人気のMTシリーズとライバルを比較試乗する当コーナー。今回のカードは、手頃かつパワフルな600cc+αの排気量を持つ2台だ。同じ並列2気筒を積み、価格帯も同等とあって、ガチ対決が予想されるが、果たして!?
ともに従順だが、よりMTは鋭く、Zは気軽
扱いやすいビッグバイクと言えば、一昔前は600㏄が主流だったが、現在ではモアパワーを求め、排気量をチョイ乗せしたクラスが人気だ。中でもMT-07は、’14年の登場以来、高い人気を維持し続けている。’18年型では、より力強いイメージのヘッドライトでMTシリーズの共通性を強調しつつ、バネレートと減衰力を高めた前後サスペンションを採用。一段とスポーティな領域を拡大した。
またがると、引き締まったサスと着座面を拡大したシート幅により、若干腰高になった印象。とはいえ、両足親指の付け根がしっかり着くので、足着きは悪くない。エンジンは、発進や低速時のレスポンスが滑らか。4000〜8000rpmの幅広い回転域でリニアにトルクが発生する。加えて、圧倒的に軽い183㎏の車体と素直なハンドリング、大きなステアリング切れ角により、街中を機敏に駆け抜けることが可能だ。
さらに回転を上げていくとキャラクターが変化していくのが面白い。8000rpm以降ではギュンと伸び上がり、パワーが炸裂。この二面性が大きな魅力となっており、ビギナーもベテランも満足できる所以だ。一方のZ650も扱いやすさでは負けていない。カワサキ伝統の「Z」と言えば、直4を連想するが、このモデルは並列2気筒を搭載。滑らかなMTに対し、中低速域のパルス感とトルクが濃厚だ。サスもしなやかによく動き、やわらかい乗り心地がMTと対照的。ハンドルが近く、コンパクトなライポジと抜群の足着き性も相まって、街乗りでのラクチンさに秀でている。また、クラッチの操作感を軽くするアシスト&スリッパークラッチも威力を発揮。車重はMTより4㎏重いが、走りは軽快で、とにかく疲れにくいのだ。
高速道路では、MTの元気のよさ、Zの落ち着いた走りが際立った。表情豊かなエンジンキャラクターにより移動する楽しさではMT、直進安定性能や乗り心地など快適な巡航性能ならZに軍配が上がる。 MTは、シリーズの中ではやさしいキャラクターだが、同排気量帯のZと比べるとスポーティな部類に入る。非常に扱いやすい2台だが、味付けには明確な差があるのだ。
400cc並みに軽量コンパクトな2台とあって、基本的に街乗りは得意だ。MTは従来型よりスポーティになった印象で、キビキビした走りが楽しめる。大差ではないものの、極低速から穏やか&スムーズなエンジン特性のMTの方が、小回りやUターンは得意だ。 Zは、とにかくラクチン。MTより15㎜低い790㎜のシート高による両足ベッタリの足着き性と足まわりのやわらかい乗り味で、マッタリ街中を流すのが似合う。シートのやさしい座り心地や、軽いクラッチレバーもイージーライドに一役買っている。
奥深さが楽しいMT、ユルさが心地いいZ
ワインディングでは、さらに2台の違いが明らかになった。両方とも気軽にコーナーを駆け回ることが可能だが、速さや面白みならMT、よりイージーに走れるのはZとなる。MTはしっかり締まった足まわりと前輪荷重により、フロントから向きを変えるスーパースポーツ的な旋回性を見せる。スポーティなライポジとのマッチングも抜群で、回頭性が優秀だ。もちろん倒し込みも軽く、ドンツキのないトルク特性と相まって、リカバリー力に優れる。さらに攻めの走りにも対応。刺激的な高回転パワーに加え、サスの限界性能も高く、Zではフロントが暴れ出す場面でもMTなら問題ない。単純に「誰でも乗れるマシン」ではなく、その先の領域が用意されたバイクだ。
Zは正直、「優等生だけど、あまり個性がないかな」と思っていたところ、峠道で評価が変わった。コーナーではリヤから旋回していく、いかにもネイキッドらしい特性で、実に安心。MTは車体の寝かし込みが早く、若干の緊張感があるのに対し、Zは軽快ながらもバンクの速度がMTより穏やかで寝過ぎない。また、手前に引かれたハンドルを使って、荒っぽく豪快に車体をねじ伏せて曲がるなんて芸当も可能。振 動を伴いながら発生する分厚い中間トルクと、6000回転以降の伸び感も峠でハマリ、なかなか迫力があっ ていい。神経質さがなく、懐が広い、昔ながらの「カワサキのビッグバイク」 らしい片鱗が味わえる。
ブレーキに関してもMTはスポーティで、シャープかつ初期タッチから効力を発揮。Zはフロントが片押し2ポットながらコントロールしやすく、トータルでのバランスは良い。絶対的な速さならMT、流しつつ攻めるのにZは向いている。 繰り返しとなるが、2台とも大型クラスの中では抜群に扱いやすく、様々な用途で活躍できる。その中で 方向性が分かれていると捉えてほしい。MT-07はどのステージでもスポーティさを堪能でき、Z650は普段乗りからツーリングまで気負うことなく楽しめるのが美点。上手くキャラクターの棲み分けがなされている2台だ。あとはアナタの使い方と好みで選んで欲しい!
刺激のあるMTとやさしいZ、コスパにも注目
ビギナー向けの大型バイク」という言い方に僕(丸山)は抵抗がある。本当の初心者には250や400がオススメだし、大型2輪免許を取得しているのに、そもそもビギナーなのか? という疑問があるからだ。このクラスを選ぶ際は、今後どんなバイクライフを送るのか、じっくり考えるべき。その方が末永く愛車と過ごせるはずだ。僕なら、MTはスポーティさを求める人やリターンライダーに、Zはステージを問わずイージーに走りたい人に奨めたい。最後に、価格についても触れたい。ETC車載器の有無など装備面の違いはあれど、MTはZより約1万円安いプライスを実現。しかも見せ方や細部にこだわり、クオリティが見事だ。また、スポーティさを求めると装備が高級になり、自然と価格は上昇するものだが、そんなこともない。この価格帯で、よくぞここまで面白いマシン出してくれた、と賞賛を送りたい!
●撮影:山内潤也