ヤングマシン本誌に連載中の「上毛GP新聞」から、マルク・マルケスとファビオ・クアルタラロの対決に的を絞ったマニアックな考察を展開。今シーズンのサプライズとなったクアルタラロは、青木宣篤をもってしても「よくわからない」走りをしているという。ちょっと気が早いが、来シーズンの予習として2人の走りの違いに注目したい。
26歳の上半身 vs 20歳の下半身
2019シーズンのモトGPを振り返るにあたり、あまのじゃくのワタシとしてはマルケスの戴冠よりニューカマーながらマルケスと真っ向勝負したクアルタラロに注目したい。
第15戦タイGPの最終ラップ、最終コーナーの両者のバトルは歴史に残る激しさだったが、ワタシの目に飛び込んできたのはクアルタラロの走り方だ。
イン側のヒザがガバッと開いているマルケスに対して、クアルタラロはヒザをピッチリと閉じている。そして、ハードブレーキングによって浮いたリヤタイヤをコーナーアウト側に振り出しているマルケスに対し、クアルタラロのリヤタイヤはなんとイン側に向いているのだ!
マルケスのフォーム&挙動は分かりやすいっちゃ分かりやすい。通常、誰でもコーナーイン側のヒザは開くものだし、コーナー進入のブレーキングでリヤタイヤが浮けば、自然とそれはアウト側に振り出されるものだ。
だが、クアルタラロはまったく逆なのだ。ピッチリ閉じたヒザ。イン側に振り出されるリヤタイヤ。うーむ、いったい何が起きているのか、何を起こしているのか、想像できない……。
右コーナーでシミュレートしてみよう。リヤタイヤが浮くほどのハードブレーキング時に、ライダーはどこで体を支えているのか。主にはイン側の右腕ということになるだろう。
もちろん下半身ホールドもしっかり行われるが、何しろ右ヒザはガバチョと開いているし、外足ではホールドし切れないから、どうしても右腕で体にかかる減速Gの多くを受け止めることになる。ハンドルに大きな力が加わっている状態だ。マルケスはその典型例である。ブレーキング時、彼の腕にはガッツリと力が入っているし、実際のところ体もムキムキだ。
では、両ヒザベタ閉じのクアルタラロの場合はどうか。ガッツリとニーグリップしているから、ハンドルには無駄に大きな力が加わっていない。クアルタラロのブレーキングを見ていると肩に力が入っていないのは、そのためだ。
どんなメリットがあるのかは、ワタシにも分かりません(笑)。普通はヒザを路面に擦りつけることでマシンのバンク角を体で感じるものだ。そうしなくてもバンク角が把握できているのなら、クアルタラロは人並み外れた体内バンクセンサーの持ち主なのだろう。
だが、それにしてもメリットが見えにくい。強引に推察するに、上体に余裕がある分、さらにハードにブレーキングできる残りシロがある、のかもしれない。
実はクアルタラロのコーナリングスピードはさほど速くない。それでもマルケスと勝負できているのは、実は強力な下半身ホールドにより、制動距離を短く抑えられているから、かもしれない。
マルケスに比べればまだまだ体の線が細いのに終盤までキッチリ互角に戦えているのは、ブレーキングで上体を使わずに済んでいるから、かもしれない。
分からない(笑)。
ひとつ付け加えたいのは、クアルタラロのエンジンから500rpmの制限が取り払われたことだ。
これ、回転上昇方向のレブリミッターではないらしい(もし回転上昇方向で500rpmも低いタイミングでレブリミッターが作動していたら、まったく勝負になっていないはずだ)。
そうではなくて回転下降方向、つまりシフトダウン時のオーバーレブを防ぐレブリミッターが、クアルタラロは500rpm低い回転数で利いていた。それが解除されたというのだ。
新人・クアルタラロがシフトダウンでエンジンを壊して余計な予算を使わないようレブリミッターを利かせていたが、エンジン基数に余裕ができたのでようやく解除できた、ということのようだ。
シフトダウン時に500rpm余計に使えるようになって、クアルタラロは今まで以上にブレーキングに集中できているはずだ。ブレーキングがいっそうの武器になった可能性は高い。
ここまでの話を簡単にまとめると、上半身でマシンコントロールするマルケスおよびその他のライダー、下半身でマシンコントロールするクアルタラロ、ということになる。
一般的には下半身ホールドはライディングの基本とされているが、こと今のモトGPに関してはあまり当てはまっていない。ブレーキングでイン側の足をボーンと出してしまう足出し走法がその象徴だ。
クアルタラロの活躍をきっかけに、スタンダードな下半身ホールドが復権するのか、しないのか。いやはや、まったく分からないことだらけだ……(笑)。
TEXT:Go TAKAHASHI
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