2018年になってYPVS(ヤマハパワーバルブシステム)が新規投入されるニューモデルが登場する。8月28日に発売されるYZ85/LWでモトクロス競技用の2ストレーサーが大幅刷新されたのだ。
YPVSって何?
YPVSとは、2ストロークエンジンの排気ポート部分に設けられたバルブが、エンジンの回転数に応じて作動し排気タイミングを調整するメカニズムのこと。「一般的に排気タイミングは早いほど高速・高出力型特性となり、タイミングを遅くすると低速・高トルク型の特性となります。高出力型のレース用エンジンの場合も、コーナー立ち上りの加速時には高いトルクが要求されます。このふたつの要求を両立させるのがYPVSの役割です。その構造はシリンダーの排気ポート部にバルブを設け、エンジン回転数に連動させてバルブを回転、またはスライドさせ閉めたり開けたりします。このようにして実質上の排気のタイミングをコントロールする仕組みです。バルブの駆動制御は、エンジン回転数、スロットル回度などの情報に基づいて行われています」というのがヤマハの説明だ。
YPVSは1977年にYZR500に採用されたのが元祖で、市販車で有名なのが1983年のRZ250R。従来のRZ250は「5000rpm以下はせいぜい125ccクラスの実力」と書きつつ「6000rpmから高回転へ回し切って使うときの気分は、やっぱり痛快無比だ」(ヤングマシン’80年11月号より)というようにズバ抜けた速さの反面ピーキーな特性だった。一方、後継のRZ250RはYPVSの恩恵で+8PSの43PSを達成しつつ低速の問題も解消した。
新型YZ85はなんとエンデューロレースで活躍
ここまで説明したYPVSの効果は1980年代に語り尽くされていた訳ではなく、今、YZ85/LWのエンジンに新投入されて話題となっている。6月7日にマシンが正式発表された数日後、JNCCのエンデューロレースにヤマハのライダーがYZ85LWで参戦し、4スト450ccモデルなども走る中で5位を獲得。この成果も技術説明会で報告されるほど扱いやすさが強調されたのだ。筆者は以前YZ80LWを所有していた時期があるが、超絶ピーキーな出力特性で、とてもエンデューロレースに適応できるとは考えられなかった。それが大排気量に混ざって5位と、時代が変わっても2ストにYPVSの効果は絶大なのだ。
今、2ストが売れている
オンロードモデルではレーサーでも2ストロークは存在していないと言っていい状況だが、オフロードモデルでは今でも現役。さらにこの3年ほどは世界的に販売台数が伸びる傾向にあるとYZシリーズのプロジェクトリーダー・櫻井大輔氏は語った。メカニズムがシンプルで価格が抑えられること、同じ理由でメンテナンスのコストと手間が抑えらること、同じ理由で車重が抑えられることなど特に入門者にとってメリットが多い。だが、それだけでなく「面白さが理由でしょう」とも櫻井氏。2ストロークエンジンの痛快さを味わうチャンスがなくなっていく中、この分野では新車で味わうことができることから一線を退いたライダーの需要も見受けられるという。そのような背景からヤマハは2019年に新たにYZ65を投入し、さらにYZ85をアップデート。他にもYZ125/X、YZ250/Xと幅広いニーズに応えられるように2ストロークモデルを多数ラインナップしている。
取材協力:ヤマハ発動機/ヤマハ発動機販売