嵐を呼んだ2019鈴鹿4耐、インサイドレポート

女子ペアがホンダCBR600RRで鈴鹿4時間耐久レースに挑み、3位表彰台を獲得!

今年はカワサキワークスが26年振りの優勝を飾り沸きに沸いた鈴鹿8耐だったが、前日開催のST600マシンによる4時間耐久レースは、台風直撃からの赤旗途中終了という展開で荒れに荒れた。クラス優勝を目指していたGOSHI Racingの女性ペア・片山千彩都選手&小椋華恋選手にとっては、追い上げ中の無念の幕切れとなってしまったが、それでも見事に3位表彰台を獲得。ここでは、彼女らのインサイドレポートをお届けしたい。

予選は50台中6位・クラス2位で通過

4耐の予選は、腕章カラーの違いにより組み分けされ、各ライダーが20分ずつタイムアタック。2人のベストタイムを合算割りしたアベレージタイムで決められる。まずは、イエロー腕章の小椋華恋選手(以降、カレン選手)が計測開始。アメリカのシリーズレースにスポット参戦中のカレン選手はラグナセカ帰りの参加で、事前走行は5月の九州テストの1回のみ。ほぼ、ぶっつけ本番に近い状態で鈴鹿4耐ウイークに突入した。それでも、GOSHI RacingのCBR600RRのフィールを探りつつ、これまでの4耐参戦(YZF-R6)経験を生かし、着実に上位タイムを刻む。最終的にはコンスタントな走りで2分22秒を記録し11番手につける。

「ST600 のマシンは(250ccに比べ)立ち上がりの加速が強烈で、アクセルを開けた瞬間に“ガンっ”て来ます。スピードが出るのが大好きなので、ST600 に乗ると JSB1000 にも乗りたくなりますね。“怖い”とかはないので、まだまだ行けるかなって思っています」とマシンの感想を力強く語ってくれたカレン選手の走り。(写真:三家香奈子)

続いて、GOSHI Racingチームの正ライダーであるブルー腕章の片山千彩都選手(以降、チサト選手)がアタック開始。バイクメーカーの技術者を目指す学生ライダーの彼女は、車体まわりのノウハウに精通し、メカと共にサスペンションセッティングを煮詰めながらの走行となった。600ccでは今回が初レースとなるものの、最終的には2分19秒台までタイムを削り周囲を驚かす。2人の合算割りタイムは2分21秒036となり、総合6位(クラス2位!)と素晴らしい予選結果となった。

元モトGPライダーである中野真矢氏の56 designチーム時にライディングフォームが進化したというチサト選手の豪快な走り。「ST600 は車重があるので、キチンと止めてから曲げるみたいなイメージがあったんですけど、実際に乗ってみると JP250 のようにブレーキングで突っ込んでから、“パタッ”と寝かしてみたいな乗り方が意外と出来るんです」 と笑顔のチサト選手。ST600初心者ながら、見事に2分20秒切りを果たす。(写真:三家香奈子)

 予選走行後にカレン選手は「アタック走行というより、バイクに少しでも慣れるというように走っていました。だいぶ ST600 マシンの感覚もつかめてきて、決勝に向けた良い下準備ができました」とコメント。 一方、チサト選手は「18秒台を目指していたので物足りない部分があるんですけど、最後にセッティングの方向性がわかったので、明日はクラス優勝を目指してがんばります!」と明るく答えてくれた。

4耐ポールポジションは注目の若手ペア、綿貫舞空/ムハマド・ファェロズィ組(YAMAHAインドネシア&伊藤レーシング)が獲得。ムハマド選手が頭1つ飛び出す脅威の2分15秒917を刻み、綿貫選手も2分17秒703と速い。それがなんと、カレン/チサト組と同じナショナルクラス(国内ライセンスのライダーのみで構成されるクラス)で走るので、今年の4耐最速チームが彼女らの最大の壁となることに。(写真:栗原テイジ)
インターナショナルクラスの予選1位(総合2位)は、強豪タイ・ホンダのムクラダ・サラプーチ/ピヤワット・パテゥンヨット組(A.P.HONDAレーシング・タイランド)が獲得。2人共、17秒台前半を刻む。(写真:栗原テイジ)

不完全燃焼ながらクラス3位表彰台に登る

 迎えた決戦の土曜日、午前7時30分頃に『三重県南部に台風が上陸した』と気象情報が流れたものの、鈴鹿サーキットは「4時間耐久レース決勝を予定通り午前9時スタートで開催します」とアナウンス。中止も予想された空気感の中、片付けられていた工具類やスペアパーツなどを慌てて準備する一幕もあるなど、各チームがまるで緊急招集されたかのような慌しいスタート進行となる。

GOSHI RACINGの第1ライダーはチサト選手。スタート直前まで原口チーフメカと車体セッティングの方向性を確認する。台風の中、チームとしての走りの指示は、「転ばないように」の1点のみ。(写真:栗原テイジ)

 雨風が強まる中、ルマン式スタートによって耐久レ ースが始まった。第1ライダーのチサト選手は、スタート時にエアバッグ機能を車体側に接続するひと手間があるため、どうしてもスタートは出遅れる。それでも、予定通り走りで挽回し、4位で1回目のピットインへ。ウエットレースでのGOSHI Racingが立てた作戦は、22周(約1時間)交代の3回ピットというルーティン。最初のスティントの燃料残量は約1.2Lと、あと1周したらどこかで止まっていたほどの計算し尽くされた攻めだった。

ルマン式スタート時のエアバッグ接続のため少し出遅れたチサト選手だったが、総合11番手から追い上げを開始。 むずかしいコンディションの中、2分33秒台でコンスタントに走り続け、4位まで挽回したところでカレン選手にバトンタッチする。(写真:佐藤寿宏)
チサト選手の挽回走り。巻き上げる水しぶきの量が台風レースの過酷さを物語る。(写真:佐藤寿宏)

スタート直後は下馬評の高いアジア勢が中心でトップグループを形成するも、ポールポジションスタートだったゼッケン#36のインドネシア伊藤レーシングを含めて転倒マシンが続出。カレン選手にスイッチして10周を走った頃には、スタート時から降り続けていた雨が一時的に止み、今度は強風による影響でコース上の一部が乾き始める展開に。減り続けるレインタイヤをマネジメントしながらの走行となったが、海外の滑りやすい路面でのレース経験が豊富なカレン選手は、6~7位をキープする落ち着いた走りを披露。予定通りの22周を走破し、ピットインする頃には再び4位まで順位を戻していた。

転倒が相次ぐ荒れたレースの中、減り始めていたタイヤでフルウエット~ハーフウエットの難しいコンディションをきっちり走り切ったカレン選手。(写真:栗原テイジ)

45周目に2回目のピットインの指示をしたGOSHI Racing は、タイヤ交換&給油を行い、ライダーをカレン選手からチサト選手にスイッチ。 来年の8耐参戦を目指しているGOSHI Racingにとって課題であったピット作業も無難にこなし、 後はチサト選手の追い上げに期待することとなった。 レースは、アジアロードレース選手権のトップチームである#149 A.P.HONDAレーシング・タイランドが2番手に50秒近い差をつけ独走状態を創り出していた。

トップ独走となった#149 A.P.HONDAレーシング・タイランドの走り。ヘッドライトは威圧感のある8灯画ステッカーだ。(写真:佐藤寿宏)

スタートから2時間40分経過する頃、迫り来る台風がライダー達に牙をむき始める。 西コースでの雨脚が強くなり、2番手を走行していた#69グリーンクラブ能塚が130Rで転倒。 更に折り重なるようにもう1台転倒したバイクが突っ込むような危険な状況が発生し、即座に赤旗提示に。各車ピットインしてオフィシャルの指示を待つも、台風接近による危険が切迫していることと、レギュレーションによるレース成立条件に達していたため、結局はそのまま『レース終了』となった。結果、A.P.HONDAレーシング・タイランドが悲願の4耐初優勝を達成した。

予選2位から悲願の4耐初優勝を果たした#149 A.P.HONDAレーシング・タイランド。中央右のムクラダ・サラプーチ選手も女性ライダーで、AP250でも1勝をマークしている注目選手だ。おめでとう! (写真:佐藤寿宏)
一方、追い上げ中だったGOSHI Racingのピットは静まり返り、逃した勝利に2人のライダーは悔し涙を光らせた。(写真:佐藤寿宏)

赤旗中断からのレース終了……タイプの異なる2人だから結果に結びついた

GOSHI Racingはチサト選手が得意とする雨の追い上げを開始し、31秒台までペースアップ。ナショナルクラスの逆転優勝を目指していた矢先での赤旗終了となったため、総合5位、ナショナルクラス3位という結果に留まった。表彰台を獲得したものの、追い上げ中だったチサト選手自身や、最後のスティントを走れないまま終えたカレン選手、クラス優勝を全員で目指していたチームスタッフにとっては、本当に悔しい結末となってしまった。 レース終了後は悔しさを隠しきれない表情を見せながらも、気持ちを切り替え、ひとまず笑顔で表彰台に上がった2人だった。

カレン選手(右):「今年の4耐は“マスト・クラス優勝”と思ってたので3位でも悔しい。でも表彰台に登れると登れないでは大違いなので、クラス3位に入って良かったです」  チサト選手(左):「悔しいです。2回目のスティントで、だいぶマシンに乗れてきたなっていうときに赤旗だったので……」 「ST600に乗った後は、JP250がもう軽すぎて余裕になるので、今年後半戦のロードレースは全戦全勝を目指してがんばります!」 (写真:栗原テイジ)
【GOSHI Racing・永田監督インタビュー】九州のテストで小椋の走りを見た時に女性版”バリバリ伝説”をイメージしました。片山が”巨摩”、小椋が”聖”ですね(知ってる人は知っている^^)。似たもの同士の2人がお互い目を三角にしていたら、この結果は無かったと思います。2人が役割をしっかりとやり遂げた結果です。小椋がアメリカのレースに行ってる時に、LINEでこの”作戦”というか、役割について話をしました。走り込みが出来ていない小椋に片山より速く走れ! 同じタイムで走れ! なんて言えませんから。小椋の経験値と、片山のアグレッシブなライディング。素材が出来上がってましたので、何も言う事はありません。後は「転ぶなよ!」だけです。レース中、私は消火器しか持っていませんでした(笑)。しかし、マシンのセットには、表には出せない葛藤があった様で、今回の600については、片山・小椋・原口(メカ)の3人でやるように指示してました。結果、予選の順位となった訳ですが、全てが同じフィーリングでは無いので、そこを合わせ込んだ原口メカの勝利です。チームとしては、初の鈴鹿4耐参戦。全員が同じ目標に向かっていました。だからこそ意見が割れる。確かにウィーク中何度も険悪な雰囲気になったりもしていましたが、そこは皆大人。次の日にはケロっとしていましたね。 色々ありましたが、最後は笑って終われました。来年の鈴鹿8耐挑戦に繋がる4耐だったと実感しております。(写真:真弓悟史)

(取材:栗原テイジ 写真:栗原テイジ/佐藤寿宏/真弓悟史/三家香奈子)

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