●文:ライドハイ編集部(伊藤康司)
高回転と低中速、エンジンの両方のメリットを引き出すための機構
4ストロークエンジンは、吸気→圧縮→爆発→排気の4つの行程を繰り返して回転している。ピストンの上下する動きに合わせ、排気バルブや吸気バルブが開いたり閉じたりすることで、空気とガソリンを混ぜた混合ガスを吸い込んだり、爆発した後の燃焼ガスを排出したりしているわけだが、じつは排気行程から吸気行程に移行する際に、吸気バルブと排気バルブの両方が開いている“オーバーラップ”という時間がある。
一般的には、オーバーラップしている時間が長いと“高回転型”になってパワーを稼ぎやすい。ただし回転数が低いときはトルクが低く、未燃焼ガスが多く輩出され、燃費も悪いというデメリットがある。
反対にオーバーラップの時間が短いエンジンは、“低中速が得意”なトルクの太いエンジンになり、燃費や排出ガスの面でも有利。ところが吸排気の慣性を生かしにくいため、高回転まで回りにくく、最高出力の面では不利になる。
これはどちらが優位というものではなく、たとえばスーパースポーツならオーバーラップの多い高回転型に、また街乗り主体のバイクなら中低速のトルクを優先してオーバーラップ量を少なくするなど、使用状況やバイクのキャラクターに合わせて設計するのが一般的だ。スーパースポーツのエンジンをベースに市街地寄りのネイキッドを制作する際は、こうしてエンジンのキャラクターをつくり分けているのである。
しかし、スポーツバイクとして考えると、“低回転から高回転まで全域で高効率”なのが理想的なはず。そんな矛盾した特性を両立するために生まれたのが「可変バルブタイミング機構」だ。
各社、独自の機構で低回転域と高回転域を切り替える
吸気バルブや排気バルブの開閉は、クランクシャフトからチェーンやギヤを介して駆動される“カムシャフト”によって行われる。そこでエンジンの回転数(回転域)によってカムシャフトの作用角をズラしたり、カム山の形状を切り替えたりすることで、オーバーラップ量も含めたバルブの開閉タイミング類をコントロールするのだ。
じつはこの機構自体は比較的昔から存在し、スポーツ系の4輪車のエンジンにはかなり以前から装備されており、近年は排出ガスや燃費など環境性能の観点から、一般的な乗用車にもかなり普及している。
しかしバイクの場合、スペースに限りがあり、重量増が大きなデメリットにもなるため、装備されるまでに時間がかかった。また、クルマよりも重量の軽いバイクは、レスポンスや過渡特性が重視され、繊細な制御が必要なのも要因だろう……
※本記事は2021年12月21日公開記事を再編集したものです。※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
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