エンジンから車体まで、’19年型で初めて完全に生まれ変わったゲルマンSSに早速試乗! ポルトガルはエストリルサーキットを舞台に、ドライ、ウェットと目まぐるしく変わる状況の中、全開で207psを堪能してきた。
まるでターボ! シフトカムの破壊力は圧倒的!
「エンジンがメチャクチャ速い!」 新型の率直な第一印象はこの一言に尽きる。――試乗したのは今回から新設定された上級仕様のMパッケージ。最高出力は従来比で8ps増の207ps、車重は14.5kg減の193.5kgという途方もないスペックを誇る。
走行一本目の路面はほぼドライ。最終コーナーから全開で直線を駆け抜け、冒頭の感想が思わず漏れ出た。9000回転を境にバルブタイミングとリフト量が変化するシフトカムが作動するのだが、その後の加速がとにかく圧巻。特に1万2000回転からは、ターボのように爆発の“一発一発”が車体を前に押し出し、1万4000回転まで持続する。吠えるようなサウンドも快感で、この領域が最高に楽しい!
現在のリッタースーパースポーツは、200ps級の怪物が揃う。直接比較したわけではないが、新型S1000RRの加速感は特に際立って感じられる。
しかも驚くべきことにアクセルの開け始めにギクシャク感がない。コーナーの立ち上がりでは徐々にパワーが出て、車体を起こしたタイミングでキッチリ盛り上がる。通常は回転域ごとにパワーの過不足があるものだが、S1000RRは全域で扱いやすく従順。高速コーナーでわざと2速に落としても高い回転で平然と走れてしまうほどだ。
ハンドリングもごく自然。新型は軸距を伸ばし、キャスターを立てて回頭性の向上を狙った。この手法だとトリッキーな挙動になりがちだが、安心感に溢れる。特にリヤの接地感が素晴らしく、高い旋回力を維持しつつ、パワーを路面にしっかり伝えてくれる。
職人気質の熟成で高次元のトータルバランスを達成
素性の良さもさることながら、電子制御の完成度にも感心した。走行2、3本目は完全にウエットとなり、レインタイヤのブリヂストン製W01を履いて、かなりのペースで攻めた。それでもハッキリ言って「何も起きない」。
メーターでトラコンの作動ランプが点いても、パワーを間引いた感覚は皆無。しかも雨の中、高回転で最大限の加速をしているのにリヤが滑ることなく、フロントは若干浮き気味になる程度だ。コーナーでもグリップ走行しながら不安なく立ち上がることができる。
どうにか滑らせてやろうと、コーナーの進入で早めのシフトダウン&リヤロック気味にし、スネーキングさせようとした。しかしウエット路面なのにそれすら起きない。常に安定したままコーナーに進入できるため、落ち着いて深くバンクし、スロットルを開けるだけで何事もなくスムーズにキレイなラインをトレースしてくれる。
よく動く電子制御式セミアクティブサスの恩恵も大きい。低速時はソフトで、ペースを上げると前後のピッチングを適度に抑えて路面に吸い付き、グリップ感を高めくれる。制御も自然で、特にウエットでの安心感には恐れ入った。ABSもキックバックなどの違和感は皆無。旧型のABSはドライでハードブレーキングしてバンクさせると、制動力を逃がしてアンダーステアが出る場面もあったが、新型はレースも問題なさそう。もちろんブレーキ自体の効き味、コントロール性も素晴らしい。従来は強く効き過ぎる側面があったが、新型のHAYES製キャリパーは初期からタッチがやさしい。
また、クイックシフターも絶品。ほぼクラッチを握ることなく、上下ともシフトがキレイに決まる。シフトダウン時のオートブリッピングも自然で、大げさな回転上昇ではなく、リヤを浮かすことなくスッと旋回に移れる。
慣れないサーキットで、しかも雨だとビビリミッターが入るものだが、臆することなく攻めることができた今回の試乗。悪天候だからこそ電制の凄さがより際立つ形となった。しかし、ここまで走りやすいと自分が上手くなった気がする。例え一般ライダーがサーキット走行しても、全てマシンがサポートしてくれるのでは? と思えるほどだ。電脳に関しては初代の’09年モデルからテンコ盛りで登場した本作だが、10年を経て完成の域に至ったと言えよう。
最初はパワーに驚いた新型S1000RRだが、決してそれだけではない。細やかな煮詰めで高度なトータルバランスを追求し、タイムを削るマシンに仕上がっていた。しかもユーザーフレンドリーさが大幅に増している。速くてシビアなのではなく、ライダーは精緻にコントロールしてくれるマシンに身を委ね、積極的にアクセルを開けていけばいい。速さを狙いつつ(実際に途轍もなく速いが)、万人に楽しんでもらおうというBMWの気概をヒシヒシと感じる。しかもパワー感など従来のS1000RRらしさを継承しつつ、操るのが愉快なのだから脱帽だ。
ライバルであるドゥカティのパニガーレV4が新機軸満載で速さを示すのに対し、BMWは派手な飛び道具を使わずに職人気質の煮詰めで対抗してきた。スーパーバイク世界選手権の行方も楽しみだが、私としてはワインディングやツーリングなど日本でストリートの実力を試せる日が待ち遠しい。
DEVICE:視覚的な表示で、詳細にセッティングできる!
新旧S1000RR ライディングポジション比較:身長168cm/体重61kg
ライバル比較:[vs]DUCATI Panigale V4S
ライバル比較:[vs]KAWASAKI Ninja ZX-10RR
マシン解説:外観も中身も大胆刷新! 5代目は入魂の次世代機
’09年に日本車キラーとしてデビュー以来、細やかに熟成を重ねてきたS1000RR。5世代目の’19年型にして初の完全新設計を敢行した。
心臓部は、軽量&コンパクト化を促進しつつ、低中速トルクと高回転パワーを両立するシフトカムを導入。シャーシは、エンジンの周囲をタイトに包むフレックスフレームにより、軽量化とスリム化に成功した。スタイリングも一新。従来の左右非対称顔からシンメトリーとなり、空力性能を向上した、低く構えたフォルムに。4輪でおなじみスポーツ仕様の称号「M」を冠した「Mパッケージ」は、カーボンホイールや軽量バッテリーなどで直4最軽量の193.5kgを達成した上級版だ。
完全新設計で、11kg軽量化!
軽量小型化に加え、8ps増で戦闘力アップ
シフトカムは効果絶大
S1000RR Mパッケージ(STD)■全長2073 全幅848 全高1151 軸距1441 シート高824(各mm) 車重193.5㎏(197㎏)■水冷4スト並列4気筒 DOHC4バルブ 999cc 207ps/13500rpm 11.5kg-m/11000rpm 変速機6段 燃料タンク容量16.5L■キャスター/トレール23.1度/93.9mm ブレーキF=ダブルディスク R=ディスク タイヤサイズF=120/70ZR17 R=190/55ZR17 ●価格:267万7000円(約227万円)
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