似て非なる現代のカフェレーサー

R nineTレーサーとスラクストン1200Rに試乗

水冷に生まれ変わったトライアンフのバーチカルツインシリーズで最もスポーティなスラクストンとBMWのR nineTシリーズに新たに登場したレーサーの2台に試乗。当WEB執筆メンバーの「いち」がレポートする。

スラクストンはもはやクラシックではない

トライアンフの2気筒は2011年3月に乗ったボンネビルT100以来という筆者。しかもその時が初試乗だったが、W800と比較することで特徴をつかむことができた。W800と同じバーチカルツインのネオクラなので同じような乗り味だろうというイメージだったが、W800の旧車然とした乗り味とは対照的に超現代的な走りだったのだ。そしてさらに今回水冷になったスラクストン1200Rに試乗し、ボンネビルT100からの進化に驚いた。最も顕著だったのが速さで、T100の865ccから1200ccになっているから当然だが(水冷バーチカルツインには900ccのシリーズも存在)、パワーバンドの7000rpm付近の加速力はもはやネオクラの趣ではなく、リッター直4モデルくらい強烈だった。シャーシはサスもブレーキも並みのネイキッド以上のR仕様なので、この外観ではあるが位置づけはZ1000やGSX-S1000などと同等レベル?! そんな印象になるくらい”クラッシック”とはかけ離れた印象だった。

2011年に試乗した時の写真。手前がカワサキのW800で奥がボンネビルT100。W800は773ccで48ps/6500rpm、価格は88万円(当時)。ボンネビルT100は865ccで68ps/7500rpm、価格は129万1500円(当時)だった。トライアンフのクラシックとかけ離れた走りはこの頃も同じだ。エンジンはスムーズなフィーリングで、それも水冷モデルに受け継がれている。
バーチカルツインはトライアンフの伝統的なエンジン型式。往時のクランクとミッションが別体式のエンジンを外観で再現するために現代のバーチカルツインシリーズは軸を1本増やして右側にドライブチェーンを配置する構造としている。水冷なのにフィンを刻んだエンジンやキャブの外観を持つFIなどディテールの作り込みは他の追随を許さない念の入れようだ。最新モデルにクラシックの演出を外観で隙なく与えているのだ。

R nineTレーサーは旧車的な走り

前世代の空冷ボクサーツインを搭載するR nineTシリーズに新登場したロケットカウル搭載のレーサーは、スラクストン1200Rとは異なり走りは旧車然とした雰囲気を残している。その味付けは柔らかいサスに感じられ、倒立フォークを採用しているR nineTにはなかったものだ。S1000RR譲りのサスを採用していたR nineTは、見た目のクラシックさとは裏腹にハイパーネイキッドといった印象だったが、柔らかい正立サスのレーサーは方向性を変えてきている。おまけに、長い燃料タンクと低いハンドルバーの組み合わせで’60~’70年代のライディングポジションを再現しており、これも気分を盛り上げてくれる。

ライダーが跨ったイメージ。実際に跨ると写真以上に前傾がきつく、ハンドルが遠く、ステップが後ろに感じられる。なので街乗りはあまりお勧めできないが、ワインディングでは気持ちよく走れそうだ。一方、スラクストンのライポジは外観からイメージするより前傾はきつくなく、街乗りも余裕だ。
BMWの創業90周年記念本より。上の右がBMWボクサーツインの元祖でサイドバルブを採用。左は最新鋭の水冷DOHCのボクサーツイン。その下は1994年に登場した空冷4バルブボクサー。R nineTはこれの最終仕様を搭載しており、フィーリングは往年のボクサーの雰囲気も感じられるものだ。ちなみにこの機体は、元々航空機エンジンを生産していたBMWのルーツを表現している。

【Triumph THRUXTON1200R 価格:180万円】
主要諸元■全幅745 全高1030 軸距1415 シート高810(各mm) 車重223㎏■水冷4スト並列2気筒OHC4バルブ1200cc 97ps/6750rpm 11.4㎏-m/4950rpm 変速機5段リターン 燃料タンク容量14L■タイヤF=120/70ZR17 R=160/60ZR17

【BMW R nineT Racer 価格:189万6000円】
主要諸元■全長2105 全幅770 全高1125 軸距1490 シート高805(各mm) 車重218㎏■空冷4スト水平対向2気筒DOHC4バルブ1169cc 110ps/7750rpm 11.8㎏-m/6000rpm 変速機6段リターン 燃料タンク容量17L■タイヤF=120/70ZR17 R=180/55ZR17