最強のRC213V&マルク・マルケス選手だったが、シーズン開幕と同時に欠場の憂き目に。代わりに中上貴晶選手が台頭したものの、ランキング10位に留まる”完敗”だった。本田レーシング取締役レース運営室長・桒田哲宏氏と、同開発室RC213V 20YM開発責任者・子安剛裕氏へのインタビューを通じて、ホンダチームの’20シーズンを振り返る。
ターゲットは”3冠奪取”だった
──’20年はホンダにとってどんなシーズンでしたか?
桒田:未勝利に終わったこと。この結果を真摯に受け止めてひと言で言うと、完敗だったと感じています。
反面、この負けの中から多くを学ぶことができ、それが’21年につながるのではないかと考えています。
まず、ウインターテストからミシュランの新しいリヤタイヤへの適合にかなり苦戦しました。カタールテストまで苦しみ、その後新型コロナ禍でテストやレースがキャンセルになるという非常に難しい状況に陥る中、なんとかマシンの開発を進めていきました。
初戦となった第2戦スペインGPではマルク・マルケス選手が強い走りを見せてくれたのですが、転倒により負傷。それ以降、どうすればマルク選手以外のライダーにもRC213Vの性能をしっかり引き出してもらえるかを考えながらの戦いになりました。
──マルク選手の欠場によって戦略に変化はありましたか?
桒田:我々のターゲットは、常に3冠(ライダー/コンストラクター/チームの各タイトル)を獲ることです。ですので、やること自体は例年とあまり変わりませんでした。
3冠を獲得するために最大限何ができるか考え、ステファン・ブラドル選手に代役で参戦してもらい、開発の進行とともに成績を収めることを両立してきました。
また、ランキング上位の選手に対してサポートを強め、’20年で言うと中上選手/アレックス選手/カル・クラッチロー選手に極力成績が出るようにサポートしていきました。
“勝ち技”が持てなかった’20年型RC213V
──’20年型RC213Vの開発の方向性について教えてください。
子安:エンジン、車体のすべてを見直しました。エンジンは’19シーズンの流れを汲みながら、エンジンの出力やドライバビリティの向上を主眼に、細部にわたって磨き上げました。
車体は加減速時の車体の安定性/旋回性/トラクションの向上が主眼です。フレーム/スイングアームなどの基本骨格の見直しは当然ながら、部品の配置などあらゆる箇所を見直し、変更しました。さらに電装システムや制御も変更し、特に減速時の安定性向上に大きく寄与しました。
──’20年型の開発はどのように進めましたか?
開発コンセプトのひとつに、加速や最高速といった動力性能を’19年型以上に向上させる狙いがありました。開幕前のセパン/カタールでのテストではそのあたりに注力しました。
また空力面では、ウィリーの抑制のためにダウンフォースを稼ぐべく、ウイングレットの開発を進めました。目標は達成できた一方で、開幕直前のカタールテストでは旋回性に悪影響を及ぼしていることが分かりました。時間もない中で、開幕戦は’19年型の形状に戻す決断をしました。シーズン中にアップデートする考えでしたが、新型コロナ禍でレギュレーションが変わったこともあり、そのまま戦いました。
──ライバルと比較して、’20年型の強みはどこだったとお考えですか?
子安:非常に難しい質問です。’20シーズンは勝てなかった事実を考えると、胸を張れる強みは何かと言われるとなかなか厳しいかな、と。
圧倒的な強さで勝った’19年型にあって’20年型になかったものは、明確な勝ち技です。直線で抜ける加速力といった動力性能の不足や、新しいミシュランタイヤへの適合に少し時間がかかったところが大きな課題でした。
桒田:’19シーズンにトップレベルに近づいた動力性能をさらにもうひと伸ばしすべく、’20年型でトライしました。我々としては向上しているんですが、ライバルの向上の幅が大きく、結果的に差をつけられませんでした。
実は’19シーズンにマルク選手がチャンピオンを獲った時も同じような課題があり、それに対応しようと努力しましたが、タイヤの適合も含めて特にシーズン序盤は性能不足でした。後半に向けて改善を進めたことが、レース結果にも表れたと考えています。
──シーズン中、具体的にはどのようなアップデートをしましたか?
子安:開幕前テストの開発方針とほぼ同じで、スイングアーム/フレームなどいろんなトライをしました。
主な狙いとしては、ミシュランの新しいリヤタイヤへの対応でした。タイヤそのものがどう変わったかは、むしろ教えてもらいたいぐらいですが(笑)、そこをどう我々なりに理解していくかがポイントでした。
トライ&エラーを繰り返しながら、どうすれば新しいタイヤの旨味を引き出せるか模索する中で、サスペンションの動き方に着目しました。それがシーズン後半の中上選手のポールポジションや、アレックス選手の2位表彰台獲得につながったんだと思います。
──4人のライダーのうちマルク選手/アレックス選手/クラッチロー選手の3人がファクトリーマシンで参戦する旨が発表がされていました。マルク選手の欠場が続く中、中上選手のマシンもアップデートしましたか?
桒田:はい。シーズン途中、中上選手はチャンピオンを獲れる位置でレースしてくれていましたので、当然のことながらアップデートを行いました。
彼のマシンは’19年型のエンジンを使っていましたが、それ以外はほぼ’20年型と考えてもらっていいような仕様。いいものがあれば中上選手のマシンにも積極的に採り入れました。
──マルク選手の欠場以来勝利を挙げられていません。「ホンダはマルクがいないと勝てない」という声も聞かれます。どう受け止めていますか?
桒田:そう言われても仕方がありません。結果がそうなっていますからね。
ホンダは、どのライダーが乗っても高いパフォーマンスを発揮できるマシン開発を続けています。我々としては、マルク選手のためだけのマシンづくりをしているわけではないんです。
ただ、課題を見つけながら限界域で使いこなしていたのがマルク選手だったことは確か。たくさん勝っていたマルク選手の意見を聞きながら開発を進めていたんですが、我々の力不足で指摘されていた課題を克服できていなかった。そこにミシュランタイヤの変更が重なり、復調に時間がかかりました。マルク選手のいる/いないに関わらず、マシンとしての絶対的な性能が足りなかったのだと捉えています。
今後に向けて行うのは、結局は各ライダーがマシンのポテンシャルをより引き出しやすくすることに尽きます。エンジンの出力特性をもっと使いやすくするとか、限界をとにかく分かりやすくするといった、今まで通りの開発を続けていくことになります。
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