第47回マシン・オブ・ザ・イヤー2019

進化した電子制御は「何も起こさない」!

1万2000rpm超から“1発1発”加速する!【2019新型S1000RR試乗インプレッション】

  • 2019/5/28

BMW S1000RR

エンジンから車体まで、’19年型で初めて完全に生まれ変わったゲルマンSSに早速試乗! ポルトガルはエストリルサーキットを舞台に、ドライ、ウェットと目まぐるしく変わる状況の中、全開で207psを堪能してきた。

まるでターボ! シフトカムの破壊力は圧倒的!

「エンジンがメチャクチャ速い!」 新型の率直な第一印象はこの一言に尽きる。――試乗したのは今回から新設定された上級仕様のMパッケージ。最高出力は従来比で8ps増の207ps、車重は14.5kg減の193.5kgという途方もないスペックを誇る。

走行一本目の路面はほぼドライ。最終コーナーから全開で直線を駆け抜け、冒頭の感想が思わず漏れ出た。9000回転を境にバルブタイミングとリフト量が変化するシフトカムが作動するのだが、その後の加速がとにかく圧巻。特に1万2000回転からは、ターボのように爆発の“一発一発”が車体を前に押し出し、1万4000回転まで持続する。吠えるようなサウンドも快感で、この領域が最高に楽しい!

現在のリッタースーパースポーツは、200ps級の怪物が揃う。直接比較したわけではないが、新型S1000RRの加速感は特に際立って感じられる。

しかも驚くべきことにアクセルの開け始めにギクシャク感がない。コーナーの立ち上がりでは徐々にパワーが出て、車体を起こしたタイミングでキッチリ盛り上がる。通常は回転域ごとにパワーの過不足があるものだが、S1000RRは全域で扱いやすく従順。高速コーナーでわざと2速に落としても高い回転で平然と走れてしまうほどだ。

ハンドリングもごく自然。新型は軸距を伸ばし、キャスターを立てて回頭性の向上を狙った。この手法だとトリッキーな挙動になりがちだが、安心感に溢れる。特にリヤの接地感が素晴らしく、高い旋回力を維持しつつ、パワーを路面にしっかり伝えてくれる。

【テストコースはエストリル・サーキット】かつてF1やモトGPが開催されたコース。大西洋岸から数kmに位置し、今回は春の嵐に見舞われる中、国際試乗会が実施された。全長は4182mで、多彩なコーナーが特徴。ホームストレートは約980mだ。

職人気質の熟成で高次元のトータルバランスを達成

素性の良さもさることながら、電子制御の完成度にも感心した。走行2、3本目は完全にウエットとなり、レインタイヤのブリヂストン製W01を履いて、かなりのペースで攻めた。それでもハッキリ言って「何も起きない」。

メーターでトラコンの作動ランプが点いても、パワーを間引いた感覚は皆無。しかも雨の中、高回転で最大限の加速をしているのにリヤが滑ることなく、フロントは若干浮き気味になる程度だ。コーナーでもグリップ走行しながら不安なく立ち上がることができる。

どうにか滑らせてやろうと、コーナーの進入で早めのシフトダウン&リヤロック気味にし、スネーキングさせようとした。しかしウエット路面なのにそれすら起きない。常に安定したままコーナーに進入できるため、落ち着いて深くバンクし、スロットルを開けるだけで何事もなくスムーズにキレイなラインをトレースしてくれる。

よく動く電子制御式セミアクティブサスの恩恵も大きい。低速時はソフトで、ペースを上げると前後のピッチングを適度に抑えて路面に吸い付き、グリップ感を高めくれる。制御も自然で、特にウエットでの安心感には恐れ入った。ABSもキックバックなどの違和感は皆無。旧型のABSはドライでハードブレーキングしてバンクさせると、制動力を逃がしてアンダーステアが出る場面もあったが、新型はレースも問題なさそう。もちろんブレーキ自体の効き味、コントロール性も素晴らしい。従来は強く効き過ぎる側面があったが、新型のHAYES製キャリパーは初期からタッチがやさしい。

BMW S1000RR

BMW S1000RR モータースポーツ(Mパッケージ)●価格:267万7000円/278万7000円(DDC付)

BMW S1000RR

BMW S1000RR レーシングレッド(STD)●価格:227万円/253万6000円(レースパッケージ、DDC付)

また、クイックシフターも絶品。ほぼクラッチを握ることなく、上下ともシフトがキレイに決まる。シフトダウン時のオートブリッピングも自然で、大げさな回転上昇ではなく、リヤを浮かすことなくスッと旋回に移れる。

慣れないサーキットで、しかも雨だとビビリミッターが入るものだが、臆することなく攻めることができた今回の試乗。悪天候だからこそ電制の凄さがより際立つ形となった。しかし、ここまで走りやすいと自分が上手くなった気がする。例え一般ライダーがサーキット走行しても、全てマシンがサポートしてくれるのでは? と思えるほどだ。電脳に関しては初代の’09年モデルからテンコ盛りで登場した本作だが、10年を経て完成の域に至ったと言えよう。

BMW S1000RR

S1000RR×丸山浩

最初はパワーに驚いた新型S1000RRだが、決してそれだけではない。細やかな煮詰めで高度なトータルバランスを追求し、タイムを削るマシンに仕上がっていた。しかもユーザーフレンドリーさが大幅に増している。速くてシビアなのではなく、ライダーは精緻にコントロールしてくれるマシンに身を委ね、積極的にアクセルを開けていけばいい。速さを狙いつつ(実際に途轍もなく速いが)、万人に楽しんでもらおうというBMWの気概をヒシヒシと感じる。しかもパワー感など従来のS1000RRらしさを継承しつつ、操るのが愉快なのだから脱帽だ。

ライバルであるドゥカティのパニガーレV4が新機軸満載で速さを示すのに対し、BMWは派手な飛び道具を使わずに職人気質の煮詰めで対抗してきた。スーパーバイク世界選手権の行方も楽しみだが、私としてはワインディングやツーリングなど日本でストリートの実力を試せる日が待ち遠しい。

DEVICE:視覚的な表示で、詳細にセッティングできる!

BMW S1000RR

走行モードは、「レイン」「ロード」「ダイナミック」「レース」の4種類。さらにオプションの「レースプロ」では、出力特性やDTC(トラコン)、ABS、エンジンブレーキ、オプションのDDC(電サス)など多様な制御を個別に3パターン設定可能。ローンチコントロールとピットレーンリミッターまで備える。視覚的な表示と左手元のホイールで設定は簡単だ。右写真はオプション仕様の「レースプロ」モード。

BMW S1000RR

車両の状態をグラフィカルに表示。水温や電圧など各部の異常も一目瞭然だ。さらには最大バンク角、減速度、平均速度なども記録する。

BMW S1000RR

従来はアナログタコ+液晶だったが、視認性に優れた最新の6.5インチTFTカラー液晶を採用。通常走行向けの「ピュアライド」モードに加え、サーキット向けに3パターンの基本画面を用意する。

新旧S1000RR ライディングポジション比較:身長168cm/体重61kg

BMW S1000RR

【コンパクトで攻めやすく進化】新型は車格もライポジもコンパクト。ハンドルは従来型より手前&幅広で、若干上体が起きる。タンクを包み込んで乗車でき、着座位置の自由度も高い。ステップ位置は後ろで、攻めるライポジとしてバランスがいい。シートが厚いMパッケージなので接地性は両爪先が着く程度だが、通常仕様はより低いはず。

ライバル比較:[vs]DUCATI Panigale V4S

DUCATI PANIGALE V4S

【全体的に過激、対照的な性格だ】V4に新生し、排気量は公道向けの1103cc、驚異の214psを発生する。従来のLツインほどではないが、パワー特性や電子制御がアグレッシブな性格。新機軸尽くしのせいか、バランス面でエンジンが勝ちすぎの感もある。扱いやすく完熟のS1000とは対照的なキャラだ。

ライバル比較:[vs]KAWASAKI Ninja ZX-10RR

KAWASAKI Ninja ZX-10RR

【似た方向性だが、後発が有利?】同じく直4の10Rも素の状態で扱いやすいキャラ。基本的な方向性は似ており、ともに街乗りも楽しめそうなやさしさを持っている。ただ、S1000は後発モデルだけに、馬力もZX-10RR比で3ps上回り、シフトカムも搭載。トータルでの完成度がより高い印象だ。

マシン解説:外観も中身も大胆刷新! 5代目は入魂の次世代機

’09年に日本車キラーとしてデビュー以来、細やかに熟成を重ねてきたS1000RR。5世代目の’19年型にして初の完全新設計を敢行した。

 心臓部は、軽量&コンパクト化を促進しつつ、低中速トルクと高回転パワーを両立するシフトカムを導入。シャーシは、エンジンの周囲をタイトに包むフレックスフレームにより、軽量化とスリム化に成功した。スタイリングも一新。従来の左右非対称顔からシンメトリーとなり、空力性能を向上した、低く構えたフォルムに。4輪でおなじみスポーツ仕様の称号「M」を冠した「Mパッケージ」は、カーボンホイールや軽量バッテリーなどで直4最軽量の193.5kgを達成した上級版だ。

完全新設計で、11kg軽量化!

BMW S1000RR

’18年までの特別仕様車「HP」ブランドにあしらわれていた赤×青×白のトリコロールカラーは、新たに「M」の名を冠した新型においても継承された。

BMW S1000RR

新型のカウリングは空力の改善を反映した結果、よりなめらかで流線的に。ホイール間に詰まった各部品のコンパクト感は、運動性能を追った機能美だ。

BMW S1000RR

小さく、左右対称となったフロントフェイスは、サーキットでの走行を前提とした合理性の賜物だ。LEDライトを採用した目つきは、鋭く現代的に進化。

BMW S1000RR

テールランプをLEDウインカー兼用とすることで、リヤビューはより細く、スリムに。シリーズ内で最もスポーティーなシルエットへと仕上がった。

BMW S1000RR

[新S1000RR]新作のアルミ製ストレッチフレームは、エンジンを積極的に剛性メンバーとして活用する構造。単体で1.3kg減に成功した。キャスターは0.4度立て、トレール量は2.6mm減。軸距は+9mmとし、敏捷性やフィードバックの向上を狙った。

BMW S1000RR 2009

[旧S1000RR]見比べると新型の凝縮感がよくわかる。旧型のフレームは太く直線的で、典型的なツインスパー構造。ニーグリップ部が幅広く、新型より13~30mm太い。リヤサスのリンクは下部だが、新型では上部リンクとし、バネ下で300g軽量に。

軽量小型化に加え、8ps増で戦闘力アップ

BMW S1000RR

完全新設計の直4は、シフトカムを投入しながら、各部の入念な肉厚調整などにより単体で4kg軽量化。クランクシャフト幅を詰め、オイルパンをより低くするなど小型化も促進した。市販バイクで世界初となった中空チタン切削の吸気バルブは継続採用。高回転化に対応するDLCコート済みのフィンガーフォロワーアームは25%(8~11g)軽量化し、レブリミットを従来比+400rpmの1万4600rpmに高めた。ボア×ストローク=80×49.7mmは前作を踏襲しつつ、圧縮比を13→13.3にアップ。8ps増の207psをマークしている。

シフトカムは効果絶大

BMW S1000RR

吸気側バルブタイミングに加え、リフト量まで可変させるシフトカムが新型の目玉。吸気カムシャフトに低速および高速側の2つのプロファイルを設け、9000rpmを境にわずか0.01秒でカムを切り替える。これにより低速側では穏やかなレスポンスと幅広く太いトルクを実現。高速側でピークパワーの向上が可能になった。さらに排ガスや騒音まで削減し、燃費は従来型から4%向上。メリット尽くめのメカだ。

BMW S1000RR

パワーカーブ(赤線)は、ほぼ谷がなく、直線的。最高出力は従来比で8ps上乗せした。トルク(青線)は5500~1万4500回転の広範囲で100Nm(9.8kg-m)超を発生。驚異的なトルクバンドだ。

BMW S1000RR

カムシャフト上部の2か所に、可変操作を行う電動式アクチュエーター装備。9000rpm以降で吸気側カムのミゾにピンを突き出し、カムシャフトをスライドさせることで、高速側のカムに切り替わる。

BMW S1000RR

足まわりは軽量化に主眼を置いた。倒立Fフォークはφ46→45mmと小径化し、従来より300g軽量に。フロントブレーキキャリパーは、ブレンボから米国のHAYES製対向4ポットに変更。4.5mm厚のφ320mmダブルディスクと組み合わせ、500gの削減に成功した。オプションの電サス=DDCは、機械的なシムも採用し、従来型より最大限の減衰力を追求している。

BMW S1000RR

新フレームの賜物でタンクがコンパクトになったコクピット。スクリーンも従来より低い。ハンドルはトップブリッジを横から挟み込む斬新なタイプに変更され、左手元のハンドルスイッチにマルチコントローラーを追加。様々な電子デバイスの設定をイージーに行える。車両の挙動をセンシングする6軸IMU(姿勢センサー)も新作だ。

BMW S1000RR

Mパッケージは軽量なカーボンホイールを装備。ハンドリングに加え、ブレーキ性能も向上する。レースパッケージでは鍛造アルミ、STDは鋳造で従来比1.6kg軽量となった。オプションでカーボンフェンダーも用意。

BMW S1000RR

LEDフロントウインカーは、別体式からミラー埋め込み式とし、周囲からの被視認性を向上。サーキット走行で保安部品を外す際も手間要らずだ。新機能として、ウインカーのオートキャンセルも採用した。

BMW S1000RR

ヘッドライトはついに左右対称デザインに。LED化でユニットが小型になり、低くコンパクトな顔に変貌した。より大胆なT字型センターダクトと下部を縁取るライン発光のU字型デイライトが、見る者に強烈な印象を残す。

BMW S1000RR

新作のステンレス製エキゾーストは、パワーアップに貢献。板厚を0.5~0.8mm薄くすることで従来から1.3㎏のダイエットにも成功した。

BMW S1000RR

三元触媒×2をスイングアームピボット下に備え、サイレンサーはよりショート&丸みを帯びたデザインとなった。

BMW S1000RR

シートカウルはスリム&コンパクトに。テールランプはウインカーと一体式だ。写真はMパッケージのスポーツシートで、硬く厚みのあるクッションを採用。後席のシートカバーはオプションだ。

BMW S1000RR

SBKでおなじみの逆トラス型スイングアームを新開発。一体鋳造と細身のパイプにより300g軽量化したほか、エンジンからリヤショックを遠ざけることでダンパーが熱の影響を受けにくくなった。まさにレースを見据えた設計だ。さらにMパッケージではピボット位置の可変と車高調整も可能。

S1000RR Mパッケージ(STD)■全長2073 全幅848 全高1151 軸距1441 シート高824(各mm) 車重193.5㎏(197㎏)■水冷4スト並列4気筒 DOHC4バルブ 999cc 207ps/13500rpm 11.5kg-m/11000rpm 変速機6段 燃料タンク容量16.5L■キャスター/トレール23.1度/93.9mm ブレーキF=ダブルディスク R=ディスク タイヤサイズF=120/70ZR17 R=190/55ZR17 ●価格:267万7000円(約227万円)

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丸山 浩

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「全国2000万人のヤングマシン読者諸君!」の呼びかけでおなじみのヤングマシン誌メインテスター。レーシングライダー出身だがユーザーである一般ライダーの目線を忘れない。