プロにとって、ただ走っているだけという選択肢はない

世界GP王者・原田哲也のバイクトーク Vol.21 「ホルヘ・ロレンソ」

  • 2019/11/15

1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第21回は、ホルヘ・ロレンソの引退会見を機にプロとアマチュアの違いについて語る。

TEXT:Go TAKAHASHI

MICHELIN

テイスト・オブ・ツクバは本当に楽しかった!

今日は久々にゴルフです。一昨日、1ヶ月半ぶりに練習場でゴルフクラブを握りましたが、全然うまくいきませんでした……。最近、バイクでそれなりに走る機会が続き、筋肉痛で足腰がフラフラなんです。

11月8日に筑波サーキットでテスト走行、9日は袖ヶ浦でサーキット走行会、そして10日には筑波サーキットで「テイスト・オブ・ツクバ」に参戦しました。

RG500Γでのエントリーでしたが、おかげさまでちょっとした話題になったようで、レース前に「出るんだって!?」というLINEがたくさん届きました。筑波でも思いがけずたくさんのファンの方たちに声をかけてもらって、うれしかったなぁ……。

メインでエントリーしたZERO-1クラスのほかに、RRR80’s 世界GPクラスにも飛び入り参加し、観ていた方はみんな大爆笑だったようです。走っている僕はちっとも分かりませんでしたが(笑)。「原田哲也」の名前でマールボロのツナギを着て走っている方がいましたが、本物を持ってたんですよね~。出せばもっと盛り上がったかもしれません。

以前にもご紹介した現役時代のツナギたち。いつか皆さんにお見せする機会もあるかも?

2ストマシンでレースするのは現役以来ですが、やっぱり2ストの排気音を聞くと「サーキットにいるなあ!」って気がします。詳しいことはライダースクラブ誌をご覧いただくとして(笑)、またチャレンジしたいですね。

11日は移動日で、12日には大阪・堺カートランドでミニバイク耐久レースです。これはある会社の社内イベントでしたが、ただ速いチームが勝つのではなく、どのチームにも公平にチャンスがもたらされるよう、いろいろな仕掛けが用意されていました(なぜか水や強炭酸がずいぶんたくさん消費されたようです)。

テイストも社内レースも、大人が真剣に遊ぶのっていいものですよね。レースというとストイックなガチのモータースポーツが真っ先にイメージされると思いますが、今はこういうホビーレースがたくさん開催されています。僕としてはぜひ多くの皆さんにホビーレースをお勧めしたいですね。

気の合う仲間たちとサーキット過ごす時間は格別ですよ。僕自身、現役以来のスプリントレースも、引退してからたびたび参戦している耐久レースも、どっちも楽しい! 肩の力を抜いて遊びとしてレースができるなんて最高です。

結局は、「レースに何を求めるか」そして「レースで何をめざすか」によると思うんです。日常とは違う刺激を求めたり、仲間と楽しむことをめざすなら、ホビーレースでも十分すぎるほど楽しめます。

チャンピオンを獲るためにレースをしている、それが叶わないなら……

一方で、勝つことを求めたり、上を──世界をめざすつもりなら、話はまったく別です。24時間を100%レースに費やさなければなりません。

ここからは僕の場合ですが、日本でレースしている間は特に、勝つために必要なこと以外は一切排除しました。サーキットでは、楽しさや友情を求めることもありませんでした。もし他のライダーと仲良くすることが勝つために必要なら、喜んでそうしたでしょう。でも、仲良しであることはまったく必要ない。だったら、要らない。僕はシンプルにそう考えるタイプでした。

だから日本のレースファンの皆さんは、ファンサービスにもあまり積極的なタイプではない僕にあまりいい印象を持っていないかもしれませんし(ごめんなさい、その代わり今、いっぱいサービスします!)、メディア対応も最小限だったと思います。レースでお金をもらっている限り、求められるのは結果です。走ること以外は最小限にさせてもらう代わりに、勝つ。結果を出す。世界に上がるまでは、ひたすらそう考えてきました。

世界グランプリの舞台で戦うようになってから、初めてチームからファンサービスやメディア対応の大切さを教わり、ショービジネスという側面も意識するようになりました。でも、それまでの間は、とにかく100%レースだった。

もし100%をレースに費やすことなく、勝つために必要なこと以外の何かに時間を取られ、気持ちを持って行かれたら、レーシングライダーとしてはそれまでです。現状の自分のレベルに満足してしまっても、今より上に行くことはできません。

「世界一になりたい」と、言葉にするのは簡単です。でも、MotoGPライダーって本当にとんでもない連中です。先日の日本GP、コースサイドで改めて彼らの走りを見て、そのハイレベルっぷりに唖然としました。ここに辿り着くのは本当に大変なことだ、と。ここで戦うつもりなら、努力なんて言葉を口にする時間さえもったいないぐらいです。

昨日、ホルヘ・ロレンソが引退を発表しました。5度も世界タイトルを獲っている力のあるライダーなので、本当に残念です。でも、僕には彼の決断が理解できます。彼が語った引退の要因は、以前のようにモチベーションが高められないということでした。

彼らは極限の世界で戦っているわけですから、マシンと自分のスタイルの合う・合わないは想像できないぐらいシビアで、重要です。彼自身が語ったように、クラッシュやケガの影響も少なからずあるでしょう。でも、体の傷はいつか癒える。一番は気持ちです。

ロレンソはプロ。勝つために、チャンピオンを獲るためにレースをしているわけですから、それが叶いそうにないと分かった時、モチベーションを維持するのは難しい。僕も同じような状況だったので、よく分かります。

そこそこのペースで良ければ、もっと言えば勝たなくてもいいなら、どのマシンでも問題なく走らせられる。各国トップの選び抜かれたライダーたちですから、それぐらいのスキルはあります。でもロレンソが引退を決めたのは、プロとして、ただ走っているだけという選択肢はない、ということでしょう。

本当にシビアな世界ですよね。でも、仕事ってどれでも同じだと思います。いろいろな仕事なりのシビアさが絶対にあるはずです。レースはそれが分かりやすいだけ。どんな仕事でも、お金をいただくのは大変なことなんです。

そんな現役時代を過ごしてきたからこそ、今、ホビーレースが本当に楽しい! 皆さんも、「プロではない」というメリットを思いっ切り生かして、どうかピリピリせずにのびのびとレースで遊んでくださいね!

報道陣だけでなく多くのライダーも記者会見に駆けつけた。

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原田哲也

原田哲也

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1993年ロードレース世界選手権(WGP)250の世界チャンピオン。1992年に全日本で同クラスのチャンピオンを獲得し、翌年に初挑戦のWGP250で戴冠した。現役当時のニックネームは「クールデビル」。'02年に現役を引退し、現在はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。