海外専用だった初代の登場から20年間で大きく変更されたのは一度だけ。にもかかわらず、日本で根強い人気を誇るのがスズキのハヤブサ。最高速というキーワードが封印されて以降も、その翼はもがれなかった。スポーツモデルとしては稀有なロングセラーは、いまも飛翔し続ける。
TEXT:Toru TAMIYA PHOTO:Satoshi MAYUMI
大らかさとどう猛さを併せ持つ、世紀の名車
いつの時代も、モーターサイクルの進化はスピードの追求と密接に結びついてきたが、平成における量産市販バイク史は、まさに最高速の夢と一緒に幕を開けた。平成元年の秋に、カワサキが先陣を切ってZZR1100を発表。平成8年に、ホンダがCBR1100XXスーパーブラックバードで追従を図った。そしてその3年後、1台のスズキ車が世界を震撼させた。GSX1300Rハヤブサと名乗ったこの初代ハヤブサは、一般量販市販車のストック状態で実測300km/h超という大台を、ついに超えてみせた。
しかしその翌年に、カワサキがニンジャZX-12Rを発売したころから、欧州では過激さを増すバイクの最高速競争に対して厳しい目が向けられるようになる。そして’01年型(つまり平成12年型)から、いわゆる299km/h規制がスタート。ハヤブサは、「実測サンビャクの世界が見られるバイク」の称号を失うことになった。
それでもハヤブサは、平成の時代において輝きを曇らせることはなかった。平成20年には、10年目にして初のモデルチェンジを受けて第二世代に進化。そこからさらに10年以上、スズキを象徴するモデルの1台となってきた。
日本や欧米などではライダーの高齢化が進み、無謀で過激すぎる走りをするユーザーの率は大きく減少した。にもかかわらず、かつてサンビャクという刺激的な数字でライダーを惹きつけたハヤブサが現在も人気を集めるのは、このバイクに数字では表せない魅力が備わっているからに他ならない。
搭載する大排気量4気筒エンジンは、低回転域トルクに余裕がある一方で、扱いやすいスロットルレスポンスやクラッチフィーリングも備えている。基本部を初代から受け継いだアルミ製フレームを使用する車体は、威風堂々としたボリュームとウエイトがあり、誇らしげに乗れるが、じつは素直なハンドリングと適度なスポーツ性を備えていて気難しくない。肉食の猛きん類を名乗るこのモデルは、過激なイメージの裏側に優しさも持っているのだ。
しかし、ただ優しいだけのツマラナイ相手ではない。3モードのS-DMSで出力特性が切り替えられ、ABSも搭載するが、平成が終わるこの時代に、197馬力もあるのにトラクションコントロールシステムを搭載しないスパルタンさ。ヤワなライダーでは太刀打ちできない危険な香りもまとう。どこかザラッとしたフィーリングがあるエンジンは、精密機器のようなGSX-R1000Rとは路線が異なり、ゆったり市街地を流していても、例えばアメリカンマッスルカーのような、どう猛な雰囲気と底力感を漂わせる。
初代が登場したころなら、「ゆっくり走るならハヤブサでなくても……」と言われたかもしれないが、そんな時代は過ぎ去り、令和となればハヤブサでゆったりクルージングすることは優雅の極みと認識されるかもしれない。「本当は、スロットルをガバ開けしたらこのバイク、スゴいんだぜ。オトナだからやらないけど」と、ヘルメットの中で呟きながら走る快感。じつはこれも、ハヤブサの魅力である。
それと同時に、エンジンと車格に余裕があり、フルカウルを装備し、タンデムシートスペースが大きめなハヤブサには、やや前傾姿勢がキツめとはいえ、ロングツアラーとしての資質も十分に備わっている。これもまた、ハヤブサが支持を集め続ける要因だろう。
不朽の名車、ハヤブサ(HAYABUSA)
12年目でも色あせない現行型。スズキは来年、創立100周年を迎える。ハヤブサはこれまで、スズキを代表する機種となってきた。社長も開発を明言しているだけに、2020年に新型が登場する可能性は高そうだ。
2019モデルはどうなる?
国内仕様は生産が終了され、店頭在庫のみ新車購入できる。排ガス規制の関係により欧州でも正規販売は休止されているが、規制が異なる北米では新色をまとった’19年型が発表済み。日本ではモトマップが’18年型カナダ仕様を販売してきたが、’19年型も期待できそうだ。
ハヤブサ・スペシャルギャラリー
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