青木宣篤選手の解説でヤマハの1年をたどる

2017年型YZR-M1最終仕様とシーズン振り返り

先日、ヤマハYZR-M1の2017年モデルの撮影が行われた。シーズンを戦い終えた最終戦バレンシア仕様の写真を紹介しつつ、今年ヤングマシンで連載した青木宣篤完全監修「上毛GP新聞」のYZR-M1に関する記事を掲載し、ヤマハの2017年シーズンを振り返ってみたい。

YM ARCHIVE 2017/11

苦戦のヤマハファクトリー

最初に謝ってしまいます。モトGP’17シーズン開幕前から「今年はマーベリック・ビニャーレスの年だ!」と予想してました。
そして結果は皆さんもご存知の通り、チャンピオンを獲得したのはマルク・マルケス(ホンダ)で、ビニャーレス(ヤマハ)はランキング3位……。つまり、予想は大外れ。大変失礼しました。
ビニャーレスの実力に疑いの余地はないし、開幕前テストからシーズン序盤にかけての勢いは、誰も止められないものだった。しかし、中盤以降はまさかの失速……。 これについてはワタシなりの見解もあるので次項で詳しく解説するとして、まずは王者を称えたい。

(中略)開幕前テストから序盤にかけ、ビニャーレスの勢いは凄まじかった。ところがシーズン中盤に入るといきなりの失速……。その理由をいろいろ考えた末に思い当たるのは、第6戦イタリアGPあたりからミシュランタイヤがアップデートされたことだ。
簡単に言ってしまえば硬くなったのだが、これがヤマハファクトリーが使う最新型YZR-M1にとって悪い方向に影響したようだ。最初の印象は悪くなかったようだが、シーズンが進むにつれてあれよあれよという間に泥沼にはまってしまった。
何をやってもうまく問題解決できず、ついに最終戦ではサテライトチームのテック3に前年型フレームを借りる始末。シーズンオフにじっくりと問題点を洗い出すためのワンステップということらしいけど、ちょっとの歯車の狂いが大きく成績を左右する今のモトGPを象徴する出来事だ。
タイヤとフレームの相性が悪かったせいか、ビニャーレスの走り自体も精彩を欠いた。彼の長所は、旋回中、まだバンク角が深い段階でいち早くスロットルを開けてマシンを曲げてしまうこと。’07年と’11年にチャンピオンになったケーシー・ストーナーばりの走りだ。
キマれば素晴らしい速さを見せるテクニックである反面、諸刃の剣と言おうか、ちょっとでも不安があると不可能なワザでもある。何しろ、フルバンクでケツを滑らせて向きを変えるという正気の沙汰とは思えないテクニックなので、わずかな違和感でもうまくいかなくなってしまう。
それこそタイヤの仕様が変わったりした時の「あれっ?」という違和感が、転倒につながってしまう。そういうことが積み重なると、もう迷宮入りだ。やることなすこと裏目に出てしまう。「今シーズンは27・5回も転んじゃったよ!」(本人談)と細かいことは気にせずに笑い飛ばしたマルケス。ちょっとした違和感に囚われてしまったビニャーレス。ライディングテクニックと本人のキャラクターの合わせ技が、クッキリと明暗を分けたシーズンだった。

ヤングマシン2018年1月号(11月24日発売)より

YM ARCHIVE 2017/2

インナーウイングで稼げダウンフォース!!

最高峰バランスマシンだが、それが災いしてステップアップに苦戦!? エンジンパワーを生かしつつウイリーを抑えるべくダウンフォースに活路を見出し、空力パーツ開発に注力。

ヤングマシン2017年4月号(2月24日発売)より

YM ARCHIVE 2017/3

2017年のチャンピオンはビニャーレスでほぼ確定

シーズンオフテストで圧倒的な存在感を示したのは、スズキからヤマハに移籍したマーベリック・ビニャーレスだ。1発のタイムを出す時の速さと集中力はもちろん、ロングランテストでもコンスタントに好タイムをマークし、完全にアタマひとつ抜けている。ちょっと手が付けられなさそうだ。
その走りは、「パーフェクト・アンダーコントロール」。掌の上でモトGPマシンを転がしているような状態だ。「この場所ではこれだけ滑らせる」「ここからはグリップさせる」と、すべてをコントロールして走っている。
だから、ビニャーレスの走りは一見するとおとなしく見えるかもしれない。ホルヘ・ロレンソのようなキレキレ感とも、マルク・マルケスのようなダイナミック感とも違う。技を効かせてすべてを完全に掌中に収めている、もはや達人の領域だ。
驚かされたのは、ブレーキングの凄まじさだ。フロントを滑らせ、リヤも滑らせ、しかも超ハードブレーキングながらリヤはビタッと接地している。安定感があるから、より短時間でよりハードに減速が済ませられているワケだ。
これはビニャーレスならではの体の使い方、優れたボディバランスの成せるワザ。ハデさはなく、地味と言えるけれど、これは本当にスゴイことだ。
今年はビニャーレスがチャンピオンを獲る可能性が相当高い。でもそれだけではなく、モトGPライディングのトレンドを大きく変えるかもしれない……!

ヤングマシン2017年5月号(3月24日発売)より

YM ARCHIVE 2017/04

好成績も天才ビニャーレスのおかげ

マーベリック・ビニャーレス、そしてバレンティーノ・ロッシの活躍によって、ヤマハYZR-M1は随一の完成度と言われている。しかしワタシの目には、必ずしもパーフェクトには見えない。ブレーキングしながら旋回するシーンでは、フロントが横っ飛びするような挙動が窺えるのだ。ロッシもフロントまわりの挙動を問題視するようなコメントをしていたが、前後の荷重バランスは決してベストではなさそうだ。「何に乗っても速い」天才くん・ビニャーレスだからこそ乗りこなせているワケだが、彼のスゴさは抜重の妙技。深いバンク角の最中にスッと荷重を抜き、その瞬間にリヤタイヤをスピンさせ、向きを変えている。フロントに頼らない走りだから、転倒も少ないのだ。ロッシがこの走りに食らいつけているのは、もはやド根性のヒトコト。ライン取り、ブレーキングポイントなどちょっとずつ探っては引き出しを増やしているのだから恐れ入る。

ヤングマシン2017年6月号(4月24日発売)より

YM ARCHIVE 2017/05

ロッシが指摘していた不調の要因とは!?

開幕前テストでの好調。さらに開幕戦からの2連勝。冷静なレース運びも相まって、このままチャンピオン街道まっしぐらかと思われた、マーベリック・ビニャーレス(ヤマハ)。
しかし、第3戦アメリカズGPでは2周目に転倒リタイヤ。ヨーロッパに舞台を移しての第4戦スペインGPは見せ場もないままに6位に終わった。
スペインGPではチームメイトのバレンティーノ・ロッシも10位。ランキングこそロッシとビニャーレスがかろうじて1—2位につけているものの、ホンダ勢が急速に肉薄し、チャンピオン争いが激動の様相を呈してきた。
まだ4戦目とはいえ、ヤマハ・ファクトリーの失速は明らか。いったい何が……!?
実は不調の前兆は、開幕前テストの段階から垣間見えていた。ビニャーレスが絶好調でトップタイムを連発する一方で、ロッシはずっとフロントへの不満を訴え続けていたのだ。
具体的にどんな問題を抱えているのかは、ヤマハのモトGPマシン、YZR—M1に乗っていないから分からない。しかし今季、ヤマハの関係者からは「低重心にした」というコメントが聞かれた。ここに何か潜んでいるかもしれない。
低重心化は、基本的な安定性と静的な荷重が増す。高重心化が運動性能を高め動的な荷重を増やすのとほぼ正反対の効果だ。
低重心化がいいのか、それとも高低重心化がいいのか。これは車体のキャラクターやタイヤとのマッチングによるので、一概にはどちらが正解とは言えない。ただひとつ言えるのは、重心位置の変更はリスクも伴う、ということだ。
フロントタイヤが重要な役割を果たすのは、主にブレーキングから旋回にかけてのパートだ。ブレーキをかけると、ピッチングモーションによりフロントタイヤに荷重がかかり、「タイヤがつぶれた」状態になる。
その時、タイヤが接地しているポイントにピッタリと車体そのものによる荷重がかかっていれば、ライダーはかなりの安心感を得ることができる。
でも逆に、ピッチングモーションによる荷重と車体からの荷重に少しでもズレが生じると、ライダーとしてはかなり不安を感じるし、実際に転倒するリスクも高まるのだ。
ちなみに、スズキ・モトGPマシンの開発ライダーを務めさせていただいているワタシには、そのズレが分かる。イメージとしては、5cmもズレていたらもうアウト、という感じ。実測したら、数値はもっと小さいかもしれない。それぐらいシビアな話ではあるが、決して無視はできない。
突然に見えるM1の不調は、実は「低重心化」によってもともと隠されていたもので、それがここ2戦で表面化しただけ、と言えるかもしれない。
では、なぜ最初の2戦は問題にならなかったのか。これは乗れていたビニャーレスの好調さがアダになったのだろう。
ビニャーレスはまだまだ若く、勢いのあるライダー。冷静なようでいて、やはり勢いで走っている。そして勢いのよさとは、「細かいことには気付かない」ということでもある。
開幕前テストから、ロッシがフロントの不調を訴えていたのとは対照的に、イケイケで好タイムを連発し開幕2連勝を飾ったビニャーレスは、フロントの不安感などさほど感じていなかったはずだ。
しかし、第3戦アメリカズGPでフロントからスパッと転びリタイヤしてしまうと、第4戦スペインGPではそれまでとは打って変わって慎重に、ハッキリ言ってビビリながら走っていた。ロッシがずっと指摘していた「ヤバさ」を、体で知ってしまったからだ。
ヤマハも、開幕前テストからのロッシの指摘を受け、すぐに新しい車体の開発を進めていたはずだ(スペインGP後にはニューシャシーもテストしている)。でも、片やビニャーレスが好調なうちは、どこか油断があったのかもしれない……。
ヤマハはすでに問題をしっかりと認識し、対策に乗り出している。不調のままズルズル進むとは思えない。
とはいえ、スペインGPではホンダのダニ・ペドロサとマルク・マルケスが1—2フィニッシュを決め、3位にはドゥカティのホルヘ・ロレンソがつけている。シーズン開幕前に予想したような「ヤマハ1強」とはいかないだろう。混沌のシーズン、観ている側としては最高に楽しめそうだ。

ヤングマシン2017年7月号(5月24日発売)より

解説は世界グランプリで10年間戦った青木宣篤選手。現在はスズキのモトGP開発ライダーで、鈴鹿8耐にも参戦し好成績を収めている。モトGPライダーのテクニックやバイクのメカニズム研究に余念がないライテク&バイクオタクとしても有名。日テレのMotoGP解説でもお馴染みだ。

写真提供:ヤマハ発動機株式会社

いち

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本誌編集長。雑誌は生き残りタイアップ全盛期だというのに、ひとり次期型ネタを嗅ぎまわって反感を買う現代のスクープ魔王。
■1972年生まれ
■愛車:BMW R100GS(1988)

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