マシン・オブ・ザ・イヤー2018
ライダーなのか、旅人なのか。人気のアドベンチャー乗り比べ

ヤマハ トレーサー900 vs スズキ Vストローム徹底試乗比較

TRACER 900

世界的に人気のアドベンチャーは、リッターオーバーの大柄なモデルが主流だ。そんな中、ヤマハ・トレーサー900とスズキ・Vストローム650は扱いやすい「ミドルクラス」として好評を博している。さて、その両車の実力やいかに!? ヤングマシン本誌でおなじみ丸山浩氏がプロ目線で、ライター高橋剛氏が一般人目線で徹底的に試乗インプレ!

同じ旅バイクでも旅の捉え方が違う。刺激的なトレーサー/マイルドなVストローム

いずれも、アドベンチャーというカテゴリーに属する、いわゆる「旅バイク」だ。ストロークが長いサスペンションで悪路走破性を高め、快適性に配慮することで、ロングツーリングにも対応している……という点では、同類と言える。

だが、旅の捉え方はトレーサー900とVストローム650ではだいぶ異なる。めざすベクトルは180度正反対、と言ってもいいぐらいだ。

テスター:【プロ目線/丸山 浩:左】レーシングライダーとして今も活躍中だが、青春時代にはバイクで日本一周を達成しており、根は「ツーリングライダー」。トレーサー入手を本気で思案中。【一般目線/高橋 剛:右】2年前に前モデルのVストローム650で北海道を1周。あまりに楽しい1週間に「もう帰らなくてもいいんじゃないか?」と危ない領域に足を踏み入れかけた。

トレーサーは「バイクを楽しみながら旅をする」。そしてVストロームは「旅のツールとしてバイクを使う」。この違いは大きい。主体は、ライディングなのか、旅することなのか。

トレーサーは、例えどんなシチュエーションでもただ走っているだけで楽しい。スロットルを開けるたびにワクワクやドキドキがあって、胸が高鳴る。並列3気筒エンジンのキャラクターも、4000rpmを境に大きく伸び上がろうとして、常にやる気に満ちているのだ。

TRACER 900

【YAMAHA TRACER 900 ●税込価格:111万2400円 ●色:灰、艶消し灰】イキのいい並列3 気筒エンジンを快適さを重視した車体に搭載し、デイリーユースからロングツーリングまで幅広くこなすオールマイティさ。’15年にMT-09トレーサーとしてデビューし、今年、マイナーチェンジでツーリング性能を向上。オプションのサイドケース(左右別で税込7万4520円)でより”旅力”を高められる。12月28日まで16万2000円の用品クーポンがプレゼントされるツーリングサポートキャンペーンが実施されている(問:ワイズギア http://www/ysgear.co.jp

一方のVストロームは、全体的にマイルドだ。V型2気筒エンジンはどの回転域からでも滑らかな加速を見せ、しかもトルクの出方もひたすらフラット。回転数を選ばないので、ゆったりとした走りに向いている。

V-Strom 650

【SUZUKI V-Strom 650 ●税込価格:90万7200円 ●色:黄、黒、白】’03年の登場以来、熟成を重ねてきたアドベンチャーツアラー。’17年にリリースされた3代目は、トラクションコントロールを装備。兄貴分であるVストローム1000と共通したイメージのフロントまわりも得ている(車両協力:レンタル819 TEL:050-6861-5819 https://www.rental819.com

エキサイティングで刺激的なトレーサー。ジェントルで穏やかなVストローム。エンジンキャラクターの明確な違いが、それぞれの個性を際立たせる。キャンプで例えてみれば、こんな具合になるだろう。

トレーサーは、今流行のグランピングのようだ。グラマラス(魅力的な)とキャンピングを掛け合わせたグランピングは、ホテル並の豪華なサービスが受けられる新たなアウトドアスタイル。オープンエアの心地良さとラグジュアリーさをいっぺんに楽しむ、贅沢なひとときだ。

Vストロームからは、スマートなテント泊がイメージされる。自分の好みの場所を見つけたら、気軽に、そして気ままにテントを張って、自由な時を味わう。シンプルでありながら自然と一体化することができ、奥深い喜びに満たされるだろう。

優劣をつけるものじゃない。バイクで、どういう旅がしたいか。バイクで、どういう時を過ごしたいか。自分の嗜好性によって、この2台のどちらを選ぶかが決まる。

徹底比較:トレーサー vs Vストローム

TRACER 900 vs V-Strom 650

エンジン:【TRACER】’18年のマイナーチェンジにより、従来型より6psアップの116psとなった並列3気筒エンジン。もともとピックアップのよい元気系エンジンだが、本モデルではFIのセッティングなどにより若干マイルドに。ライダーフレンドリーなキャラクターで「旅性能」を底上げしている。【V-Strom】熟成を重ねた90°Vツインエンジンは69ps。ツアラーにふさわしい穏やかな特性を基本にしながら、どの回転域でもフラットなトルクを発生する。発進時のエンジン回転の落ち込みを抑え、スムーズな発進を可能とするローRPMアシストを採用。Uターンの際も安心感が高い。

TRACER 900 vs V-Strom 650

足まわり:【TRACER】フロントはイニシャルと伸側が調整可能なφ41㎜倒立フォーク。快適性を高めている。リヤアームは従来型比で60㎜も延長。形状を変更することで剛性を高め、バランスを最適化。持ち前の軽快なハンドリングを維持したまま、コーナリングや高速走行時の安定感をひときわ向上している。【V-Strom】コンベンショナルな正立式フロントフォークは、長年の熟成によりコンフォート性とスポーツ性を高い次元で両立している。リヤサスは無段階調整の伸側調整機構付き。工具不要で調整可能な油圧式プリロードアジャスターにより、タンデムや荷物の積載状況によって簡単に調整することができる。

TRACER 900 vs V-Strom 650

メーターパネル:【TRACER】タフなアウトドアイメージのコクピットは大型液晶のマルチファンクションメーターを採用。左右ふたつに分割されており、左にタコメーターや速度計、燃料計などを表示。右はギアポジションを始め、好みの情報を表示するようカスタマイズ可能だ。12VのDCジャックを装備。【V-Strom】ゼロ直下指針の大型アナログタコメーターを配したスポーティーなメーター。右側の液晶ディスプレイには、速度計、燃料計、ギアポジションなどのほか、平均燃費計、瞬間燃費計、後続可能距離表示計などを表示してロングツーリングをサポート。12VのDCジャックを装備。

TRACER 900 vs V-Strom 650

シート:【TRACER】前後セパレートタイプのシートは新設計。メインシートは、内部パーツを組み替えることで850/865㎜の2段階にシート高を調整可能だ。シート前方にはソフトなパッドを採用するなど、座り心地に配慮。ロングツーリングの快適性を高めている。【V-Strom】広々とした座面が特徴的な前後一体タイプのシートは、ライディングポジションの自由度が高く、ロングライド時の疲労を軽減する。タンデムシートも広く、パッセンジャーの快適性にも配慮。標準装備のリヤキャリアと相まって、積載性も高い。

TRACER 900 vs V-Strom 650

可変式スクリーン:【TRACER】スクリーンは新設計され、面積を拡大。防風効果を高めている。ノブをつまむだけで50㎜高低の調整が可能だ(5mm×10段階)。高く設定すると肩まわりへの風あたりは確実に軽減することが確認できた。【V-Strom】こちらのスクリーンも新型。従来モデルより垂直方向に9mm高められているうえ、上下3段階の調整ができる。ただしボルトの締緩が必要なのでひと手間かかる。

TRACER 900

ライディングポジション:【TRACER】スッポリとはまり込むようなポジション。脚長系だけに足着き良好とは言えないが、シート前端を効果的に絞り込んでいること、また、足を下ろした時に邪魔にならないステップ位置などにより、両足つま先の腹が接地するので安心感はある。高さ2段階切り換えのシートをロー側にすれば、さらに安定。サスの初期作動が滑らかで、引き起こしもラクだ。※身長168cm、体重61kg

V-Strom 650

ライディングポジション:【V-Strom】ポジションの自由度が高く、体を動かせるので、ロングでは疲労度が少ない。その一方で、どう乗ればいいか分かりにくい面も。足着き性は爪先立ちになるのでやや不安。タンク位置が高いことを始め、マスが分散しているような印象で、引き起こしに気を使った。※身長168cm、体重61kg

TRACER 900 vs V-Strom 650

2人乗り:【TRACER】タンデムシートの出来栄えが非常によい。座り心地、グラブバーの握りやすさ、そしてステップ位置による膝の曲がり具合など、しっかり設計されていることが分かる。運転するとリヤがやや柔らかく感じるが、調整すればいいだろう。【V-Strom】特にコレという特徴がない代わりに、慣れるほどにゆったりとタンデムランできることに気付く。すべてがラク。あまり細かいことを気にせず後部座席にデンと腰を下ろせばいい。エンジンのマイルドさにより、ギクシャクもしにくい。

TRACER 900 vs V-Strom 650

押し引き:アドベンチャーバイクの中ではミドルクラス。リッターオーバーに比べれば両車とも扱いやすい部類だ。特にトレーサーはマスが集中しており、タンクの低さも相まって押し引きはラク。Vストロームはハンドルポジションが高めで、力を入れにくく感じる場面もあった。

街乗りインプレッション

プロ目線(丸山) :街乗りもピリッと楽しいトレーサー

トレーサーはとにかく刺激的で街乗りも楽しい。「今日はバイクに乗るぞ!」とモチベーションを高めてくれる。短距離でもピリッとしたライディングができるから、チョイ乗りにもピッタリだ。一方のVストロームは、すんなりと体に馴染み、スルスルと落ち着きのある走り。ストップ&ゴーの繰り返しとなる市街地でも気疲れしないが、バイクらしいパンチには欠ける。

両モデルとも脚長系だけに足着き性は良好とは言えない。身長168cmの私だと停車時に半分オシリをずらす必要があった。

一般目線(高橋)

「スクーターのように」というと大げさだろうか。Vストロームはそれぐらい気遣いが無用で、乗り始めから馴染み感がある。
トレーサーは乗っているうちに目玉が三角になりがちなので自制が必要。街にも似合うスマートなデザインはさすがヤマハ。

TRACER 900 vs V-Strom 650

高速道路インプレッション

プロ目線(丸山):正反対のキャラクターが浮き彫りに

69psのVストロームは、飛ばすつもりがなければ必要十分。走れば走るほど「これでいいや」と割り切れるようになるのが不思議だ。徹底的にロングツーリング向けの旅ツールと言える。下半身のあちこちに風当たりが感じられたのがやや気になった。

トレーサーは116psとVストロームのほぼ倍。速くて面白いに決まっている。しかも、並列3気筒エンジンは回転数によってさまざまな表情を見せるので、飛ばさなくても心地よく走れる領域があるのがイイ。途中で軽く雨に降られたが、腰下のウインドプロテクションが効果的に働き、あまり濡れなかった。

一般目線(高橋)

高速道路を一定速で巡航するなら、Vストロームがいい。ルルル…… と柔らかい排気音に包まれて、ゆったりと景色など眺めながら走るのに向いている。都会から離れ、交通量が少なくなるほどに、真価を発揮するタイプだ。前モデルに比べてシートがやや硬くなったように感じるのがちょっと気がかり。また、まったりタイプだからこそクルーズコントロールが欲しくなる。

交通量が多く、加減速やレーンチェンジを繰り返してキンキン走るならトレーサー。ちょっと気ぜわしさはあるが、都市高速にはズバリとハマる。シートの柔らかさは非常に好印象。ぜひともロングクルージングで試してみたいところ。

TRACER 900 vs V-Strom 650

ワインディング・インプレッション:トレーサーが快足ぶりを発揮(丸山)

ワインディングを走らせると、両モデルともエンジンが顔なのだということがよく分かる。ただしその表情はまったく違う。
トレーサーの並列3気筒エンジンは言うまでもなく元気いっぱい。回すほどにノリがよくなり、車体もハイペースにしっかり応える。車速とコーナーのRがバチッとハマッた時にこそ素晴らしい走りを見せる。

VストロームのVツインエンジンは、難しいことを考えずにそこそこのペースで縫うように走れる。「ワインディングを狙って走りに行く」というより「ロングツーリングの途中でワインディングに差しかかる」といったシチュエーションが似合う。

TRACER 900

ワインディング・インプレッション:噛むほどに味が出るVストローム(高橋)

ブレーキングして、シフトダウンして、車体を寝かせて……。ワインディングだからといって、そんな走りばかりをするわけじゃない。特にロングの場合は、スロットルのオンオフだけでスッ、スッとコーナーを駆け抜けるのが気持ちいい(し、疲れない)。Vストロームのジェントルさは、「噛めば噛むほど味が出る」という絶妙なバランスを感じる。意図して作り込んだとしたらスゴイ。短距離でパーッと走るなら断然トレーサーだが、そういう用途ならより軽快なMT-09かXSR900を選びたくなる。

V-Strom 650

乗るほどに違いが分かる両車のコンセプト

トレーサーは、完成度が非常に高い。MT-09、XSR900、そしてトレーサーは、エンジンと基本骨格を共有するヤマハ・プラットフォーム展開の代表格だが、中でもトレーサーは旅バイクとしての仕上がりが非常に高いレベルに達している。

エンジンも熟成が進められ、刺激と扱いやすさをバランス。エキサイトメント方向よりもユーザーフレンドリーさを重視しており、回さなくても心地良さが味わえる。

サスペンションも上質。ストロークの初期からよく動く脚長系でありながら、奥では踏ん張り感が効く。ワインディングでペースを上げてもまったく破綻せず、高剛性の車体、そして制動力の高いブレーキと相まって「快足」ぶりを発揮する。

あえて言うなら、「バイクの主張が強い」という側面があるのは否めない。これはライディングの楽しさと直結する個性の部分だから致し方ないのだが、長旅の相棒としては、やや急かされる感がある。

TRACER 900 vs V-Strom 650

Vストロームは真逆だ。主張しすぎず、旅の裏方に徹してくれる。

率直に言えば、ものすごく秀でたもの、突出したものがあるわけじゃない。その分、長く乗れば乗るほど体に馴染んでいく。Vストロームに乗っていると、バイクに乗っていることよりも、その上に乗っている自分を意識するようになる。「自分が主体となって旅をしているのだ」という感覚だ。

真性の旅人であるほど、Vストロームがしっくり来るだろう。どこかに行き、好きな景色を眺め、土地の美味を堪能するといった、旅そのものを楽しむライダーにはまったりとしたVストロームがぴったりだ。

一方で、マニアックなバイク好きには、Vストロームは少々物足りなく感じるかもしれない。旅のツールには最適だが、バイクとしてのパンチが足りない。

同じカテゴリーではあるが、ヤマハとスズキの狙いは明確に異なる。バイクとしてのまとまりを重視しながら、ライディングする乗り物としての魅力を高めたトレーサー。旅の「道具」としての完成度を高めているVストローム。さて、自分はライダーなのか、旅人なのか……。

トレーサー vs Vストローム

 

まとめ:「バイクに何を求めるか」。その答えがここに

「バイクとしてピシッと筋を通し、隅々まで配慮して設計されている」という印象のトレーサー。オン・オフを選ばずフィットするデザイン性の高さも含めて、考え抜かれている。刺激的な走りも含めて、「バイクにおけるオールマイティとはこうだ!」というヤマハらしい主張が見て取れる。

一方のVストロームは、やはり旅することそのものを主体に設計されているようだ。バイクとしてはルーズさがあって、細かい部分で煮詰まり切っていないようにも感じる。だが、そのルーズさがロングツーリングを快適にしてくれるのも確か。スズキがこの乗り味を狙って作り込んでいるのだとしたら、相当な熟成度合いと言える。

明確なキャラクターの違いを持ち合わせたこの2台、バイクに何を求めるかにより迷わず選び分けられるだろう。

TRACER 900 vs V-Strom 650

〈主要諸元〉TRACER900[V-Strom650]
全長:2160mm[2275mm]
全幅:850mm[910mm]
全高:1375mm[1405mm]
軸間距離:1500mm[1560mm]
シート高:850/865mm[835mm]
車両重量:214kg[215kg]
燃料タンク容量:18L[20L](ともに無鉛プレミアムガソリン)
エンジン種類:水冷並列3気筒DOHC4バルブ[水冷並列2気筒DOHC4バルブ]
総排気量:845cc[645cc]
最高出力:116ps/10000rpm[69ps/8800rpm]
最大トルク:8.9kg-m/8500rpm[6.2kg-m/6500rpm]
タイヤサイズ前:120/70ZR17[110/80R19]
タイヤサイズ後:180/55ZR17[150/70ZR17]

●まとめ:高橋剛 ●写真:山内潤也
●取材協力:ヤマハ https://www.yamaha-motor.co.jp/mc/、SHOEI https://www.shoei.com

kas

kas いわゆるWeb担的な黒子

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研二くんのゼッツーに憧れるも手が届かずZ400GPで卒輪(そつりん)した"自二車は中型二輪に限る"世代。あれから30余年を経てまさか再び二輪の世界に触れることになろうとは人生何が起こるかわからんもんだ(笑)
愛車:シトロエン2馬力号(自分的には"屋根付き四輪バイク"の位置付け)

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