2018年4月のフルモデルチェンジで3代目へと進化したホンダPCXシリーズに、量産二輪車として世界初となるハイブリッドタイプが新たにラインナップされた。排気量は原二枠の125ccで、これは日本専用車となる。果たしてベース車両の純ガソリン車とはどのような違いがあるのか? 後編の本稿では、PCXハイブリッドと純ガソリンタイプとの性能比較と開発者インタビューをお届けする。
〈ホンダPCXハイブリッドは純ガソリン車とココが違う#1/2:試乗インプレッション編はこちら〉
初の2輪ハイブリッド車
48Vリチウムイオンバッテリーをエネルギー源とし、ACGスターター&アシストモーターを駆動してエンジンをアシストする。加速中以外は常にACGモーターが発電し、PDUを介してリチウムイオンバッテリーが充電される。
2車身差が付く発進加速
モーターのアシストトルクは4000rpmで約33%、5000rpmで約22%アップとなる。0→50mの発進加速では約4m、およそ2車身分の差が付くことに。なお、スロットル全開でのトルクピークはD/Sモードとも同じとなる。
3爆発目でクラッチミート
停車からスロットルを開けてクラッチミートするまでに、エンジン車でおよそ4回爆発していたのに対し、アシストが加わるハイブリッドでは3回に短縮できた。これによりダイレクトな発進フィーリングを実現している。
4秒間のモーターアシスト
実際の使われ方を想定し、アシスト時間は約4秒間に設定。このうち最初の3秒間は最大トルクを維持し、残りの1秒間で徐減させる仕様とされる。DとSモードの違いはスロットル低〜中開度域でのアシストトルク量だ。
0-60㎞/h加速で1秒の差が!
公平を期すためにスロットル全開固定でテストを実施。ハイブリッド(走行モードはSを使用)は体感的にも、またタイムの上でも圧勝だった。4秒ごとにスロットルを操作すればさらに差は開いただろう。
ライディングポジション
764mmというシート高をはじめ、ライポジを構成するパーツに変更はない。足着き性はご覧の通り良好で、車重は5kg増えているが、体感できないレベルだ(身長:175cm/体重:62kg)
細かい仕様にも違いアリ
開発者インタビュー「PCXらしさを守りつつ普及させることが使命」
ヤングマシン編集部(YM):量産2輪車では世界初となるハイブリッドシステム。最初からPCXで開発を進めていたのでしょうか?
開発責任者・大森純平氏:そうですね。小排気量車はそもそも駆動力が小さいので、モーターによるアシストの恩恵が得やすいですから。それと、先進性というイメージからもPCXが最適だと考えました。
YM:ハイブリッドというと大きなバッテリーを積むので重くなり、また収納スペースも狭くなってしまうような印象がありました。ところが、わずか5kgしか重くなっていないし、ちゃんどフルフェイスも収納できますね。
大森:2輪車としての利便性、使い勝手だけは絶対に落としたくなかったんです。重量に上限のないハイブリッド化は技術的に難しくない。でも、取り回しが重いという理由で乗っていただけなくなるのは本末転倒ですから。
YM:そうすると、バッテリーのサイズ選定はかなり苦労されたのでは?
大森:おっしゃるとおりです。技術的には常時アシストすることも可能なんですが、その要件を満たすバッテリーとなると非常に大きなものになってしまう。そこで、市場調査を重ねて必要十分なアシストの時間を吟味し、このPCXでは約4秒に設定しました。
YM:モーターのアシスト特性がSとDに切り替えられます。この二つのモードは印象がだいぶ異なりますね。
大森:当初はモード切り替えの設定を盛り込んでいませんでした。ところが開発を進めていくうちに、リラックスして走りたいシーンでアシストが強すぎると感じることがあり、使い勝手を損ねない自然なフィーリングのDモードを選べるようにしました。全開時のアシストトルクは同じですが、低〜中開度域でだいぶ差を付けています。
YM:そういう意味でもアシストのセッティングには苦労されたのでは?
大森:大変でしたね。例えばアシスト時間とトルクの関係です。4秒間フルにアシストしてスパッと止めてしまうと、そこですごく違和感が出る。それを解消するために最後の1秒でトルクを徐減させるようにしました。回生量も同様で、充電のことを考えるとできるだけ増やしたいのですが、そうするとエンブレが強く発生してギクシャクしてしまう。そうした違和感をできるだけ出ないように作り込みました。
YM:海外ではPCXハイブリッドは150がベースですけど、125のハイブリッドは日本だけでしょうか?
大森:はい、日本専用です。免許制度や任意保険の関係から、国内の原付二種の枠に収めるのはマストでした。
フルEV版がまもなく発表?
今秋の発表が予想されているフル電動のエレクトリック。定格0.98kWのモーターを採用した完全新規の駆動系で、カートリッジ式の48Vリチウムイオンバッテリーをシート下に2個搭載。
全長×全幅×全高:1925×745×1105mm
ホイールベース:1315mm
シート高:764mm
重量:135kg[130kg]
エンジン形式:水冷4スト単気筒OHC2バルブ
排気量:124cc
最高出力:12ps/8500rpm
最大トルク:1.2kg-m/5000rpm
モーター最大出力:1.9ps/3000rpm[ー]
モーター最大トルク:0.44kg-m/3000rpm[ー]
燃費(WMTCモード):51.9km/L[50.7km/L]
タンク容量:8.0L
トランク容量:23L[28L]
ブレーキ形式:ディスク/ドラム
タイヤ前/後:100/80-14/120/70-14
価格:43万2000円[34万2360円]
●写真:真弓 悟史
※『ヤングマシン2018年10月号』掲載記事をベースに再構成