BRITISH TRAD SINGLE! ホンダGB350に見るホンダの英国風トラディショナルバイクへの情熱

  • [CREATOR POST]てんちょー

●文:[クリエイターチャンネル] 88サイクルズ@てんちょー

細身のジャケットにワイシャツとネクタイ…ブリティッシュトラッドなコーデって、パリッとした王道スタイルだよね! そういえばバイクでも英国風なトラディショナルバイク、ホンダGB350シリーズが、人気になっているよね。

丸目ヘッドライトにティアドロップタンク、丸く深い前後フェンダーに、シリンダーが直立したエンジンなど、1960年代の英国車風スタイリングは、バイクらしいバイクの、代表的なスタイルとして定着しているんだよね。そんなGB350の開発ストーリーを紐解くと、ホンダらしい試行錯誤がたくさん見て取れて面白いんです。

ホンダにはかつて、GB250クラブマンをはじめとした、カフェレーサーのGBシリーズが存在していました。「GB」の由来は所説あるのですが、イギリスの正式名称「United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland」の「Great Britain」の頭文字から付けられたともいわれています。GBというシリーズそのものが、英国風をかなり意識しているってことが分かるよね。

インド市場の変化を受けたGB350の企画

GB350の企画は、経済成長著しいインドの消費者動向にありました。かつてのインドの娯楽は、週末を家族で過ごすとか映画を見るといったものでしたが、近年の若者たちには変化が。みんなでツーリングに行き、SNSで写真や動画を共有するという、グローバルに共通する体験にシフトしていたのです。

さらにインドでは、イギリス生まれインド育ちの、ロイヤルエンフィールドの中型バイクが憧れの的。ツーリングイベントなども、盛んにおこなわれている状況でした。このことを掴んだホンダは、インド市場を中心に据えた、グローバルモデルにもなりうる新型バイクの開発をスタートします。

開発の狙いは「日常から遠出まで~ ザ ホンダ ベーシック ロードスター」。まさに現代のツーリング事情にあったモデルを、開発しようとしていたんだね。開発メンバーは、開発責任者の山本堪大さんを中心に、勢いのある若手が多く起用されました。彼らのほとんどが旧車好きだったっていうのも、おもしろいぜ。

ライダーを王様に見立てたデザイン

デザインの中でポイントとなったのが、「マッチョ」というインド人ユーザーの言葉でした。最初はとにかく大きく作ってみたところ、彼らに「これは違う」と言われてしまいます。試行錯誤の中、「大きく見せるには絞らなければいけない」という気づきを得て、デザインコンセプトである「マッシブ & シェイプド」という方向性が決まりました。

さらにインド側から「バイクに乗ってる姿が王様に見えるようにしてほしい」という要望があり、ライダーが堂々と背筋を伸ばして乗るといった、存在感あるライディングポジションが決まっていきました。

出来上がったデザインは、丸目ヘッドライトにティアドロップタンク、丸みの強い前後フェンダー、クレードルフレーム、直立したシリンダーのエンジンと、とてもトラディショナルな英国車のスタイリングに仕上がっていました。

開発者の思いとマッチしたエンジン

じつはGB350の開発チームでエンジン開発を担当したのは、山本さんと大学からの同期だった若狭秀智さんでした。若狭さんは「美しい空冷エンジンには趣味的なニーズがあるのではないか」と、以前から研究を続けていました。彼がその思いを実現すべく、新空冷単気筒の企画書を作った時、上司から提案されたのが、GB350のエンジン開発担当だったのです。

「新規のエンジンを開発するにはいろいろなモデルに使えるものがいい。でも尖ったエンジンでなければインドのお客様に刺さらない」という山本さんの要望。それに応えるべく生み出されたのが、GB350に採用された、新開発の空冷4ストローク単気筒348ccエンジン。

ほぼ直立したシリンダーに、吸排気が水平に配置されているというトラディショナルな構成です。ホンダが、クラシック路線のエンジンを新規で開発するってレアだよね。ちなみに、この350ccという排気量は、かつてロードレース世界選手権でも、カテゴリーとして存在していたりと、歴史あるものだったりします。

もちろん英国車にも、市販車に350ccクラスがあって、数多くのラインナップがありました。分かる人は見ただけでも唸る数字なんです。2024年11月現在でもインドではロイヤルエンフィールドに、BULLET350をはじめとした、350ccのラインナップが存在しているのは、その伝統を受け継いでいるからなんだよね!

その後も、山本さんが無茶ぶりをし、若狭さんがそれをクリアするという二人三脚でエンジン開発が進んでいきました。シンプルなエンジンとはいえ、そこはホンダ製。摺動抵抗低減のためのオフセットシリンダーや、エンジンの高さ低減と最低地上高の確保を同時に実現するために密閉式クランクケースを採用するなど創意工夫が満載です。

不快な振動を低減するために1時バランサーの他に、メインシャフト上にウエイトを追加するなど、乗り心地に関する部分もぬかりありません。これらによって、街乗りからロングツーリングまで、幅広いシチュエーションでクリアな鼓動と力強さを実現したのです!

穏やかな乗り心地を追求した車体

一方の車体はというと、開発当初はコミューターとして、実用的な使い勝手を重視したつくりとしていました。ところが、インドで実施した、テスト試乗の際に、現地の人たちに大きな感動を与えられませんでした。

悩む山本さんの助けになったのは「ネイキッドスポーツのCB400スーパーフォアで通勤する人も、いるだろう?」という、ある人からのアドバイスでした。これによって、よりファンモデルとしてのバイクの楽しさを追及する方向性へとシフトすることができたんだね。

こうして完成したフレームは、穏やかな操縦フィールを得るために、エンジンハンガーの位置も、ヘッドパイプからからの距離を長くとっています。

スイングアームがピボットを挟み込むように装着されるのも適切な剛性感を実現するためなんです。前19インチ、後18インチのホイールが、キャストホイールなのも適切な剛性を得るためだし、GB350の味わいはすべて開発チームが計算しつくして、作っているんだね!

SRと入れ替わるように登場したGB350シリーズ

そうした開発の努力を経て2020年9月、ハイネスCB350としてインド市場で発表されます。その後、2021年2月には、オンラインイベントでGB350という名前で日本国内発表、同年4月に発売されました。じつに24年ぶりに「GB」が復活したのです!

奇しくも2021年は、リアルトラッドシングルだったヤマハ SR400がファイナルとなった年。GB350の登場は、時代の移り変わりを印象付けるものとなりました。

その後GB350には、2021年にリヤタイヤを17インチ化して、ラジアルタイヤをはいたネオレトロ寄りな構成のGB350S、2024年に前後をディープフェンダー化してクラシカルな外観にまとめたGB350Cが、バリエーションモデルとして追加されました。

こうして登場したGB350シリーズ。小型二輪クラス(251~400cc)の売り上げ台数で、発売された2021年にいきなり2位となり、2022~2023年は2年連続1位独走中という大人気車となりました!

GB350シリーズをよく見ると、トラディショナルなスタイリングでも、走りの機能を時代に合わせて進化させようとする情熱が感じられるよね。変わらない良さの中に変わっていく良さがある。英国風のトラッドな佇まいのバイクが気になる人は要チェックなバイクだぜ!

88サイクルズ Youtube本店では、この記事で取り上げたGB350シリーズを、てんちょーが自由気ままに語り散らかした動画版「バイク小噺」を公開中です。Youtubeにも遊びに来てね!

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