2017年に登場したトライアンフのストリートトリプルRSにさまざまな改良が施され、ニューモデルとして導入されることになった。その車名の通り、メインステージはストリートでありながらエンジンにはMoto2マシンで培った技術が注ぎ込まれている!!
一度は体感すべき力強さと機敏さとサウンド
デイトナ675のアップハンドルバージョン、もしくはスピードトリプルのダウンサイジングバージョンとして初代ストリートトリプルが登場したのが、’07年のことである。以来、改良と熟成が重ねられ、これまで機構的には4世代、デザイン的には3世代に渡って進化してきた。
今回それがさらに推し進められ、’19年11月から日本へ導入されることになった最新モデルが、ここで紹介するストリートトリプルRSである。
2灯式のヘッドライト、上部に備わるフライスクリーン、バータイプのアップハンドル、その先端に備わるミラーといったアイデンティティは従来モデルのイメージを踏襲しつつ、デザインをリファイン。よりシャープに、よりエッジが効いたものになり、上質さも引き上げられているのが印象的だ。
メインフレーム、シートレール、スイングアーム、ショーワBPFフォーク、オーリンズSTX40モノショック、燃料タンクなど、車体を構成する基本コンポーネントは’17年に登場した現行モデルから引き継がれ、エンジンの基本設計も同様である。
つまり、いわゆるマイナーチェンジの域なのだが、その内容は深く、ストリートでもサーキットでも惚れ惚れする乗り味を提供してくれた。
ストリートトリプルRSの、というよりもトライアンフの大きな魅力が独特のビートを刻む3気筒エンジンだ。240度の等間隔爆発がもたらすパワーフィーリングとトラクションは絶妙なもので、’17年モデル以降は排気量が675㏄から765㏄に拡大されたことによって数少ないウィークポイントだったトルクの希薄さも解消。バイク用ユニットの最適解のひとつと言えるほど、その完成度は高い。
だからと言って、車体と同様そのまま最新モデルに採用されたのかと言えば、そんなことはない。765㏄という排気量と123ps/11750rpmの最高出力自体に変わりはないものの、クランクシャフトやバランサーが見直されて回転慣性が7%低減。スロットルレスポンスの向上が図られた他、排気側のカムシャフトやインテークダクトの設計変更によって、中回転域の過渡特性が大きく変わった。
目に見えて分かるのは、3本のエキゾーストを連結するように配されたサイドパイプの存在だ。この効果は目覚ましく、排気カムなどとの相乗効果も手伝って、8000rpm付近でのパワーとトルクが9%もアップ。低回転から高回転へ至るプロセスが、明らかにスムーズになっている。
このサイドパイプは従来モデルには存在しない一方、’19年のモト2クラスに供給するためのプロトタイプエンジンには装着されていた。つまり、開発の過程で得られたノウハウがいち早く、ストリートモデルにフィードバックされたことを意味し、レーシングマシンとの近似性が伺える部分である。
実際、ストリートトリプルRSのエンジンとモト2マシンのエンジンはベースを共有する。最高出力も前者の123psに対し、後者は140ps。耐久性確保のため、レブリミッターに2000rpm(ストリートトリプルRS:12500rpm/モト2エンジン:14500rpm)の差があることを踏まえれば、ライトチューニングと呼べる範囲に留められている。
もちろん、そこに物足りなさなどまったくないのは、レースを見ていればよく分かる。最高速は時に300km/hを超え、最後まで目が離せない接戦があらゆるコーナーで繰り広げられ、それでいてトラブルがないという理想の展開は、このエンジンに依るところが大きく、それに近いフィーリングを誰もがストリートで味わえるというのは決して大げさではない。
中回転域の強化と、ピークトルクの発生回転数が引き下げされたおかげで(10800rpm→9350rpm)、ストップ&ゴーのしやすさは過去最良のものだ。気難しさというものがまったくなく、コンパクトなライディングポジションと良好な重心バランスによってライダーの体格も選ばない。バイクにまたがり、エンジンを始動させ、発進するという一連の動作にまったくプレッシャーを感じずに済むため、日常の足にもなり得るはずだ。
ライディングモードには、レイン/ロード/スポーツ/トラックの4パターンがあり、それぞれにスロットルマップ、ABS、トラクションコントロールが連動。ユーザーの好みでカスタマイズできるライダーモードを加えれば、計5パターンの中から自在に選択し、切り換えることができる。
レインは最高出力が100psに抑えられるものの、ベースが高トルクゆえ、晴れたワインディングでも不足はない。フラットに伸びていく3気筒サウンドを心ゆくまで堪能できるに違いなく、そこにダイレクトなレスポンスを加えたくなればロード、スポーツと切り換えていけばいい。
穏やかに走りたい時は従順に、刺激が欲しい時は間髪入れず応えてくれるリニアさは名機の域にある。
765㏄という排気量だけを見れば、出力をもっと高めることは可能だったに違いない。しかしながら、トライアンフの開発陣はそうはせず、ハンドリングとのバランスに注力した。
印象的なのは、どんな速度域でも失われない一体感だ。コーナーでは倒し込みたい時に倒し込みたいぶんだけバンクさせることができ、必要ならばそれを深めることも起こすことも自由自在。123psのパワーと188㎏のウェイトがもたらす関係性は、これ以上なら怖さが、これ以下ならもの足りないさがある絶妙なポイントにあり、ライダーはただひたすらコーナリングに夢中になれるはずだ。
サスペンションとブレーキもそれに添ったセッティングが施されている。一般的に「コーナーでブレーキを引きずりながら~」などと書くと、一定以上のスキルを想定したものになるが、ストリートトリプルRSならそれが極めて容易だ。車体姿勢を思いのままにコントロールすることができる。
つけ加えると、特徴的なヘッドライト周りの意匠もハンドリングに無関係ではない。ある程度、車体前方にオフセットしてフレームマウントすることでステアの軽さとフロントへの荷重を両立。それがリーンの俊敏さとフルバンク時のスタビリティにつながり、やはりコーナリングの醍醐味が追求されているのである。
高いスペックを持つことは、バイクのあらがえない魅力ではあるが、もしも操っている醍醐味が感じられていないのであれば、ぜひストリートトリプルRSを試してみてほしい。ライトウェイトスポーツのなんたるかを、教えてくれるはずである。
DAYTONA Moto2™765
Moto2マシンのリアルレプリカとして登場
Moto2クラスには、トライアンフがエンジンサプライヤーとして全面的に協力。すべてのチームに765cc3気筒が供給されているのだが、それに限りなく近いスペックを持つマシンがこれだ。最高出力140psを公称するMoto2用ユニットに迫る130psを発揮し、外装はすべてドライカーボンで成型。1530台(北米向け765台/欧州・アジア向け765台)のみの限定生産だ。
●文:伊丹孝裕 ●写真&取材協力:トライアンフモーターサイクルズジャパン
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