青木宣篤選手の解説でホンダの1年をたどる

2017年型RC213V最終仕様とシーズン振り返り

2017年末、ホンダRC213Vの2017年モデルの撮影が行われた。シーズンを戦い終えた最終戦バレンシア仕様の写真を紹介しつつ、昨年ヤングマシンで連載した青木宣篤完全監修「上毛GP新聞」のRC213Vに関する記事を掲載し、ホンダの2017年シーズンを振り返ってみたい。

YM ARCHIVE 2017/11

王冠は再びマルケスの手に

ホンダは今年、RC213Vに不等間隔爆発の新型エンジンを投入した。序盤こそ苦戦したものの、ライダーの慣れやソフトウエアの作り込みがどんどん進行。シーズン途中から上向きになり、ホンダ持ち前の安定性を発揮していった。
……というマシン面の前進もさることながら、何と言ってもマルケスの説明不能な身体能力の高さは本当にスゴイ! 最大の山場にして見せ場になったのは、最終戦バレンシアGPの24周目だろう。
11位以内でフィニッシュさえすれば、ライバルの動向に関わらずチャンピオン確定というレースなのに、マルケスは攻めた。そしてオーバーランした(笑)。ブレーキングで突っ込みすぎたのだ。
フロントが切れ込んだ時は、完全に「終わった」と思った。マルケス本人もそう思ったはずだ。しかし、転ばない。強靱な肘ヂカラを発揮し( そんなものあるのだろうか!?)、左肘を支えに立て直してしまうのだ!
通常なら、フロントが切れ込んだ時点で「えッ!?」と思う間もなく転んでしまう。しかしマルケスは、「えッ!?」の間に瞬時に立て直し体勢を整えている。おそらく彼の時間軸は常人とは違う。マルケスにとっての1秒は、普通よりずっと長いんだと思う。
こればかりはホント、持って生まれた身体能力としか言いようがないし、マネできるものでもない。「すごい!」と驚くばかりだ。
あれよあれよという間に最高峰クラスで4度目のタイトルを獲得したマルケスは、まだ24歳なんだよね……。

ヤングマシン2018年1月号(11月24日発売)より

YM ARCHIVE 2017/2

エンジンのホンダ、復権の狼煙 !!

’92NSR500の再来!? 炸裂するかビッグバン。明らかに異なるエンジン音。ホンダは昨季の逆回転クランクに続き、今季は同爆を採用した模様。共通ECUでパワーを生かし切れずにいたが、扱いやすさ向上に躍起になっている。

ヤングマシン2017年4月号(2月24日発売)より

YM ARCHIVE 2017/3

ホンダの「やや苦戦」はステップアップのバネ?!

ダニ・ペドロサが3番手につけて気を吐いたものの、どうもピリッとこないホンダ陣営。マルク・マルケスも11番手に沈んだ。最大の要因は、ビッグバンエンジンの採用だろう。
ホンダがいわゆる不等間隔爆発を採用したのは、共通ECUによってきめ細やかな制御ができなくなり、エンジンの素の扱いやすさを高めるためと思われる。実際、ビッグバンの方が確実に扱いやすい特性になるから、ホンダの選択は正解だと思う。
ところが、ここがまた微妙なところで、扱いやすいエンジン特性になったとしても、それが速さにつながるかどうかは別問題だ。
ライダーは、ピーキーと言われていた既存エンジンでの走り方に慣れている。
例えば、「このあたりでパワーがグンと盛り上がってくる。ソイツを利用して一気に向き変えだ!」という具合に、ピーキーという弱点さえ武器として利用していたのだ。
ところが、扱いやすいエンジン特性だと、その武器が失われることになる。ペドロサのように繊細な走りをするライダーにはうまくフィットしているが、マルク・マルケスのようにマシンを豪快に振り回すライダーは慣れるのに手こずっているワケ。
しかし、素の良さを高めたのなら、ライダーの慣れに従って徐々にポテンシャルを発揮することは間違いない。テストではもうひとつに見えても、シーズンが進むにつれて、やはりホンダは上位につけてくるはずだ。

ヤングマシン2017年5月号(3月24日発売)より

YM ARCHIVE 2017/04

エンジンもシャーシも課題満載か?!

どうにもパワー感がなく、ストレートでビュンビュンとライバルに抜かれる姿を見せているRC213V。エンジンの爆発間隔を変え、同爆に近いものにしたことが主要因だが、それにしても苦戦しすぎ。これまで最高峰の点火制御を行っていたホンダは、共通ECUのシワ寄せをもっとも食らっている。また、同爆化によってリヤタイヤを流して向きを変えるタイミングに微妙なズレが生じているようで、ライダーを悩ませている。さらに、シャシーも硬すぎるように見受けられる。縦、横、ねじれの剛性が高すぎることで、ちょっとしたバンプでスパッと滑ってしまうようだ。ヒタヒタと調子を上げてくることは間違いないホンダだが、エンジン開発に厳しい制限が課せられている今のモトGPでは、短期間での劇的復活はかなり困難かもしれない。

ヤングマシン2017年6月号(4月24日発売)より

YM ARCHIVE 2017/05

あまりにも繊細な「無冠の王者」、ペドロサ今季初優勝!

スペインGPで優勝したのは、ダニ・ペドロサ(ホンダ)。しかもチームメイトのマルケスを大きく引き離しての勝利。これはもう、驚愕に値する。
ペドロサが非常に高い能力を持つライダーであることは、誰もが認めるところだ。彼は世界GP125ccクラスを戦っていた’02年から毎年欠かさず優勝しており、今回の勝利で16年連続してシーズン中に必ず勝ち星を挙げていることになる。
これは本当にスゴいことだが、一方でペドロサはモトGPクラスで11年のキャリアがありながら、まだ王座に就いていない。
高い能力がありながら、なぜチャンピオンになれないのか。なぜマルケスに勝ったことが「驚愕」なのか。
いろいろな要因があるが、ワタシはペドロサの類い希な繊細さが災いしていると思う。彼はその繊細さを武器にハイレベルな走りをしているのだが、逆に、その繊細さによって足を引っ張られてしまうのも事実なのだ。
世の中には往々にして「分からない方がいいこと、知らない方がいいこと」というものがある。レースももちろん同じで、分かっていないからこそ、知らないからこそ、勢いに任せてイケてしまう領域というのが多分にある。
マルケスは極めて高い身体能力の持ち主で、彼にしかできない走りをしているが、その大きな原動力になっているのは「よく分かっていないこと」だ。
ライディングに際していろいろなことが分かってしまうと、つい「自分リミッター」を作ってしまう。これを突破するのは至難の業だ。特にペドロサは繊細な分、人並み以上に「分かって」しまい、それだけに自分リミッターも強力なはずだ。「イイ時はイイ、ダメな時はダメ」と好不調の波がハッキリしているのは、ペドロサの自分リミッターが大きく影響している。
チームメイトにして最大のライバルであるマルケスが、「よく分かっていない」がゆえに自分リミッターほぼ未装備なのとは対照的だ。
強力な自分リミッターを装備しているペドロサと、自分リミッターほぼ未装備のマルケス。対照的なホンダの2枚看板は、これからさらに激しいつばぜり合いを見せてくれそうだ。何しろ繊細なペドロサが勝つということは、ホンダRC213Vがいよいよ仕上がってきたことの証拠なのだから……。
余談だが、分かっていながら自分リミッターを解除できるのが、ロッシだ。ズバ抜けたセンシング能力を有したロッシは、恐らくモトGPでも随一の「分かっているライダー」だが、同時に自分リミッターの設定・解除も自由自在。「ソレはソレで何とかしちゃう」あたりが、現在ランキングトップというポジションに表れている。ロッシやっぱり恐るべし、なのだ。

ヤングマシン2017年7月号(5月24日発売)より

YM ARCHIVE 2017/08

マルケス、タイトル争いをリード!

夏休み明け最初のレース、第10戦チェコGPを制したのは、マルク・マルケス選手(ホンダ)だった。この男、難しいコンディションになればなるほど、圧倒的な強さを見せつける……。
ウェット路面が徐々に乾いていく悩ましい状況だったチェコGP。多くのライダーがレインタイヤのミディアムコンパウンドを選択する中、マルケスはソフトコンパウンドを履いてスタートした。
1周目こそ2番手で帰ってきたものの、乾き始めた路面でレインタイヤソフトコンパウンドではキツい。2周目にはサッサと見切りをつけてピットインすると、ドライ用のスリックタイヤを装着したマシンに乗り換えた。
まだ路面がかなり濡れている段階でのスリックへの履き替えは、非常にリスキーだ。しかしマルケスは持ち前の身体能力の高さをフルに発揮。レインタイヤのままヨロヨロと走るライバルをバッサバッサとパスすると、6周目にはトップに立ち、そのまま大きなアドバンテージを築いて優勝した。
さすがチャンピオンの貫禄、といったところだ。序盤戦では誰も敵わないほど勢いがあったヤマハのマーベリック・ビニャーレス選手が、ウワサされる精神的なモロさからかもうひとつ調子に乗れないのとは裏腹に、マルケスは淡々とポイントを稼いでいく。
混戦続きの今季、まだ8戦を残しているから王座の行方は分からないが、マルケスにとってかなり有利なシーズンになりつつあるのは確かだ。
ところで、今回のようにレース途中で路面コンディションが大きく変わった時は、「フラッグ・トゥ・フラッグ」というレギュレーションにより異なるタイヤを履いたマシンに乗り換えることができる。その際、ピットからテキストメッセージでライダーに情報を伝えていることをご存知だろうか? メーターにテキストを表示するこの仕組み、「ダッシュボードメッセージ」と呼ばれているが、現在は一部チームのみが使用。だが、’18年にモトGPとモト3で、’19年にはモト2でも義務化される予定だ(4輪レースのようにピットと運転者が無線で直接やりとりすることは相変わらず禁止)。
安全なレース運営のためにも、エンターテインメント性の向上という点でも、こういう新機軸は大歓迎だ。チェコGPでは各チームがエアロフェアリングを一斉に登場させたこともあるし、モトGPはもっと面白くなる!

ヤングマシン2017年8月号(6月24日発売)より

YM ARCHIVE 2017/10

これぞレース!! 日本GP最終周の両雄激突バトル!!

シビレましたね。本当にシビレた。ワタシもずいぶんとレースをしてきているので、人様のレースを観て感動することはほとんどないが、今回ばかりはウルッと来てしまった。
こんなすごいレースを日本で観られるなんて……! 皆さん、来年の日本GPに向けて今から予定を立てておいた方がいいですぞ。
10月15日の日本GP・モトGP決勝は、降りしきる秋雨の中で行われた。序盤はダニロ・ペトルッチ(ドゥカティ)がレースをリードしたが、13周目には現在ランキング首位のマルク・マルケス(ホンダ)がトップに。直後にはランキング2位のアンドレア・ドヴィツィオーゾ(ドゥカティ)がつけ、後続をグングン引き離していく。これで、チャンピオン争い真っ最中のふたりだけが、ハイレベルに競い合う展開となった。
19周目にドヴィがトップに立ったが、残り3周となった22周目、130Rという高速コーナーでマルケスが抜き返す! 何度かの激しい攻防の末、トップの座を守ったのはマルケスだ。このままの勢いでマルケスがリードを広げるかと思ったが、ドヴィも離れない。
そしてファイナルラップ。マルケスがややドヴィを引き離し、そのまま逃げ切り態勢に入ったが、S字ふたつめで痛恨のミス! 間合いを詰めたドヴィと接近戦になり、V字コーナーではドヴィが前に、最終コーナー進入ではマルケスが、そして立ち上がりではドヴィが前に出て、そのままチェッカーを受けた。
最終コーナー進入、ドヴィはマルケスが突っ込んでくるように、あえてイン側のラインを1本空けていたようだ。後ろにいるマルケスとしては、とにかくインを突くしかない。まんまと誘い込まれる形でインに飛び込むマルケス。オーバースピードでアウト側に膨らむと、コンパクトなラインで立ち上がったドヴィが鋭く加速して前に出たのだ。
すがすがしいほどクリーンなバトル。押せ押せイケイケのマルケスと、1歩引く余裕があるオトナなドヴィとのマッチングにより、最高にスリリングで見応えのある爽やかな戦いとなった。
ふたりともタイヤは終わっていて、ズルズルに滑る状況でのギリギリのバトル。それでも相手の動きを読み合いながら、クラッシュもせず攻め切る。いや〜、モータースポーツも結局最後は人間の戦いだね!
レース後、「すげえレースやっちゃったな!」とでも言うようにウハウハと楽しそうに笑い合うドヴィとマルケスの姿がとても印象的だった。
少しマルケスがリードしていたチャンピオンポイント争いも、これでドヴィが11点差にまで接近。残りは4戦はマルケス有利のコースが続くが、ドヴィの猛追に期待できそうだ!

ヤングマシン2017年12月号(10月24日発売)より

解説は世界グランプリで10年間戦った青木宣篤選手。現在はスズキのモトGP開発ライダーで、鈴鹿8耐にも参戦し好成績を収めている。モトGPライダーのテクニックやバイクのメカニズム研究に余念がないライテク&バイクオタクとしても有名。日テレのMotoGP解説でもお馴染みだ。

写真提供:本田技研工業

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いち

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本誌編集長。雑誌は生き残りタイアップ全盛期だというのに、ひとり次期型ネタを嗅ぎまわって反感を買う現代のスクープ魔王。
■1972年生まれ
■愛車:BMW R100GS(1988)

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