【ACCとY-AMTの融合が目からウロコの便利さ!】ヤマハ トレーサー9 GT+ Y-AMT 2025モデル試乗レポート

ACCを搭載したヤマハのスポーツツアラー・トレーサー9GT+に電子制御シフト機構Y-AMTを追加装備したトレーサー9 GT+Y-AMTが2025モデルとして登場。この他、今回のビッグチェンジではディメンション&ポジション変更やシートフレーム延長などの車体まわりの改変に加え、待望の電動スクリーンや燃料タンク右側の小物入れなどの追加装備をゲットするなど、さまざまなブラッシュアップを受けている。……が、今回は最新の電子制御システムであるACCとY-AMTの協調具合や二輪としては世界初搭載となるマトリクスLEDヘッドランプを中心に詳しく見ていこう。
●文:谷田貝 洋暁 ●写真:長谷川 徹 ●BRAND POST提供:YAMAHA [Y’S GEAR]
新型トレーサーでACCとY-AMTが融合!
TRACER9 GT+ Y-AMT ABSのカラーラインナップは2種類。 右がブラックメタリックXで左がダークパープリッシュブルーメタリックU 。価格は両カラーとも198万円で、これだけの先進機能を搭載していながらこの価格は驚異的。
今回のビッグチェンジで色々機能が追加されたり改変を受けているトレーサー9 GT+ Y-AMTではあるが、何はともあれ書くべきは前走車追従型のクルーズコントロール「ACC」と、オートマチック技術である「Y-AMT」の融合が“どんな具合だったか?”というところだろう。
ACCに関しては従来型のトレーサー9 GT+から採用されていた技術であるが、ここにMT-09やMT-07にも搭載された二輪用マニュアルトランスミッションエンジンをオートマチック変速化するY-AMTがドッキング。
ACCでの走行中、前走車に追いついて減速するような場合、必要があればY-AMTが自動的にシフトダウンやシフトアップを実施。高速道路を巡航するような場合、よりバイク任せな部分が増えたというわけである。
ACC(アダプティブ クルーズ コントロール)とは、前走車がいなければ設定した速度で巡航走行し、前走車を検知すると自動で減速をかけ、車間を空けて追従走行する機能だ。
ACCのキーデバイスとなるのがミリ波レーダー。前方(写真中央下部)にボッシュ製ミリ波レーダーを搭載しており、進行方向にミリ波を発してその反射状況で交通状況を把握している。
Y-AMT(ヤマハ オートメイテッド マニュアル トランスミッション)は、バイク用のスポーティなMTエンジンに、シフトアクチュエーターとクラッチアクチュエーターを搭載してオートマチック化する技術だ。
Y-AMTを搭載したことで発進から停止までクラッチレバー操作も必要なければ、ギヤチェンジ操作も必要ない。
ACCとY-AMTのコンビネーションが異次元の楽さを創出
ACCとY-AMTが組み合わさったことでさらに高速道路の移動が楽に! 加減速の操作はほぼバイク任せでよくなった!
小難しい技術説明はこのくらいにして、早速ACC&Y-AMTの融合がどうだったかを書いていこうと思うが、結論から先に言ってしまえば、システムがものすごく緻密に組まれており“想定以上の快適さ”があった。
操作も簡単で、トレーサー9 GT+ Y-AMTのオートマチックモードである「D(標準的)」もしくは「D+(スポーティ)」を選択し、高速道路に入って車の流れに乗ったらACCシステムをON。車速設定を車の流れよりも若干高めにしておけば、多少前走車が加減速しても一定の間隔(速度によって異なる)で追走していく。
以前のモデルでは、速度の変化に併せてギヤチェンジする必要があったが、新型ではスロットル操作はもちろん、Y-AMTのおかげでギヤチェンジ操作の必要性がなくなっている。
前走車に合わせた加減速の具合も、過不足なく安心してバイク任せにしておけるくらい完成度が高い。ただ、ちょっと気になったのは車間距離。取扱説明書によれば、車間距離を左スイッチボックスのボタンで4段階から任意に設定が可能なのも、車間の取り具合の設定も前作と一緒のようなのだが、記憶にある前作の車間の取り方よりもちょっと間が空いた印象。最も車間を狭くする設定でも新型は割り込みを誘発しそうな距離に感じた。
ACCの車間距離最短設定&Y-AMT「D+」モードで前走車を追従走行しているところ。距離感はこのくらいで混雑してくると何度か割り込みを受けた。
ACC&Y-AMTは交通環境が混雑して速度が落ちるような場合も自動でシフトダウンし、必要があればブレーキ入力を行なって減速。ACCのシステムをオンにできるのは30km/h~160kmhだが、前走車の影響で減速していっても25km/hくらいまで粘る。前走車に追従したままETCレーンも難なく通過できた。
2025年6月現在、このヤマハのトレーサー9 GT+ Y-AMTのようなACC&オートマチック変速技術を持った車両にはBMWのR1300GSアドベンチャー ツーリングASAがあり、筆者もすでに試乗済み。
どちらもオートマチック変速とACCが融合しているという意味では非常によく似た機能を持っていたが、日本を走る分にはヤマハの方が快適である印象を受けた。というのもBMWの本拠地である欧州は通行区分が日本と逆の右側通行。ACC&ASAで追い越し車線を使って追い越しをかけるような場合には日本でいう左側からの追い越しのように認識してしまうようで、遅い走行車線の車に反応して減速してしまうことがよくあった。
トレーサー9 GT+Y-AMTの右スイッチボックス。中央のボタンでACCの距離設定が4段階に変更できる。
そこへ行くと日本車であるトレーサー9 GT+ Y-AMTのACC&Y-AMTの場合、追越車線を走っていても走行車線の車に反応するなんてことはなく、普通に追い越しがかけられる。しかも、ウインカーを出して追越車線にレーンチェンジする際の加速具合が秀逸。走行車線から追越車線に出るか?(左車線から右車線へ)、追い越し車線から走行車線に移るか?(右車線から左車線)で加速のかかり方が異なったりして、非常に細やかな配慮が制御全般に行き渡っている。
この手の技術は、乗り手がどこまでバイクを信用できるかにかかっているが、その点でトレーサー9 GT+ Y-AMTの制御の方が優れているのだ。
KYB製電子制御サスペンションとACC&Y-AMTの連携が秀逸!
渋滞などに追いついたような場合にも、ACCのシステムが信用できるようになれば速度差50km/hくらいまでなら減速をバイク任せにしていられる感じ。これはスゴイ!
またトレーサー9 GT+ Y-AMTのACC&Y-AMTが優れているところは、KYB製の電子制御サスペンションと協調制御しながらブレーキをかけてくるところだ。筆者はこれまでドゥカティ、KTM、BMW、カワサキといったACC付きのモデルへの試乗経験があるが、ヤマハのACCほどしっかり強めのブレーキをかけてくるACCを知らない。
他社製のACCも前走車に追いついたりするような場合に自動でブレーキをかけてはくるのだが、どうも“やんわり”の域を出ず、前走車との相対速度が50km/hを超えるような場合にはライダー自身の操作で積極的にブレーキ介入する必要がある。
電子制御サスペンションはKYB製。この電子制御サスペンションとACC&Y-AMTが連動して積極的にバイクの姿勢をコントロールする機能を搭載。ブレーキング時のつんのめり具合の少なさが異次元レベルに達している。
ところがトレーサー9 GT+ Y-AMTのACCは、電子制御サスペンションとの協調制御のおかげで“急ブレーキ”に近いブレーキ介入を入れてくる。“そんな! バイクに勝手にブレーキをかけられたらライダーが前につんのめってしまって危ないだろ!?”と思うかもしれないが、そうはならないように電子制御サスペンションが車体の姿勢をコントロールするから強いブレーキがかけられるのだ。
この電子制御サスペンションと協調制御するブレーキシステムのおかげで、ヤマハのACC&Y-AMTは他のACCシステムの一歩先を行っている印象だ。
後方にもミリ波レーダーを搭載しBSD機能追加
テールランプ下にミリ波レーダーを装備し、後方にミリ波を飛ばしその反射具合で死角に車がいるかどうかを検知している。
2025年モデルのトレーサー9 GT+ Y-AMTは、前方のミリ波レーダーに加えて、車体後部にもミリ波レーダーを装備し、BSD(ブラインド スポット ディテクション)機能を追加。このBSDは、直訳すれば“後方死角検知機能”であり、文字通り車線変更をしようとした際に、ミラーに写らない死角に車がいればライダーにその存在を教えてくれる機能だ。
ヤマハの二輪車としては初の機能であるが、これもなかなかよくできていた。最初はミラーの端で申し訳なさそうに光るインジケーターに、“こんな弱い光じゃ死角に車がいても気づかないじゃん!?”などと思ってしまったのだが、そういうことではなかったのだ。
実際に走って使ってみると、普段はインジケーターが光っていても光っていなくてもほぼ気にならない。ただ、車線変更をしようと後方を確認しようとミラーに目線を向けると途端にインジケーター光が目に入るようになる。つまり、直進している間はインジケーターが光っていても光っていなくても気にならず煩わしいことはないが、いざ車線変更をするとなったときにインジケーターが光っていればしっかり気づけるようになっているというわけ。
ミラーの端でインジケーターが光る。なんだか見にくい……と思いきやこれが快適性と実用性がバランスしたちょうどいい光り具合になっていた。
実際、車線変更しようとウインカーを出したときに死角に車がいたことで、しっかり点滅するインジケーターが目に入り、慌ててウインカーを消す……なんて状況が何度かあった。
前方のカメラで交通状況を把握するマトリックスLEDヘッドランプ
マトリクスLEDヘッドランプは対向車を検知してヘッドライトの配光を変化させる。写真はイメージで、このような周囲が明るい状況では反応しなかった。
このマトリクスLEDヘッドランプは、2025年モデルのトレーサー9 GT+ Y-AMT(および同時開発のトレーサー9 GT)から搭載された機能で、なんと車体前方にカメラを備えており、前方の交通状況をセンシング。夜間走行時に機能をオンにしておくと、対向車の接近に合わせてヘッドライトの配光を自動調整してくれる。
つまりは、対向車の接近に合わせて乗り手がハイビームとロービームをいちいち切り替えなくて済むという機能だ。配光の具合は対向車の位置やカーブの具合などで色々あるようだが、実際に運転していて感じるのは、①ロービーム、②低めのハイビーム、③ハイビームの3つの切り替わり。
スクリーン下部に取り付けられているのがマトリクスLEDヘッドランプのためのカメラ。ヘッドライトの切り替えだけでなく別の機能にも転用できそうであり、当然研究開発も進んでいることだろう。
まず、マトリクスLEDヘッドランプをオンにしても、街灯のある明るい市街地など走る場合にはメーターに「市街地」のイラストが表示され、ヘッドライトは①ロービームのままとなる。
次に街灯がほぼないような暗い道に差し掛かると、③ハイビームに自動で切り替わる。この③ハイビームは、道路表示看板が反射するくらい高い位置を照らし出す、いわゆるハイビームなのだが、これがなかなか強力で非常に遠くまで明るく照らし出す。
その状況でヘッドライトを点けた対向車が現れたり、前の車に追いついたりすると、即座に②低めのハイビームに切り替わる。メーターのハイビームインジケーターは点灯し続けているのだが、明らかにヘッドライトの配光が下目に変わって相手の眩惑を防いでいることが運転していてよくわかる。
マトリクスLEDヘッドランプのシステムをオンにしておけば、夜間走行時に対向車や先行車に合わせて自動でヘッドライトの向きが切り替わる。
ちなみにヘッドライトの切り替わりのタイミングは「Slow」、「Middle」、「Fast」の3種類から選べ、また国によって走行する車線が右か左かが選べるようになっている。
実際に使ってみた印象は、普段は「Middle」にしておけば過不足ない感じ。逆に「Fast」だと連続して対向車が現れるような場合にやや煩雑に切り替えが行われる感じだった。ちなみにこのマトリクスLEDヘッドランプは、100%の確率ではないが自転車のような弱い光にも反応するようだ。
テスト中、夜の雨という願ってもない好条件に見舞われたので、いそいそとマトリクスLEDヘッドランプの動作状況を確認しに行く。てっきり多少は不具合が出るのでは? なんて期待していたのだが、見事に雨の中でもしっかり反応してくれた。この手のカメラによるセンシングは視界を妨げる雨のような状況に弱いはずだが、ヤマハのカメラから得られる情報はかなり正確そうなことが伺える。今後、このカメラから得られる情報によって、バイクがどんな進化を遂げるのか非常に楽しみなところだ。
ライディングポジション
従来型がLo:820/Hi835㎜だったのに対し新型は25㎜アップしたが、脚をまっすぐに下ろすことができるためか足着き性はむしろいい。172cmの筆者の場合Hi/Loどちらとも母指球で支えることができた。ただポジションは高速走行、ワインディングともにHiの方がハンドルの押さえ込みが効き、フロント荷重のコントロールもしやすいと感じた。
標準シート高(845mm)。
シート高を上げた状態(860mm)。
足着き比較(左がシート高845mm、右が860mmの状態)。
トレーサー9 GT+ Y-AMTのスタイリング&主要諸元
主要諸元■全長2175 全幅900 全高1440 軸距1500 シート高845-860(各mm) 車重232kg(装備) ■水冷4スト並列3気筒DOHC4バルブ 888cc 120ps/10000rpm 9.5kg-m/7000rpm 変速機形式6段リターン 燃料タンク容量19ℓ ■ブレーキF=Wディスク R=ディスク ■タイヤF=120/70ZR17 R=180/55ZR17
●価格:198万円 ●カラーリング:ブラックメタリック X、ダークパープリッシュブルーメタリック
モデルチェンジの細部解説は以下リンクへ↓
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【TESTER: 谷田貝 洋暁】
『初心者向けバイク雑誌の編集長を経てフリーランス化したライターで二輪各媒体に寄稿した試乗記事は1500稿を数える。無理/無茶/無謀の3ない運動を信条としており、「読者はソコが知りたい!」をキラーワードに際どい企画をYM編集部に迫る。今回のテストでトレーサー9 GT+Y-AMTの快適性にド肝を抜かれたらしく、“コイツで都内-北海道を自走往復してそのラクさを検証してみたい!”などとほざいている。
※本記事はYAMAHA[Y’S GEAR]が提供したもので、一部プロモーション要素を含みます。※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。