既報どおり、スポーツランドSUGOにて6月8日にYZF-R6 20th Anniversary が披露される。これは1999年に登場した初代YZF-R6のカラーリングを現代に再現したものだ。では、初代YZF-R6とはどのようなマシンだったのか。当時のインプレッション記事をここに復刻したい。
以下、ビッグマシン誌1999年1月号より
序:サーキットも公道も楽しめる、軽量スポーツのトップモデル
11月上旬(1998年当時)のオーストラリア、名門サーキットであるフィリップアイランドと周辺の一般道でYZF-R6の試乗会は開催された。激戦区である600ccクラスに殴り込みをかけたニューモデルとあって、その仕上がりは素晴らしいの一言。リッタークラスに負けない速さを持つだけでなく、YZF-R1とはまた違ったR6だけの世界を堪能させてくれた。
TEXT:Hiroshi MARUYAMA/Hitoshi NAKANO
1万2000rpm以上は異次元、ラインの自由度も驚異的
R6に与えられた命題はただひとつ。クラス最速だ。それを確かめるべく用意された舞台は、今年(1998年)のWGP第3戦が行われたフィリップアイランド。マシンのポテンシャルを存分に引き出せると評判のコースである。つまり、この場を選んだこと自体が、ヤマハの白信の表れだと受け取れる。
だが、サーキットでの評価がストリートでの評価と同じになることはまれ。そのため、翌日はメルボルン周辺の市街地やワインディングロードを使って、公道での実力も徹底的にチェックした。
まずは、サーキットでのインプレッションからお伝えしよう。400cc並みのコンパクトなライディングポジションに収まると、まず目に飛び込んでくるのが1万5500rpmからレッドゾーンとなっているタコメーターだ。ライバルであるCBR600Fの’99年モデルは1万3500rpmからだから、これを見ただけでもかなりの高回転型エンジンであることが予想される。しかし、発進に手間取るほど極低回転域のトルクが薄いわけでもなく、2000rpmからスルスルとスタートできるほどフレキシブルだ。
下見がてらコースを2周し、いよいよ本気で攻めてみる。1コーナーはやや下り気味の左回りで、進入速度は150km/hオーバー。クリッピングを過ぎて4速全開で立ち上がると、ちょうどエンジンの伸び切りのいいところでアウト側のゼブラに乗る。そこでシフトアップしようとタコメーターにチラッと目をやると、レッドゾーンにはほど遠い1万2000rpm付近。実は伸び切りがいいと思っていた回転域はまだ序の口で、そこからレッドゾーンが始まる500rpm手前まで、一段と強烈な加速Gを感じさせるエキサイティングな世界が展開する。
そのままシフトアップせず、体を伏せたまま大きく左に回り込んだ2コーナーに進入。エンジン回転数は6000rpmまで落ち込むが、そんな低い回転域でもスロットルを開ければしっかりとリヤタイヤにトラクションが掛けられる。高回転型ではあるが、ピーキーさはなく扱いやすさも十分だ。
ハンドリングは完全に運動性重視。車体の軽さとホイールベースの短さとが相まって、600ccとは思えないほど軽快な操縦性を誇る。200km/h以上で回る超高速コーナーでは車体が安定指向になるが、ラインの自由度の高さは驚きだ。ちょっとラインを外したかな、という場面でもフルバンク状態からスロットルのオン・オフでラインが修正できてしまう。これまでのマシンだったら心臓が飛び出しそうになるところだが、R6なら修正可能。まるでSP250レーサーのようだった。
また、サスペンションも秀逸だ。前後ともフルアジャスタブルなうえ、ダンピング調整を1クリック動かせば、きちんとそのぶん変化してくれる。サーキットではイニシャル、ダンピングとも強める必要があるが、標準状態でもかなりのペースで走れてしまう。
サーキットでの評価は総じて良好。攻めるほど、高回転をキープするほどにR6の面白みが引き出せる。では、これだけのマシンが公道でも楽しめるのだろうか。それを確かめに、翌日は 市街地から郊外に向けて走り出した。
昨日は殆ど使わなかった2000~5000rpmだが、街乗りならこの回転域だけで十分。さすがにトルクフルとはいかないが、扱いやすさは評価できる。上体の前傾は強いがハンドルが近いので手首に掛かる負担は少なく、車体の軽さもあって小回りが自在だ。ワインディングは、まさにR6の独壇場。制限速度100km/h、途中にはタイトコーナーも存在する初めての道でも、400ccレプリカ並みのシャープなハンドリングとラインの自由度を生かして、400kmもの道のりを一気に走り終えてしまった。
ただ、例の1万2000rpm以上の領域は本当に意識していないと使い切れなかった。ちなみにレッドゾーンまで引っ張ると、1速で100km/h強、2速で150km/h強、3速なら 200km/hに達するが、実際には1万2000rpmまででも十分にスリリングな加速が楽しめる。
さて、公道で気になった点があるとすれば乗り心地だ。100km/h以上でギャップを通過したときの突き上げがひどく、それによるハンドルの振られが誘発されることもあった。前後サスともダンピングが最弱のところでシャープなハンドリングを損なうことなく乗り心地が改善されたが……。
それと、サーキットではブレーキの初期タッチの甘さが気になったのだが、公道ではこれが逆に絶品に思えた。街中では扱いやすく、峠でのレイトブレーキにも十分に対応してくれた。
ヨーロッパで大人気の600ccクラスは、普及版や廉価版といった印象が強いが、R6には安っぽさやR1のお下がり的雰囲気が一切感じられない。むしろ独自のカテゴリーを築いてしまった感さえある。日本での評価は別として、欧米での大ヒットは間違いない。
【マシン解説】R1を上回る技術を投入して徹底的にポテンシャルを高めた
コーナーでR1のインを刺せるマシンという大胆なコンセプトを掲げ、R1の設計手法をさらに昇華させて作り上げられたのがR6だ。
エンジンは、サイドカムチェーン方式や3軸3角形配置を採用した完全新設計の水冷DOHC並列4気筒で、アッパークランクケースと一体のシリンダーにはセラミックコンポジットメッキが施される。このあたりはRシリーズ共通の基本構成だ。
さらに、軽量かつ高強度のパウダーコンポジットピストンやVX材のバルブスプリング、軽量バルブリフターを採用。ラム圧を利用するダイレクトエアインテークシステムやダイレクトイグニッション、2極プラグまで奢り、クラス最強の120psと同時に1万3500rpmという超高回転化を実現した。
一方、フレームは曲面形状と板厚を自由にコントロールする設計を取り入れた進化型デルタボックスII。軽量にもかかわらず十分な剛性を確保している。また、YZF600Rより35mm、 R1より15mm短い1380mmという超ショートホイールベースを実現。 乾燥重量も169kgとYZF600R比で18kg、R1に対しても8kg軽く仕上げられている。
これにトラス構造のアルミ製ロングスイングアームとフルアジャスタブル前後サスペンションを装備し、リッター200psのハイパワーを使い切れるシャーシを構成。まさに打倒R1ともいえる内容である。
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