの最高出力が55ps/5900rpm→65ps/7500rpmに向上、(2) スロットルレスポンス/ABS/トラコンのレベルを切り替えるライディングモードを導入、(3)フロントブレーキキャリパーをニッシン2ポット→ブレンボ4ポットに刷新、(4)KYB製φ41mmフォークに新型カートリッジダンパーを採用など。では2台のベーシックモデルの乗り味が、どんな変化を遂げたかと言うと…。
ムチャクチャよくなっていた。実を言うと、第二世代のモダンクラシックシリーズは、必ずしも大は小を兼ねないところがあって、僕は以前から、ベーシックという位置づけの900cc各車に対して、上位機種の1200cc以上の好感を抱くことが少なくなかったのだが、エンジンパワーや足まわりの質感という面では、900cc各車に多少の物足りなさを感じていた。でも大幅刷新を受けた’19年型は、そういった不満を見事に解消していたのである。
まずはエンジンの説明をすると、低中回転域の鼓動感(振動の残し方が実にいい塩梅)、高回転域の心地のいい伸び、全域で感じる滑らかな吹け上がりなど、新型はあらゆる要素で従来型を上回っていた。スペックを見るぶんには、新型は高回転高出力型という印象を受けるものの(ツインに関しては、最大トルク発生回転数も3230→3800rpmに上がっている)、実際のフィーリングにそういった気配はほとんどなく、従来型以上に、日常域での充実感が得やすくなっているのだ。
(上)ストリートツイン(下)ストリートスクランブラー:新規採用のマグネシウムカムカバーが目を引く、’19年型ツインとスクランブラーのエンジンは、軽量クランク/バランサーシャフトを導入。圧縮比が10.5→11.0:1になったことを考えると、ピストンかヘッドも改良されているはずだ。ライディングモードはツインがROAD/RAINの2段階で、スクランブラーはOFFROADを加えた3段階。クランクケース左右の丸型カバーは各車各様。タンデムステップブラケットは、ツイン:溶接、スクランブラー:ボルト留め。
なお第二世代のモダンクラシックシリーズが搭載する並列2気筒は、いずれもクランクシャフトの位相角が270度で、この角度は昨今の流行である(元祖はヤマハだが、近年ではホンダやBMWなども採用)。でも鼓動感の演出という点なら、僕はトライアンフがナンバー1だと思う。
続いては車体についてだが、新型はスポーツライディングが楽しくなったうえに、乗り心地が良好になった。それはもちろん、フロントフォークとブレーキキャリパーを刷新した恩恵で、峠道では従来型より無理が利くし、長距離走行は従来型より明らかに快適。
(上)ストリートツイン(下)ストリートスクランブラー:カヤバ製ショックのホイールトラベルは前後120mmで、この数値は2台に共通だが、バネレートとダンパー特性は異なる。フロントホイールのサイズは、ツイン:2.75×18、スクランブラー:2.75×19で、リアはいずれも4.25×17。フロントキャリパーはブレンボ製4ポット。
という感じで、いいことだらけの新型だが、今回の試乗で唯一、僕がもったいないなあ……と感じたのは、ツインのタイヤが、従来型と同じピレリ・ファントムだったこと。クラシックな雰囲気のこのタイヤは、積極的な荷重をかけると良好な反応を見せてくれるものの、まったり走っているときの接地感がいまひとつ。もっともこの点については、アフターマーケット製に変更すれば簡単に解消できそうなので、大きな問題ではないだろう。
【後編へ続く】
※ヤングマシン2019年2月号掲載記事をベースに再構成
●文:中村友彦 ●写真:真弓悟史
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