ホンダコレクションホール20周年特集#20

最速の市販公道レーサー CB1100Rが走行〈映像あり〉

【HONDA CB1100RC 1982年】前後18インチのブーメランコムスターホイールを採用。Fフォークはφ37 → 39㎜に大径化され、専用設計フルカウルも備えて技術陣の不満を解消した2型。

2018年7月16日と9月24日、ツインリンクもてぎの南コースでホンダコレクションホール開館20周年記念イベントが開催された。いつもの動態確認テストはレーサーなどが多かったが、今回は20周年記念ということで市販バイク特別走行が実施され、ホンダの黎明期から現在までのエポックメイキングなオートバイが走行を披露した。

ホンダが本気で勝ちにいった

CB1100Rは、ホンダにおけるステイタスシンボルもしくはそのブランドイメージをより強固にする旗艦モデルとして開発された。ホンダの威信を賭けて世界最高のパフォーマンスが与えられるとなれば、レースでの勝利も必然。開発段階からこの事が強く意識され、その年のプロダクションレース出場も早くから決められていた。ベース車として選ばれたのは、バランスのよさに定評があったCB900F。エンジンは排気量を拡大し、フレームは整備性を犠牲にしてまでも高剛性を追求、専用のディメンションが与えられ、赤塗装で仕上げられた。アルミタンクにFRPのカウルやシングルシートといった装備も、当時の市販バイクとしては非常識な豪華さだった。

このオートバイの開発は’79年末から着手され、デビューレースは’80年10月の豪州カストロール6時間耐久に設定されていたから、その期間的に通常では考えられないほどの急ピッチであった事がわかる。これを成し遂げた原動力とは開発チームの熱意だけであったと言うから、これまた驚きである。実際、ごく初期のロットではカウルの装着が間に合わず、ノンカウルの丸目ライト仕様がデリバリーされた(RB1)ほどだった。こうして戦場に赴いた1100Rは、果たして初陣を制して鮮烈なデビューを飾り、続く生産車には当初の予定通りカウルも備えられ、秋の英国アールズコートショーで正式に発表された。

当初は1000台強の限定販売の予定だったが、好評を受けて翌年型も続投が決定。開発期間の短さから不満の残った部分も改良が加えられ、’82年型、’83年型が完成した。国内にも相当数が上陸したが、高価な逆輸入車だけに購買層は限られていた。ベストセラーだとかヒットモデルといった方向は眼中になく、ひたすら最高を目指し必ず勝つ…だからこそ値段も性能も、まさに特別なバイクだったのだ。

【HONDA CB1100RD 1983年】走行映像はこの最終型。フロントカウルは形状を変更。塗色もソリッドからメタリックへと高級感を増し、スイングアームも角型パイプへと換装された。■空冷4ストローク4気筒DOHC4バルブ 1062cc 120ps/9000rpm 223kg 5段変速

【復刻インプレ】初代CB1100RBは115psにチューン【1981年】

ヨーロッパやオーストラリアなど では “スーパーバイク・プロダクションレース”が非常に盛んになっている。CB1100Rはそれに合わせてヨーロッパに900台限定販売されるセミレーサーである。先月号で紹介したGSX1100Sカタナがレース走行とアウトバーン走行を狙ったエキゾチック・スーパースポーツとするなら、ホンダCB1100Rはもっとレース志向に繰り込まれたバイクだといえる。保安部品が取り付けられ公道走行もできるが、レーシングシートは1人乗りで、ピリオンフットレストも取り付けられていない。
DOHC4気筒16バルブのエンジンは、ボルドール24時間やマン島TTクラシックに出場したマシンと同じボア・ストローク70×69mmの1062ccとなっている。圧縮比10対1、4個のケイヒンCV33キャブレターを装備し、フルトランジスター点火、公称出力100ps/9000rpm、公称トルク8.6kgm/7500rpmといわれるが、実際には115ps/9000rpm、9.86kgm/7500rpmを発揮するレーシングマシンに近いチューンがされている。しかし、セルスターターのみの始動は、あっ気ないほど簡単だ。クロスレシオの1速に入れ、スロットルを少し開けて4000rpmぐらいでクラッチをつないでみる。
強大な低速トルクでマシンは息付きも起こさず走り始め、スロットルをひねると同時に鋭く硬質な感じの加速が始まる。5000~8000rpmぐらいに強烈なトルクバンドがあり、特に6000rpm以上は加減速ともに鋭いレスポンスをするので、滑りやすいコーナーで不用意な操作はできない。そこで、S字などはサード5000rpmぐらいを使ってみると、これが比較的に具合いが良い。短い直線でも一気に立ち上がり、スロットル操作だけでごまかせるのだ。直線で全力加速をしてみると、8000~9000rpmは使えるが、むしろ早めのシフトアップの方がトルクの落ち込みを感じず、感覚的には速いことが判る。
かなり遅いスプーン出口と早めの130Rブレーキングでも最高速度210km/h以上に達したから、晴れていれば230km/h近い最高速度は確実に発揮できるだろう。1062ccとギリギリまでボアアップされたエンジンは強力なトルクを発揮するが、野獣のように爆発的なバイクだから、ライダーは状況によっては”力のないところを探す”猛獣使いになることも大切だろう。 ※ヤングマシン1981年5月号より

【HONDA CB1100RB 1981年】異例の急ピッチで開発された初期型は大型のカウルを装着、これはCB900F2から造型を流用(ただし材質はFRP、レッグシールドは省略)したもの。シートは完全なシングル、ホイールは裏コムスターでF19/R18 インチ。シリーズを通しての生産台数は約5500台前後と言われる。

全周溶接式の新設計フレームでエンジン位置は前進

CB1100Rは乾燥重量235kgが信じられないほど倒し込みが軽く、ハンドリングもニュートラルだ。もっとも、滑りやすい路面のヘアピンではリヤが振り出すが、それはスロットルオフのスキッドに誘発されたもので仕方がない。レスポンスが良くパワフルな大排気量オートバイでは、スロットルの開け閉めのタイミング、その動かし方だけで、滑り出しの感覚が変わってくるほどのものだからだ。これには、CB750/900とは違って、ダウンチューブ脱着ができない全周溶接式の新設計ダブルクレードルフレームの良さが効く。フレーム剛性が高く、しかもダウンチューブとヘッドパイプを近付けてホイールベースを15mm短い1490mmとした結果、エンジン位置は前進し、整備状態での重量配分は前49、後51%となっている。
フロントフォークにはインナーチ ューブ径39mmのエア・コイル併用スプリングを採用し、ホイールトラベル140mmと長い。リヤサスペンションはスイングアーム式だが、ガス・オイル式ダンパーを採用、伸び側3段、縮み側2段の 減衰圧調整と5段階スプリング・プリロード調節で30通りのセッティングが可能で、トラベル120mmと手の込んでいる。しかし、今回の状況では、スプリング2段目、伸び、縮みとも弱のリヤショックのセッティングでも堅過ぎた。外人の体重に合わせている上、コーナリングスピードが低く沈み込まないから当然で、ドライ状態ならばちょうど良いぐらいだろうと推測するしかない。
それにしても、前後ブレーキの強力さ、コントロールしやすく絶妙なタッチには驚かされた。ホンダ独特のダブルピストンを持つ2ポッド式キャリパーのトリプル・ディスクブレーキは、長方形パッドの採用でディスク有効径を稼ぐ他、パッドのタイムラグが短かく、剛性も高いため、レバー比は変わらないが、制動力と操作感覚を格段に向上しているためだ。一度だけ、コーナリング中のブレーキをかけ過ぎ、ホッピング気味になったが、ブレーキをゆるめてスロットルを合わせると、何事もなかったようにコーナーを曲り始めた。無理が効くドライ路面なら、このブレーキと操作安定性は相当な決め手になりそうだという感覚は確かに感じられた。
これには、上体を完全に覆うフルカウリングの効果もある。単に疲労を防ぐだけでなく、車体全体を路面に押し付けるダウンフォースが発生 し、高速での安定性向上に役立っている。だから、時速200kmを超える直線で、 水溜まりを踏んでも、針路の乱れはなく、ライダーは安心してスロットルを開けられるのだ。レース規格(27L)に合わせた巨大なアルミ製26L 燃料タンク、幅広のクッションを持つ780mm高のレーシングシート、後退したフットレスト、左右、上下の角度調節と高さ調整ができるセパレート式ダウンハンドルがもたらすポジションは完全なレーシング姿勢で、しかも身長180cmぐらいのヨーロッパ人に合わせているため、平均的日本人には大きい感じだが、それでもCB1100Rというバイクを乗りこなすのはとてつもない楽しみなのだ。 ※ヤングマシン1981年5月号より

「そこかしこに水溜りが待ちうけ、所によって川さえ出現していた。なんたる不運! 世界に数台という貴重なマシン、転倒は許されない。と思いつつ、いつしか私は200km/h+の世界に居た」(マイケル黒田)

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