先走らない、感性に寄り添うコーナリング

【そうきたか! のアメリカンハンドリング】インディアンモーターサイクル FTR1200S 試乗インプレッション

INDIAN MOTORCYCLE FTR1200S

カスタムシーンやフラットトラックレースで存在感を示しているインディアンが、ズバリFTRの名を冠した市販車を登場させた。トラッカーカスタムがそのまま公道に飛び出したようなスタイリングに1200ccのVツインエンジンを搭載したマシンは、優雅とすら言える“アメリカンハンドリング”を実現していた。

TEXT:Toshihiro WAKAYAMA

寛容にしてワイドレンジ、無類のオールマイティさ

インディアンはワークスマシンFTR750を引っ提げ、’17年、64年ぶりにフラットトラックレースに復帰し、いきなり個人、メーカーの両タイトルを獲得。シーズン終了後のミラノショーEICMAでは、そのFTR750とプロトタイプのFTR1200カスタムが出展され、一気に市販トラッカーへの期待が高まったものだ。

ただ、正直を言うと、そのとき僕は少々醒めた目で見ていた。上映されたプロモーションビデオの中のダートでの走りが、いささか重量車を思わせたからだ。そりゃそうである。大柄なスカウトのエンジンを積んでいるのだから無理もない。しかも、スイングアームが短いうえに、ドライブスプロケットとピボット間の距離も大きいのか、スイングアームの角度変化の挙動への影響が大きく、途切れたトラクションの回復も遅いと見て取れた。

でも、そこはさすがのインディアンである。それから1年、昨秋のケルンショーINTERMOTに姿を現した市販仕様のFTR1200は、見事なまでに変貌を遂げていたのだ。

右のワークスマシンFTR750は53°狭角Vツインを搭載。2016年1月に開発が始まり、翌2017年には無敵の強さを誇った。そのFTR750をモチーフに市販化されたのが、左のFTR1200(写真は上級型S)だ。こちらも2016年3月には開発に着手された。

ビッグVツインスポーツに相応しい車体剛性を得るため、フレームをトラスタイプとし、エンジンを剛性部材に有効利用すべく、マウント点をエンジン前下部から前シリンダ部に移動。ホイールベース短縮と、スプロケット、ピボット間短縮のため、スイングアームピボットはクランクケース支持とされた。さらに、燃料タンクをシート下部に掛けて配置し、マスの集中化と低重心化を図って、重量車然とした挙動にも対処してきたのだ。

INDIAN MOTORCYCLE FTR1200S
灯火類は全てLED式。ユニークなヘッドライトの上側周囲はデイライト、上側の縦型×3がロービーム、ハイビームでは下側も全てが点灯。

とは言え、スカウト用からいくら軽量コンパクト化されようと、1200cc級のVツインは、純粋なフラットトラッカーには重くてデカい。だけど、1200cc級のトルクはストリートスポーツにとって魅力的のはず。

そう考えると、このFTR1200がいかなるものであるのか、自ずと見えてくる。そう、根底にあるのはビッグVツインネイキッドであっても、随所にフラットトラッカーのエッセンスが散りばめられているというわけだ。

エモーショナルな豊かなトルクを楽しみながら、身近な存在として使える一方、やや長脚の前後サスや19インチのフロントを生かしてワイドレンジに楽しめて、トラッカー譲りのスリムさを利して機敏に扱えると期待させたのであった。

ハンドルはワイドで、高くは感じないが上体は起き、オフロード車に近いものを感じさせる。足着き性はアドベンチャー並みと言ったところだが、足着き時の不安は少ない。

さて、身長161cmの僕にとって、こいつの唯一の欠点は足着き性かもしれない。ただ、ビッグアドベンチャーとしては良い部類と言ったところでも、シート下燃料タンクの恩恵か、妙に低重心感による落ち着きがあって、不安がない。それに、僕でも跨ったままサイドスタンドを出し入れできるから、乗り降りでのストレスもない。

軽いクラッチレバーを握り、上質なタッチのシフトペダルを踏みこんで発進。ゴツゴツ感のないエンジンマナーにホッとする。粘りもあって、これなら初心者にもフレンドリーなはずだ。

2000rpm以下でゆっくり流せる一方、3500rpm辺りのトルクの盛り上がりで、コーナーをスポーティに楽しめる。さらに6000rpm付近のトルクピーク域でのパンチのある走りも魅力的だ。レッドゾーンは8000rpmからと低めで、公道向きの高性能を実感できる。

INDIAN MOTORCYCLE FTR1200S/Sレースレプリカ

コーナリングは優雅ですらあった

ハンドリングに関しては、まず車体の剛性感が好印象である。フレームの一部に固さとか柔らかさがなく、全体がしなやかな感じで、そのことが高速安定性や素直なコーナリングにも貢献しているかのようである。

そして、前後150mmというストロークが大きめのサスペンションが、路面の不整をいなし、前19、後18インチの大径ホイールのおかげで、コーナリングは優雅ですらある。この伝統的なホイール径の組み合わせは、実にバランスが良く、ライダーに先走りすることなく、感性に合った旋回性を発揮してくれる。これぞインディンアンの提唱するアメリカンハンドリングといったところだろうか。

また、燃料タンク部が小振りで、体重移動や取り回しを阻害せず、ハンドル切れ角も多くのネイキッドモデルよりも大きく、機動性にも優れる。

FTR1200への試乗を通じ、根底にあるビッグVツインとしての魅力に加え、スポーツ性と無類のワイドレンジぶりに気付かされたのだった。

INDIAN MOTORCYCLE FTR1200S
INDIAN MOTORCYCLE FTR1200S/Sレースレプリカ

まとめ:これだけワイドレンジで使えて楽しめるのが素晴らしい

もし、このFTR1200に二の足を踏むとしたら、大きな理由の一つは足着き性だろう。ただ、これまでアドベンチャー系を避けてきた人でも、足着き時の安心感はあるので一度、跨ってみるべきだ。また、価格面でもワイドレンジに使えて楽しめることを考えれば納得できるかも。燃料タンク容量は13Lと大きくはないが、航続200kmは可能で決定的な問題にならない。

楽しさを中心に高得点。コスパ志向でないのは見た目にも明らかだろう。

マシン解説:FTR1200S/Sレースレプリカ

試乗したのはFTR1200SとSレースレプリカ(STDは未テスト)。Sレースレプリカはアクラポヴィッチ製マフラーを装備する。

INDIAN MOTORCYCLE FTR1200S
【INDIAN MOTORCYCLE FTR1200S 2019】主要諸元■全長2286 全幅850 全高1297 軸距1524 シート高840(各mm) 装備重量235[230]kg■水冷4ストV型2気筒 DOHC4バルブ 1203cc 最高出力120ps/8250rpm 最大トルク11.7kg-m/6000rpm 変速機6段 燃料タンク容量12.9L■ブレーキF=Wディスク R=ディスク タイヤサイズF=120/70R19 R=150/70R18 ●価格:S(写真)=209万9000円/Sレースレプリカ=236万4000円[189万9000円] ※[ ]内はSTD

市販型は初期プラットホームから大変貌

このストリップモデルを見ると、試乗記本文にある’17年のショーモデルから市販型への変更内容がよく分かる。フレームをトラスタイプとし、エンジンを小型化、ロングスイングアーム化され、燃料タンクのシート下配置によって低重心化されていることも窺える。

各部のディテール

上級型Sのメーターパネルは4.3インチのLCD式タッチスクリーン。ブルートゥース表示に加え、表示モードは回転計、速度計、諸計器表示を選択できる。写真は8000rpmからがレッドゾーンの回転計表示メインの状態。
ハンドルバーはプロテーパー製のアルミテーパータイプ。ハンドルスイッチでモード切替やクルージングコントロールの設定もできる。
エンジンはスカウト用をベースに3mmボアアップするだけでなく、懸架点の変更や後部の短縮など大きく手が入る。
燃料タンクはカバーの後部からシート下に掛けて設置され、カバー前部にはエアボックスが収まる。これによって、低重心化やマスの集中化、タンク部の小型化を実現。
前後サスユニットはザックス製で、ストロークは150mm。フロントフォークはφ43mm径の倒立式で、リヤサスはリンクレス式。上級型Sは前後フルアジャスタブルだ。前キャリパーにはブレンボM4.32のモノブロック・ラジアルマウント式が奢られる。

4つのアクセサリーパッケージ

【トラッカー】ワークスFTR750にスタイリングを近づけた仕様で、アップ出しマフラーや専用の外装品がトラッカーらしさを演出。
【ラリー】マフラーがアップで、スポークホイールを履く。タンクカバーや前フェンダーも専用品で、ラフロード性能を高める。
【スポーツ】標準仕様に近いが(マフラーは試乗車と同じアクラボビッチ)、外装品がカーボン製で、軽量化が図られる。
【ツアー】サイドバッグ、タンクバック、リヤキャリアに加え、ウィンドスクリーンなどツーリング用の装備も充実している。

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