毎年1月初旬にアメリカのラスベガスで開催される世界最大規模の家電見本市、コンシューマー・エレクトロニクス・ショー(通称:CES)。2019年の展示内容として、通信モジュールとHUD(ヘッドアップディスプレイ)やカメラを搭載した”スマートヘルメット”の出展が目立っていた。そして日本市場でも、ヘルメットメーカーであるSHOEIが動き出したことで、スマートヘルメットがグッと現実味を帯びてきた。
●文:八百山ゆーすけ
スマホやバイクの情報が視界の中に浮かび上がる
毎年1月初旬にアメリカのラスベガスで開催されるコンシューマー・エレクトロニクス・ショー(通称:CES)。世界最大規模の家電見本市だが、最近では自動運転技術の進化や電動化の流れを受けて、世界各国の自動車メーカーもこぞって出展している。さらに2017年にはホンダが「ホンダ・ライディング・アシスト」を、2018年にはヤマハが「モトロイド」を出展するなど、二輪車の業界からも一目置かれる展示会となっている。
そんなCESだが、今年は”スマートヘルメット”の出展が目立った。スマートヘルメットとは、通信モジュールとHUD(ヘッドアップディスプレイ)やカメラを搭載したヘルメットのこと。バイクやスマートフォンと無線で接続し、そこから得た情報やカメラの映像をHUDに表示したり、ヘルメットに内蔵したスピーカーで音声を聞いたりすることで、ライディングをもっと快適に、そして安全にしてくれるという近未来のヘルメットだ。
ここ数年、こうしたスマートヘルメットを製作するベンチャー企業が次々と登場し、CESでもスマートヘルメットの出展が見られるようになっている。そして今年のCESにはなんと、あのSHOEIと日本のHUDメーカーがコラボしたヘルメットがついに登場した。これまではITベンチャーが作るヘルメットということで、日本市場ではなかなか製品として実現する可能性が薄かったが、ヘルメットメーカーであるSHOEIが動き出したことで、スマートヘルメットがグッと現実味を帯びてきたわけだ。
SHOEIとNSウエストが共同開発したバイク用スマートヘルメット:IT-HL
重量は+260gの増加のみ。視界も違和感はほぼない
自動車向けメーターセットやHUDを製造するNSウエストとSHOEIが共同開発したスマートヘルメットが「IT‐HL(仮称)」だ。ヘルメットに通信機能を持たせ、スマートフォンと通信することで、アプリの情報をHUDに表示させるというもの。右目の前に設置されたスクリーンに情報を表示するコンバイナー式で、視覚上の焦点は数m先にあり、視線や焦点の移動が少ないのが大きなメリットだ。
自動車用HUDでは実績のあるNSウエストではあるが二輪車用となるとノウハウがない。そこで日本を代表するヘルメットメーカーであるSHOEIに開発を相談したところ、同社が関心を示し、共同で開発することとなった。3年前に始まった開発は、毎週のように両社でミーティングを重ねながら進んでいるという。今現在、製品化についての発表はないが、目標はあくまでも量産で、電子部品はほぼ完成しているといい、現在はもっぱら量産のための開発を行っているという。
開発にあたっては何より安全性を優先した上で、ライダーの頭の動きに影響しにくいように軽さを追求。回路部品やバッテリーなども含めてもわずか260gの増加に抑えているという。材質はポリカーボネート製で万が一の転倒時でも、ライダーに危害を加えにくくなっている。また、情報も表示する/しない/どのタイミングで出すかなど、二輪車用ということを考慮して、シンプルなものとしている。
最小限の情報表示で違和感なく使える【CESの会場で実際にかぶってみた】
CESのNSウエストブースでは、IT-HLをかぶってMT-07にまたがり、前方のスクリーンに投影された景色を見ながら走行状態をシミュレーションすることができた。
上の写真にあるように、右目の前にあるHUDがヘルメットの脱着時に気になりそうなものだが、かぶってみるとまったく気にならないのが意外だ。装着後にHUDの高さと距離を調整して電源を入れると表示が現れる。HUDはとても輝度が高く、見やすい。また、表示の内容がシンプルなので、目の前に情報が表示されていてもあまり気にならない。HUDが付いたその外観から違和感があるかと思いきや、意外なまでに自然と使えるのが印象的だった。
今回のCESはNSウエストが出展した形で、SHOEIからはこの製品についてのアナウンスはいっさいない。ただし、NSウエストによると走行テストもすでに始まっていて、日米欧の安全規格をクリアするレベルに仕上がっているとのことで、最終評価と量産準備を経て、2020年春の発売を目指しているという。気になる価格は、ヘルメットの価格が6万円前後する前提で、十数万円程度になりそうだ。
これまでおもにベンチャー企業などが手がけてきたスマートヘルメット。しかしここにきてHUDメーカーのNSウエストやSHOEIが動きだしたところからも、スマートヘルメットが身近なものになる日は近い!?
続々と登場するスマートヘルメットが今アツい
手持ちのヘルメットに後付できるHUDユニット:XHD-02 KAIKEN
車載用HUDで世界のトップシェアを誇るジャパンディスプレイ(JDI)は、ヘルメットのシールドに取り付けられるHUD搭載外付けユニットの「XHD-02 KAIKEN」をCESに出展。HUDを含むユニットをシールドの外側に貼り付けて使うというもので、着脱式とすることで様々なヘルメットで利用できるのが特徴だ。機能や仕様は今回公開されていないが、2019年度中の発売を予定している。
後方カメラの映像も見られる:CrossHelmet X1
日本のベンチャー企業「Borderless」が開発中のスマートヘルメット「X1」は、スマホの情報を表示するだけでなく、帽体後方に付いたカメラの映像も表示して360度の視界を実現。インカムを内蔵するほか、外部のノイズを低減する機能も搭載している。2019年中には日本の規格も取得し発売される予定だ。
ドラレコ内蔵の外付けユニット:ARGON Transform
シンガポールのWhyre 社が開発している「ARGON Transform」は、外付けのHUDユニット。ヘルメットの前後に取り付けるユニットにはそれぞれカメラが付いていて、後方カメラの映像がHUDで見られるだけでなく、前方カメラはドラレコとしても機能する。Bluetoothでスマートフォンと接続が可能だ。
日本の展示会にもヘルメット用HUDが上陸:Mono-HUD
1月16日から東京ビッグサイトで開催されたウェアラブルEXPOでも、一般用ヘルメット向けHUDが出展されていた。この台湾のYOUNG Optics社のMono-HUDは、ヘルメットに取り付けて使えるHUDで、今後バイク用も手がけていくという。同社は小型のHUDで高い技術を持っていて、BMWが2016年のCESで発表したHUD付きヘルメットのプロトタイプ(下写真左)に使われたHUDもYOUNG Optics社のものだ。
●取材:Tom INOKAWA(himanainu.inc)
※ヤングマシン2019年3月号掲載記事をベースに再構成
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