カスタムシーンやフラットトラックレースで存在感を示しているインディアンが、ズバリFTRの名を冠した市販車を登場させた。トラッカーカスタムがそのまま公道に飛び出したようなスタイリングに1200ccのVツインエンジンを搭載したマシンは、優雅とすら言える“アメリカンハンドリング”を実現していた。
TEXT:Toshihiro WAKAYAMA
寛容にしてワイドレンジ、無類のオールマイティさ
インディアンはワークスマシンFTR750を引っ提げ、’17年、64年ぶりにフラットトラックレースに復帰し、いきなり個人、メーカーの両タイトルを獲得。シーズン終了後のミラノショーEICMAでは、そのFTR750とプロトタイプのFTR1200カスタムが出展され、一気に市販トラッカーへの期待が高まったものだ。
ただ、正直を言うと、そのとき僕は少々醒めた目で見ていた。上映されたプロモーションビデオの中のダートでの走りが、いささか重量車を思わせたからだ。そりゃそうである。大柄なスカウトのエンジンを積んでいるのだから無理もない。しかも、スイングアームが短いうえに、ドライブスプロケットとピボット間の距離も大きいのか、スイングアームの角度変化の挙動への影響が大きく、途切れたトラクションの回復も遅いと見て取れた。
でも、そこはさすがのインディアンである。それから1年、昨秋のケルンショーINTERMOTに姿を現した市販仕様のFTR1200は、見事なまでに変貌を遂げていたのだ。
ビッグVツインスポーツに相応しい車体剛性を得るため、フレームをトラスタイプとし、エンジンを剛性部材に有効利用すべく、マウント点をエンジン前下部から前シリンダ部に移動。ホイールベース短縮と、スプロケット、ピボット間短縮のため、スイングアームピボットはクランクケース支持とされた。さらに、燃料タンクをシート下部に掛けて配置し、マスの集中化と低重心化を図って、重量車然とした挙動にも対処してきたのだ。
とは言え、スカウト用からいくら軽量コンパクト化されようと、1200cc級のVツインは、純粋なフラットトラッカーには重くてデカい。だけど、1200cc級のトルクはストリートスポーツにとって魅力的のはず。
そう考えると、このFTR1200がいかなるものであるのか、自ずと見えてくる。そう、根底にあるのはビッグVツインネイキッドであっても、随所にフラットトラッカーのエッセンスが散りばめられているというわけだ。
エモーショナルな豊かなトルクを楽しみながら、身近な存在として使える一方、やや長脚の前後サスや19インチのフロントを生かしてワイドレンジに楽しめて、トラッカー譲りのスリムさを利して機敏に扱えると期待させたのであった。
さて、身長161cmの僕にとって、こいつの唯一の欠点は足着き性かもしれない。ただ、ビッグアドベンチャーとしては良い部類と言ったところでも、シート下燃料タンクの恩恵か、妙に低重心感による落ち着きがあって、不安がない。それに、僕でも跨ったままサイドスタンドを出し入れできるから、乗り降りでのストレスもない。
軽いクラッチレバーを握り、上質なタッチのシフトペダルを踏みこんで発進。ゴツゴツ感のないエンジンマナーにホッとする。粘りもあって、これなら初心者にもフレンドリーなはずだ。
2000rpm以下でゆっくり流せる一方、3500rpm辺りのトルクの盛り上がりで、コーナーをスポーティに楽しめる。さらに6000rpm付近のトルクピーク域でのパンチのある走りも魅力的だ。レッドゾーンは8000rpmからと低めで、公道向きの高性能を実感できる。
コーナリングは優雅ですらあった
ハンドリングに関しては、まず車体の剛性感が好印象である。フレームの一部に固さとか柔らかさがなく、全体がしなやかな感じで、そのことが高速安定性や素直なコーナリングにも貢献しているかのようである。
そして、前後150mmというストロークが大きめのサスペンションが、路面の不整をいなし、前19、後18インチの大径ホイールのおかげで、コーナリングは優雅ですらある。この伝統的なホイール径の組み合わせは、実にバランスが良く、ライダーに先走りすることなく、感性に合った旋回性を発揮してくれる。これぞインディンアンの提唱するアメリカンハンドリングといったところだろうか。
また、燃料タンク部が小振りで、体重移動や取り回しを阻害せず、ハンドル切れ角も多くのネイキッドモデルよりも大きく、機動性にも優れる。
FTR1200への試乗を通じ、根底にあるビッグVツインとしての魅力に加え、スポーツ性と無類のワイドレンジぶりに気付かされたのだった。
まとめ:これだけワイドレンジで使えて楽しめるのが素晴らしい
もし、このFTR1200に二の足を踏むとしたら、大きな理由の一つは足着き性だろう。ただ、これまでアドベンチャー系を避けてきた人でも、足着き時の安心感はあるので一度、跨ってみるべきだ。また、価格面でもワイドレンジに使えて楽しめることを考えれば納得できるかも。燃料タンク容量は13Lと大きくはないが、航続200kmは可能で決定的な問題にならない。
マシン解説:FTR1200S/Sレースレプリカ
試乗したのはFTR1200SとSレースレプリカ(STDは未テスト)。Sレースレプリカはアクラポヴィッチ製マフラーを装備する。
市販型は初期プラットホームから大変貌
各部のディテール
4つのアクセサリーパッケージ
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