元WSSチャンピオンのチャズ・デイビスは、この5年間、ドゥカティのファクトリーチームでVツインのパニガーレRに乗り、2015年、’17年、’18年に選手権の2位を獲得した。だが、ますます速くパワフルになる4気筒と2気筒マシンで戦う苦しい仕事は終わった。’19年の新シーズンにパニガーレV4Rで戦う期待を聞いた。
●インタビュアー:Robert Fawsett ●翻訳:中村恭一
※ヤングマシン’19年2月号に掲載した記事を再構成したものです
レースをできるバイクがこれで手に入った
ヤングマシン(以下YM)──だいぶ長いあいだ待たされたが、ついにV4Rに乗ってどうだったか。
チャズ・デイビス(以下CD)──笑いが止まらなかった。シーズンの始めに乗りたかったが、いろいろな理由でできなかった。その後に怪我もしたしね。だが、11月の始めにアラゴンのテストでやっと乗れたときは、顔がほころびっぱなしだった。最初のテストの感想は、「レースをできるバイクがこれで手に入った」だったと思う。
YM──Vツインは、(タイトルを獲った)カワサキと比べてどこが劣っていたのか。
CD──どこかひとつが悪かったのではない。加速とかブレーキングだったとかいうのではなく、結局、あちこちが少しずつ良くなかったのだ。3年前までは対等の力だった。だがこの2年間は、本当に何か新しいものが必要なのが明らかだった。だからV4の登場は完璧なタイミングだ。
YM──かろうじて戦える状態を維持するために、Vツインを乗り潰さなければならなかったように見えた。
CD──たぶんそれが当たっていると思う。パッケージをすべてを正しくできて、それが状況にぴったりはまっていたときはそうではなく、そういうときは多少のマージンで勝てた。だが選手権を戦うには、どのレースでもそれが必要だ。われわれには間違いなくそれがなかった。結局、一貫したものを見つけるのは困難だったのだ。
YM──V4RのもとになったMotoGPレーサーのデスモセディチで実際にレースに出た経験からみて、V4Rはどうか。
CD──デスモセディチには’07年のレースで何回か乗って、昨年、ムジェロで現行マシンをテストした。だから、そう、この形態には少し経験がある。だが、’07年に乗ったのは800だったので、パワー特性がぜんぜん違う。V4Rのパワーカーブはずっとリニアだ。800はとてもピーキーだったが、V4Rはもっと乗りやすい。
YM──V4のライディングには、白紙から始めなければならなかったのではないか?
CD──その通りだ。ライディングスタイルを少し変えなければならないと思う。もちろん、できるだけ自分の長所になるようにまだ適応中だ。それから弱点を克服していく。
YM──長所はどこか。
CD──ブレーキングとコーナー中盤の進入だと思う。Vツインではいつも、ここがシャーシを働かせるエリアだった。最大バンクでのフロントのフィーリングに、とても敏感にならなければならない。フロントフォークの伸びを本当にコントロールするために、フロントブレーキを使うのだ。人さし指でサスペンションの任務の一部を引き受けるような感じだ。だがV4だと、その必要性はずっと少ないように感じる。フロントの接地感が高くて、よいフィーリングが得られるのだ。
YM──弱点は?
CD──Vツインではたぶんコーナーの進入だった、とくにタイヤの開発が進んでいった方向では……。このバイクは、スタンダードモデルのような、少し短いホイールベースで走る必要があるように感じる。エンジンの長さのせいだ。ターンインを改善することだけはできるだろう。だがもちろん、ホイールベースが短いとウイリーが増える。それに対処するためにウイングが付いたけどね。V4には、ドゥカティにとって間違いなく正しい方向へのステップだと感じられるものがたくさんある。テストで3日間乗ったが、今の時点では逆戻りしているようなものがあるとは思えない。これはとてもよいことだ。
ウイングのアドバンテージは高速コーナーで感じられる
YM──ウイング付きのバイクは初めてだと思うが、何か気になることは?
CD──ドゥカティは、ウイングにはあらゆるエリアでアドバンテージがあると自信を持っている。フロントのフィーリングの向上やウイリーの抑制のためだけでなく、フロントのグリップ、とくに速いコーナーでアドバンテージがある。比較してもあまり役には立たないと思うが、今まで乗ったバイクとの違いは感じられる。その理由のいくつかは、ウイングの効果と思いたい。
BMWはピーキーだったがドゥカティは乗りやすい
YM─エンジンはピーキーなのか? 高回転まで回さなければならないのか?
CD──とうぜん非常に高回転まで回るし、回りたがる。BMWの4気筒の後にドゥカティの2気筒に乗ったとき、最初の数ラップはレブリミッターにぶち当たって、ウインドスクリーンにヘルメットをぶつけていた。5年ほどツインで過ごした後でV4に乗ると、最初の2ラップは4000rpm早くショートシフトしていた。だからV4に乗るのは、5年前に戻って自分の反応をプログラムしなおすようなものだった。だが、すぐに適応できた。ドゥカティのV4は本当によく回るし、高回転域まで本当に激しく加速する。初めて乗って、レブカウンターが17000rpmまで上がるのを見たときは気持ちよかった。長い間、Vツインの12000rpmに慣れていたからね。
V4は高回転域まで激しく加速する
YM──’12年に乗ったアプリリアのV4と比べてどう違うのか。
CD──あれはずいぶん昔のことで、スーパーバイクとしての時代が完全に違う。タイヤも何もかも違っていた。だが、エンジンの基本には、6年前に憶えていたものにあるていど馴染みがある。非常に独特なV4のキャラクターはすべて持っているが、他の多くの点ではもっとずっと進んでいるリファインされたパッケージだ。
YM──2気筒と4気筒を混ぜ合わせたようなものか。
CD──そうだと思う。たぶんそれが的を得ているだろう。よく回るが、同時にトラクター的なパワーがある。2気筒的な力はないが、よい妥協をしていると思う。ドゥカティコルセは理想的なエンジン形態について、そうとう研究したと思う。
YM──BMWのS1000RRよりも融通が利く寛容なバイクか。
CD──それは間違いない。BMWは乗りこなすのが大変だった。電子制御をうまく働かせるのが難しかった。それにとてもピーキーだった。このドゥカティは違う。はるかに乗りやすい。
YM──タイトコーナーではどこまで回転を落とすのか。
CD──いちばん落として8500rpmくらいだ。普通は16000rpmでシフトするから、レンジがとても広い。プログレッシブな開発でよい冬が過ごせるのを本当に楽しみにしている。あまりたくさんの大きな変更をせずに、ステップを踏んでバイクを理解するのだ。テストチームは努力をしてきたが、いまや次のレベルに進むときだ。フィリップアイランドのレースまでにあと6日間のテストができると思う。だから、開発の方向に関してはっきりしたアイディアが持てるだろう。
YM──MotoGPでドゥカティに乗っていたアルバロ・バウティスタが新しいチームメイトになったが、情報などは交換するのか。メランドリのときとは違った関係なのか。
CD──情報はまだそれほど交換していない。だが、データを比較する余地は常にある。ある日、「間髪をいれずにスーパーバイクを乗りこなしたアルバロに驚いたか」と聞かれた。正直な答えはノーだ。私と彼の学習曲線のどっちがシャープなのか、よくわからないからね。私にとっては、ピレリを履いていること以外、このバイクにVツインとの類似性はない。アルバロにとっては、タイヤ剛性の少ないバイクに乗るのを学ぶことになるだろう。だが、エンジンのキャラクターは彼が馴染んできたものにずっと近いと思う。スロットルへのリニアな反応なども、私が乗っていたものよりも、彼が乗っていたものにはるかに近い。エンジンの形態や、V4Rの電子制御マッピングは、彼が乗っていた2年前のGPマシンから来たものだからね。だから、いくつかの点で彼の学習曲線はシャープだと思う。慣れなければならないのはタイヤだけだ。二人ともテーブルに載せられるものがあると思う。これまでのところ、とくに本当に重要なパーツに関しての意見は同じ方向を指している。だから重要なものについては、われわれは同意見だ。いいことだよ、これは。
ついに登場したレース仕様は驚異のスペックで他を圧倒
2018年モデルで1103ccのパニガーレV4/Sが発売となった新型スーパーバイク。それに遅れること1年、ついにレース規則に適合した998cc仕様が発表となり、サーキットを走り出した。価格は3万9900ユーロ(※欧州価格/日本での価格は455万円と発表)で、これはSBKのホモロゲ―ション車両の上限価格である4万ユーロに合わせたもの。その範囲で最大限に戦闘力を高めた結果が221psのエンジンとウイング付きのカウル、専用シャーシとなる。一方、V4Sで採用されているセミアクティブサスが、機械調整式に改められるのもRならではだ。尚、12月のリリースで、新たにSTM製の乾式クラッチの採用が追加発表された。
このバイクに関連する記事/リンク
ドゥカティは2019年モデルの価格を発表した。日本への導入時期について確定情報はないが、注目のパニガーレV4R(221馬力/レーシングキットで234馬力)は初夏~夏ごろの入荷が見込まれる。ほかにもディ[…]
2018年に全世界で5万3004台のモーターサイクルを販売したドゥカティは、これによって2015年以来、4年連続で年間5万台以上のモーターサイクル販売を達成。このうちパニガーレファミリーは、マーケット[…]