本誌が描いた妄想CGが現実へ──。BMW・G310Rのフルカウル仕様を製作するプロジェクトが大きく前進し、ついにプロトタイプが完成した。
まるで”純正モデル?!”な見事な仕上がり
パッと見て「S1000RR?」と勘違いした人も多いのではないだろうか? ──ベース車は紛うことなきネイキッドのG310R。本誌プロジェクトから生まれた夢のマシンだ。このプロジェクトは、ヤングマシンがCGで考案したフルカウル仕様を、外装パーツで有名なエーテックが製作するというコラボ企画。モチーフはBMWが誇る最強スーパースポーツ=S1000RRの「ベビー版」に決定。大人のライトウェイスポーツをコンセプトに本誌でデザインを重ねた。
YMの案を元にエーテックが実車合わせで開発を進め、完成したプロトタイプがコチラとなる。その圧倒的なクオリティに本誌も驚いた次第──。全身を豪奢なドライカーボンカウルで包み、センターラムエアダクトの顔はまさにS1000RRだ。そしてテールにはセンターアップマフラー(試作品)。S1000に加え、もう一つのモチーフであるモト3レーサー風の装備で、「後方排気シングル」を強調している。
ここまでフォルムが激変しながら、パーツは基本的に全てボルトオン。ノーマルに戻せるというからエーテック恐るべし、である……。今後はもて耐への参戦も視野に入れ、ストリート版も開発予定だ。
ラムエア&後方排気を最大限に生かす
G310Rは、通常のマシンとは逆の「前方吸気&後方排気」というレーシーな車体レイアウトを持つ。「この素性を活かしたスーパースポーツを造りたい」と妄想したのが本プロジェクトの発端だ。そこで導入したのが、前方吸気のメリットを最大限に発揮するラムエア過給と、後方排気を強調するセンターアップマフラーだ。
製作期間は約2か月。通常は3か月程かかるが、急ピッチで開発された。元がネイキッドだけに装着用のステーをゼロから造る必要があり、苦労したのは「全部」(!)。特にタンク回りの造形に苦心したと言う。現状はレーサーだが、公道走行を目指し、今後は灯火類も装着。可能な限り小型のLEDで統一する予定だ。
気になる市販版は、FRP製の外装セット(フルカウル、スクリーン、タンクカバー、シート台座&ラバーベース、各種ステー込み)が予価15万円。単品販売も行う予定だ。マフラーは、現状では走行すると後輪に干渉するため、様々な方法を模索中。スタイル的にセンター出しを推したいが、ダウン化やショート化を含め、検討している。ツイン全盛のミドルSSに、シングルのG310SSが殴り込みだ!
スポーティなセパハンなれどハンドル切れ角は十分確保できた
ベース車のG310Rはハンドルポスト+バーハンを採用するが、ポストを外し、Fフォークにセパレートハンドルをマウントした。純正のインナータンクは横に張った独特な形状。セパハンは厳しいが、変更すると価格が上昇するので、純正を活かす形でタンクカバーを製作した。ハンドル切れ角はストッパーで調整したが、公道で楽しむSSとして常識的な範囲の切れ角を確保する。
後方排気といえばエーテック?!
マシンを製作したエーテックは、外装パーツの名門ブランドだが、実は後方排気と縁が深い。エーテックの宮崎明人社長は、元ダイシンのスタッフ。ダイシンと言えば’80年代、後方排気に情熱を注いだプライベーターで、鈴鹿8耐にFZ750の後方排気カスタムで参戦したり、’87年にはヤマハに先駆けて後方排気TZR250を造り上げた歴史もある。当時、宮崎社長はダイシンでカウルを製作しつつライダーとしても開発に携わっていた。
これぞ本誌がエーテックに製作を依頼した理由の一つ。言わば後方排気のマエストロが、時代を超えて甦った後方排気ネイキッドをスーパースポーツのG310SSに仕立てたのである。
撮影:鶴見健
取材協力:A-TECH(エーテック)
※ヤングマシン2019年1月号掲載記事をベースに再構成