佐藤寿宏のレース通信

全日本ロードレースで、タイトル争いの行方を左右するアクシデントが発生!

MotoGP™もいいですが、全日本ロードレースも熱いバトルが繰り広げられています。先日(9月1日)、岡山国際サーキットで行われたシリーズ第6戦J-GP3クラスでは、最終ラップに今シーズンのタイトル争いの行方を左右するアクシデントが発生しました。たまたま、その場面を激写してしまったもので……。これは書かなければと、遅ればせながらペンを取った次第でございます。

勝負に行ったライダーと、回避すべきとカンが働いたライダーと

タイトルカットの写真は、最終ラップのレッドマンコーナー、通称ダブルヘアピン一個目の進入で起きたもので、事実上、最後の勝負どころとも言えるポイントなんです。トップを走る鈴木大空翔(これでタクトと読む)のインに村瀬健琉(タケル)がブレーキング勝負に行き、フロントが切れ込み転倒。これにタクトも巻き込まれ両者リタイア。3番手を走っていた長谷川聖(ショウと読む。ヒジリじゃないので注意!)が今シーズン3勝目を挙げ、細谷翼が2位、成田彬人が3位に入り全日本初表彰台という結果になったのでした。

今シーズンのJ-GP3クラスは、19歳の長谷川と間もなく17歳の誕生日を迎えるタクトがチャンピオン争いを繰り広げてきました。シーズン前半戦は、マシントラブルに悩まされながらも2勝を挙げていた長谷川。これを1ポイント差で上回りタクトが暫定ランキングトップでシーズンを折り返していました。タクトは、本人もスロースターターと語るように、予選までは、とてもトップ争いに加わるとは思えないタイムしか出ていないにも関わらず、レースになると予選タイムを上回る速さを見せていました。

今回の岡山ラウンドは、長谷川が事前テストから2番手以下を1秒以上引き離す速さを見せており、決勝朝のウォームアップ走行まで、全セッションでトップタイムをマークし、レースも独走で優勝するのでは、というのが大方の予想でした。さすがのタクトも今回は、トップ争いに加わるのは、難しいだろうと思われていました。

それが蓋を開けてみればスタートをうまく決めるとオープニングラップを、いきなりトップで戻って来るからビックリ! これに成田、タケル、高杉奈緒子、長谷川、細谷と続きトップグループを形成。ここから高杉が遅れトップグループは5台に絞られます。

序盤は、雨がパラついており長谷川は冷静に状況を見ていました。「前を走って、いきなり雨が降って転倒ということも考えられましたし、アベレージスピードは自分が持っていたので、逃げられる心配もありませんでした。すぐに前に出て、逃げられるか試してみようと思ったのですが、雨が少し強くなっていたのでリスクは避けたかったですね」と長谷川。一方、長谷川を前に出すと逃げられてしまうと思っていたタケルは、「とにかく積極的に前に出て逃げられないようにしていました。予選ほど差はなかったですし、マシンのスピードも互角だったので最後に勝負できればと思っていました」と、こちらも冷静に周回を重ねていました。長谷川とタケルが抜け出し、一騎打ちのトップ争いを繰り広げていましたが、レースも残り3周というところで、後方につけていたタクトと成田と細谷が追いつき、再びトップグループは、5台にふくれ上がります。タクトは、追いついた勢いのまま一気にトップに出てレースを引っ張って行きます。そして運命の最終ラップにタクト、タケル、長谷川の順で入って行きます。1コーナーでタケルがタクトをかわしてトップに立ちますが、バックストレートでタクトが再びトップに立ちます。この直後のヘアピンで長谷川は、タケルをかわせそうでしたが、その後に何かが起こることを感じ、あえて引いたと言います。

「昔から勝つときは落ち着いているというか周りが見えているというか客観的にレースを見ることができるのですが、最終ラップにヘアピンでは、リスクを回避するカンが働きました」と長谷川。

その直後、前述の通りアクシデントは起こってしまいます。

「レース後に多くの方に“インを閉めていれば”と言われたのですが、ボクなりにレイトブレーキングをしていて、クロスラインをかけようかと思っていました。まさか転ぶとは思っていなかったですからね。残念ですけれど、これもレース。故意ではないですし、完全なレーシングアクシデントですから」とサラッと言っていましたが、あのまま勝っていたらチャンピオン争いもリードできていましたからね。大きな出来事でした。そして、その張本人となったタケルは「実は5周目辺りからフロントのグリップが厳しくなっていました。レースのラップタイムも速かったので“(タイヤが)耐えられるかな?”と思いながらインに入って行きましたが、勝利が手に届くところにあれば勝負するしかないと思っていました。転倒に巻き込んでしまったタクト選手には申し訳ない気持ちです」とコメント。

トップグループに5台もいたのは意外だったと言う長谷川。「今回のレースは速く走らせるための技術もありましたけれど、メンタル的なレースでした」とウイナーとなった長谷川。

レベルの低下がささやかれている全日本J-GP3クラスですが、近い将来が楽しみなライダーも出て来ています。残り2戦となった全日本ロードレース。次回は、10月5日(土)・6日(日)大分県・オートポリスでありますよー。JSB1000クラスは、土曜日にレース1がありますし、今回紹介したJ-GP3、ラストイヤーのJ-GP2、激戦区のST600、併催のMFJ CUP JP250と盛りだくさん。ぜひ観戦におでかけくださいな。

関連する記事/リンク

関連記事

'93年以来、26年ぶりに鈴鹿8耐優勝を遂げたカワサキ。そのクライマックスは、劇的と呼ぶにもあまりに劇的だった。ファイナルラップでカワサキは転倒。赤旗のまま終わった決勝レース。いったんはヤマハの勝利と[…]

関連記事

今年はカワサキワークスが26年振りの優勝を飾り沸きに沸いた鈴鹿8耐だったが、前日開催のST600マシンによる4時間耐久レースは、台風直撃からの赤旗途中終了という展開で荒れに荒れた。クラス優勝を目指して[…]

関連記事

鈴鹿サーキットに青木拓磨が帰ってきた……! 1998年のテスト中の事故により下半身不随の後遺症を負ってしまった拓磨は、その後もレンタルバイクによる耐久レース“レン耐”を主宰するなどバイク業界に貢献、ま[…]